N-side

ここは、都内のあるお家。そこに住むのは広島から上京してきた三人の女子大生。今日も色んな事が起きたり起きなかったり。さてさて、どうなる事やら。

第一話・ハム脱走


「のっち、のっち」

柔らかい声がしてゆっくりと目を開けた。そこには眩しい朝日を受けて輝く天使…もといあ〜ちゃんが。上京してきてかれこれ一か月弱。毎朝目覚めるのが幸せで仕方が無い。

「おはよ、のっち、朝だよ」
「おはよう…はぁーよく寝た」

ぐっと腕を伸ばしてあくびを一つ。あ〜ちゃんはご飯出来てるよ、と呟いて部屋を出ていった。毎朝思うんだけど、やっぱこれって新婚さんぽくない?夫婦だよ夫婦。のっちの嫁日本一。
などと一人にやついていると、バタバタと慌ただしくのっちの部屋に飛び込んできた一人の少女。寝起きだからかいつも綺麗なサラサラヘアーはボサボサで、あ〜ちゃんから誕生日に貰ったらしいルームウェアは肩紐がだらりと落ちてなんともだらしがない。

「ゆかちゃん〜、どしたの」
「ちょろが脱走したの!どこ行ったか知んない!?てゆーか早く起きて一緒に探してよ!」
「えーまたぁ?」

この子はゆかちゃん。学校では男子も女子も魅了する小悪魔ちゃんなのだが、家ではいつもこんな感じ。のっちの事はもはや奴隷か何かと勘違いしてるっぽい。変なネズミばっか可愛がってさ、のっちにも優しくして欲しいっつーの。

「のっち」
「んー?」

ぼーっとしていたら、すげぇ怖い目でキッと睨まれた。うわ、出たその目。ドMなのっちは激しくゾクゾクしちゃうんですけど、ゆか様。

「何してんの?探してって言ったよね?」
「はい今探しますっ」

ベッドから飛び出してのっちはネズミ探し。一生懸命探している振りだけでもしないと女王様が怖い怖い。

「あ、でもご飯食べてからにしようよ、あ〜ちゃんのお味噌汁が冷めちゃうし」
「でもちょろが…」
「ネズミよりお味噌汁のがのっち大事だし」
「ネズミじゃないしハムスターだし」
「ハム?ネズミってハムなの?」
「…」

まぁ仕方無いから早く探して朝ご飯を食べよ。遅刻しちゃいけないしね。
さっきからのっちの直感がネズミはあ〜ちゃんの部屋にいるって言ってるんだよね。いや別に変態とかではなくてね、そこにいる気がするんだよ。て事で…。

「お邪魔しまーす」



のっちは静かに扉を開けてそうっと忍び込んだ。相変わらずピンクが多くて落ち着かない部屋だなぁ、けどやっぱ最高。ネズミとかどうでも良いからベッドに飛び込んで枕をくんくんしたいぜ。
その時、ガサガサと小さな物音がした。タンスから聞こえた気がしてそっと近付く。もしかして…のっちの勘が素晴らしく冴え渡っちゃった?

「…おーい」

あ〜ちゃん、ちょっとごめんなさいね。ゆか様のネズミを探せって命令だからさ、本当はこんな事したらダメって分かってるけどさ、ちょっと見るだけだから許してね。
と心の中で呟くも心臓はドキドキで興奮は最高潮に。実は前にもこっそり内緒で忍び込んだ時に下見しといたんだ、魅惑の下着コレクションゾーンはこの段のこの引き出しなんだよ忘れる訳がない。

「出ておいでブラジ…ネズミ〜」

と言って引き出しを開ける。そこには眩しいあ〜ちゃんの下着と……。
嘘じゃろ、ほんまにおるし。

「お前こんなとこで何しとるん?のっちの嫁のおっぱいを包み込む布の中で何をしとんのかちゃんと説明せぇよドブネズミ、コラ」

もちろんネズミが喋る訳もなく、ただのっちを大きな目で見つめてくる。このエロオスネズミが。ハムにして食ってやろうか。ネズミだからって許されると思ったら大間違いじゃ。

「おうコラ、黙っとらんとなんか言わんかい」

ブラごと持ち上げてユサユサと揺らす。もちろん何も言わない。チューとも鳴かない。


「…のっ…ち……?」

その声に振り返ると、扉の前にあ〜ちゃんが突っ立っていた。なんだか凄く悲しそうな目でのっちを見ている。
ハッとして自分の手元を見た。あ〜ちゃんのブラジャーが音も無く揺れていた。全身の毛穴が一気に開いた感じ。ヤバい、冷や汗出てきた。

「あ、あ〜ちゃん、違うんよ、コレはこの変態ネズミが脱走したから一緒に探してってゆかちゃんにお願いされて…」
「……」
「だから悪いのはのっちじゃなくてこのネズミだからさ、今退治してあげるね、ていっ!」

ぺち、と壁にネズミを投げ付けた。ほらエロネズミは退治したよ、のっちはあ〜ちゃんの正義の味方だよ。だけどあ〜ちゃんは何も言わずに悲しげな表情。のっちの冷や汗は止まらない。
すると、キャーッ!という甲高い悲鳴。見るとゆかちゃんが青褪めた表情で震えていた。のっちの手から静かにあ〜ちゃんのブラジャーが落ちていく。



「ちょろ!ちょろー!」

ゆかちゃんはネズミを抱き締めて、人差し指でネズミの胸を連打する。ゲームのボタンか、なんとか名人か、ってくらいのスピードだ。

「ててててて!」
「あ〜ちゃん…これは、だから…ネズミを見つけるために仕方無く…」
「………」
「てててててててて!」
「勝手に部屋入った事は謝るけど…のっちは変態じゃないからね、変態はそのネズミだからね、」
「…………」
「てててて…ちょろー!良かった目ぇ覚めた!生き返ったやったー!」

ゆかちゃんが泣きながら喜んでいる横で、のっちはあ〜ちゃんから目を逸らし、落としたブラを拾ってタンスの引き出しにしまい、そっと閉めた。うん、出して戻した。それだけ。

「さてと、早く朝ご飯食べますか」

精一杯の力で爽やかにそう言ったつもりだけどやっぱり冷や汗は止まらなくて。ダラダラダラダラとここはサウナかってくらいの汗の量。あんな悲しそうなあ〜ちゃんの表情、初めて見たよ。

「ようし、ご飯ご飯〜」

と何事も無かったかの様に部屋を出ようとすると、がしっと手首を掴まれた。振り返るとゆか様がニッコリと微笑んでいた。

「よ、良かったねゆかちゃん、ネズミ見つかって」
「そうじゃね、のっちのおかげよ、ありがと〜」

と最高の笑顔に一瞬ドキッとしてしまったのっちだけど、次の瞬間みぞおちに拳を食らい、目の前が真っ暗になった。





ちなみにそれから数日の間、のっちのご飯はハム一枚。



◇1:終◇







最終更新:2009年05月14日 04:03