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ねぇ、何に怯えてるの?

なんでのっちには何も話してくれないの?

ゆかちゃんの不安を全て取り除くことはできないかもしれないけど、

一緒に背負ってあげることくらいはできるよ?


のっち、そんなに頼りないかな。

ゆかちゃんの為ならなんだってする覚悟はあるのに。

ゆかちゃんを受け止めてあげるのは、のっちじゃダメなの?


「ホント、ゆかちゃんって小悪魔だよねー」

小悪魔すぎて困っちゃうよ。

どれだけのっちを魅了すれば気が済むの?

いっつも大人で余裕があって、のっちを振り回してさ。


でも、その“小悪魔”は作り物なんだよね。

ゆかちゃんの奥底にある“何か”を隠すための、仮面。

なんで無理するの?


やっぱり、のっちじゃダメ?


あれ、

そういえばゆかちゃんの返事がない。

「?」

不思議に思ってゆかちゃんを見ると、ゆかちゃんは難しい顔して考えごと。

まるでのっちが見えてないみたい。

…のっちと話してたのに。

どうしてのっちを見てくれないの?

どうしてのっちの前ではその仮面を外してくれないの?


ねぇ、どうして?


のっちのこと、嫌い?

のっちはこんなにもゆかちゃんのことが好きなのに。

好きすぎて、苦しいよ。


「……ゅかちゃん、ゆかちゃん?」

「え?あ、ごめん…」

数回名前を呼ぶと、やっと意識がこっちに戻ってきたみたい。

「もう、また何か考えてたの?」

からかうように笑って言うと、ゆかちゃんは苦しそうに笑った。

ねぇ、ゆかちゃん。

ちゃんと笑えてるつもりかもしれないけど、笑えてないよ?

「ん…、ちょっと、ね」

ほら、いつもそうやって曖昧な笑顔で言葉を濁す。


無理して笑わないでよ。

苦しいなら苦しい、って言ってよ。

そしたらのっちが、その苦しみを背負ってあげるのに。

大好きがあなたが苦しんでるのが分かるのに、何もできないのが悔しいよ。


だから、

分かってるのに見過ごすなんて、もう耐えられない。





「……ゆかちゃん、のっちの前で無理しないでよ」

「え…?」

ゆかちゃんを抱きしめた。

抱きしめないと離れて行っちゃう気がして

怖かったから。


「のっち、そんなに頼りないかな…?」

のっちが頼りないから、ゆかちゃんに無理させてる?

やっぱりのっちは、あなたのために何もしてあげられないのかな。


「なん、で…?」

戸惑ったような、少し掠れたゆかちゃんの声が耳に響く。

「ゆかちゃん、いつものっちの前だと無理してるじゃん?だから、さ…」

もう無理しないんで欲しいんだよ。

ありのままのゆかちゃんが見たい。


「のっちさ、頼りないかもしれないけど…、ゆかちゃんのこと、ちゃんと受け止めてあげられるよ?」

——のっち、何を言おうとしてるの?

頭の中は真っ白で、何も考えられてないのに、勝手に言葉が出て行く。


「だから…、のっちと距離を置かないでよ」

——ちょっと待って、止まって。

思いに反して、のっちの口は止まってくれない。

ねぇ、それ以上はダメだって。

後戻りができなくなる。

その先は言わない、ってずっと決めてたじゃん。


ゆかちゃんを困らせたくない。

ゆかちゃんに離れていってほしくない。

…ゆかちゃんに、嫌われたくない。

だから、少し苦しいこの距離で丁度良いんだよ。

近づきすぎたら、のっちはきっと、ゆかちゃんを壊しちゃう。

だからいいの。

想いに気づいてはもらえないけど、

ゆかちゃんの傍にいられる、この距離で。



なのにどうして、


のっちはそれを、自ら壊そうとしてるの?


待って、お願いだから止まってよ。


ゆかちゃんを失いたくないの

ゆかちゃんを壊したくないの



のっちは——





「…のっちは、ゆかちゃんの1番近くにいたい」


…後戻りは、もうできない。


覚悟はできてる。

頭で色々考えるのはやめた。

のっち、頭使うの苦手だからさ。

近づきすぎたのなら、そのまま捕まえてしまえばいい。

どうせ、近づくことはできても

離れることなんて、

最初から無理だったんだから。

自分の気持ちから、もう逃げたりなんてしない。

正面からぶつかってみせるよ。


たとえ砕け散ったとしても、ね。

「ねぇ…、そんなこと言うと、ゆか、勘違いしちゃうよ?」

余裕たっぷりな小悪魔。

今までは騙されたフリして逃げてきたけど

もう逃げない。

ただ真っ直ぐに、あなたと向き合う。

作り物の仮面なんて、のっちが壊してあげる。


——騙されるフリは、もうしない。

「勘違いしていいよ。のっち、本気だから」

のっち、ズルイでしょ?

