「ゆかちゃんは、まだ撮影終わらん?」
「…うん。まだ…戻ってきとらんよ」
「そっか、アイス買ってきてあんの、冷凍庫入れとかなきゃね」
のっちがアイスを持って、あたしに近付いてくる。
冷蔵庫兼冷凍庫は、鏡台の下にある。
あたしは逃げるようにソファに移った。
「?あ〜ちゃんの分もあるけど、食べる?」
「…いらん。あ〜ちゃんそろそろ撮影に呼ばれるけぇ」
「んじゃ、一緒に入れとくねぇ」
のっちは気付いてるのかな。
あたしが、どっかおかしいとか、思ってるのかな。
気付いてて、気付かないフリしてるなら、言って欲しい。
気付いていないなら、いっそ死ぬまで気付かないでいて欲しい。
なにかしら、答えが出てしまうのが、酷く恐いから。
「ゆかちゃんとは、うまくいっとる?」
「勿論!昨日ものっちん家来てたんだよぉ」
「そう。良かったね?のっち」
「うん。もぉ〜ホントあ〜ちゃんのお陰だよぉ。のっち一人だったら、絶対うまくいかなかったもん」
声が震えない様に。
笑顔が不自然にならないように。
気付かれないように。
そう思ったけど、のっちはあたしの方には見向きもしなかった。
嬉しそうな声で、穏やかな表情で、言葉を紡ぐ。
あたしの、大好きな声。
あたしの、大好きな笑顔。
また、楽屋のドアが開く。
「あぁ〜、つっかれたぁ〜。なんかゆか、あり得んポーズ要求されたんじゃけど」
「ゆかちゃんお疲れ。アイス買ってきてあるよ」
「わ、さすがのっちじゃ。気が利くねぇ」
楽しそうにする二人を見ると、胸が痛くなる。
きっとあたしが欲しかった場所は、あそこなんだ。
もう手に入らない、自ら手放した場所。
のっちの、となり。
今は、ゆかちゃんの場所。
あたしが、そうした場所。
弱虫なあたしが、そうしてしまった場所。
一人楽屋を出ると、また涙が零れた。
ただひたすらに冷たくて、胸を刺すばかりの、涙。
あたしは一体どうしたいんだろう。
心に奥に沈めると決めたはずの想いは、ただただ大きく膨らんでいくばかり。
スタジオに続く廊下が、これでもかと言わんばかりに、ぼやけた。
あたしはどこに行くんだろう。
今はただ、辿り着く場所が欲しい。
最終更新:2009年05月25日 20:38