冗談で言ったあなたの言葉を、本気の言葉で返すんだから。

だけどこうしたら、逃げられないでしょ?

真剣な瞳であなたを捕えて

逃がしてなんか、あげない。


もう止められないよ。

…ううん、止められないんじゃなくて、止めない。

気持ちを抑えるなんて、無駄だから。


愛しいゆかちゃん

絶対に、のっちのものにしてみせる。



「…ゆか、ワガママいっぱい言うよ?」

少しずつ、あなたの仮面にヒビが入ってく。

「ゆかちゃんのワガママなら、なんでも聞いてあげるよ」

ゆかちゃんになら、振り回されるのも悪くない。

のっちはワガママなお姫様も大好きだよ。


「すっごいすっごい、嫉妬深いよ?」

ヒビは徐々に大きくなって、仮面は脆くなっていく。

「のっちだって、嫉妬深いよ?」

一度手に入れたら、

のっちの存在を刻みつけて、

二度と離してあげないくらいね。


「壊れてるゆかでも、受け入れてくれるの…?」

仮面が割れて、崩れ落ちた。

「どんなゆかちゃんでも、のっちは愛せる自信があるよ」

壊れてる?

大丈夫、のっちはもっと壊れてるから。

「だって…、のっちはもう、ゆかちゃんのせいで壊れてるから」

そう、のっちを壊したのはあなた。

ずっと昔から、ゆかちゃんしか見えてないよ?

この瞳は、もうゆかちゃんしか映せないみたいだから。



「…のっちを壊した責任、ちゃーんととってあげるね?」

ゆかちゃんの表情が、変わった。

どこか妖しげな雰囲気を纏った微笑み。


ゆかちゃんも、もうのっちしか見えてないんだね。

「のっちも…、ゆかちゃんを壊した責任、ちゃんととってあげる」

壊しちゃってごめんね。

だからのっちも、ちゃんと責任とるよ?

嫌になるほど愛してあげる。


「約束、ね…?破っちゃ、ダメ」

ゆかちゃんの綺麗な瞳が妖しく光った。

その中にほんの少しだけ見えた、狂気。

「うん、約束。絶対破らないよ」

ゆかちゃんの長くて綺麗な小指に自分の小指を絡める。

きゅ、っと強く握って離れた小指。

のっちはその小指で、自ら鍵をかけたんだ。

“約束”という名の、重く強い拘束力を持った鍵を。


「…のっちがゆかだけでいっぱいになるように、ゆかが壊してあげるから」

抱きついているゆかちゃんの腕に力がこもる。

そうだよ。

もっともっと、いっぱいにしてよ。

まだ足りないの。

ゆかちゃんをのっちに刻みつけて。

二度と忘れることができなくなるくらい

強く

強く

「何も心配しなくていいんだよ」

ゆかちゃんが、優しく包み込むように笑う。

大丈夫、怖いことなんて何もないから。

だってあなたが、どんな恐怖からだって守ってくれるでしょ?


「心配なんて、しないよ?」

のっちが、珍しく強気で余裕たっぷりに笑う。

不思議そうな顔でのっちを見つめるゆかちゃんが可愛くて。


たまにはのっちが主導権を握ったって、いいよね?



「心配なんて感じる余裕もなくなるくらい、愛してくれるでしょ?」

それくらい愛してくれなきゃ嫌だよ?

「当たり前でしょ?不安なんて、感じさせてあげないから」

まるで子供みたいに、本当に楽しそうに笑うゆかちゃん。

そう、それだよ。

のっちは、そんなゆかちゃんがずっと見たかったんだよ。


仮面なんてつけてない

無理なんてしてない

大人なフリなんてしてない


ありのままの、ゆかちゃんが。



「世界が終ったその後も、ゆかはのっちを愛してる」

——うん。のっちもだよ。

心の中でそう返事をして、ゆかちゃんにそれが伝わるように強く抱きしめた。


耳元で低く呟かれたその言葉は、

まるで魔法のようにのっちを捕えた。


*


のっちは、捕まった。

捕まえるつもりだったのに、

いつの間にか捕えられてた。

そして身をもって知るんだ。

不用意に鳥籠の鍵を開けて飛び立とうとすれば、

どういう目にあうのか。


「壊れ始めた二人は、二度と正常には戻れない」

それにのっちが気づくのは、遅すぎたのかな?


——壊れ始めたのは、

二人じゃなかったということにも。


To be continued?







最終更新:2009年05月14日 03:37