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Side.K




のっちの家に着いて、チャイムを押す。
程なくして、かちゃりと鍵が開く音がして、のっちが出て来た。

「…ゆか、ちゃん……」

掠れた声で私を呼んだのっちは、泣き腫らした目をしていた。

「のっち、…あ〜ちゃん、は?」
「……帰っちゃった。」

どうしたんだろう。
いつもの、あ〜ちゃんがツンだからとか、そういうレベルじゃない。
それくらい、のっちが弱り切ってる。

とりあえず、部屋にあがる。
部屋の中は、いくらか綺麗になっていて、ついさっきまであ〜ちゃんがいたことはすぐにわかった。

その時、のっちの肩が、小刻みに震えだした。

「……のっち?」
「ゆか…ちゃん……のっち、もう、……わかんない、よぉっ……」

そう言ったのっちは、…今まで見たことないくらい、泣いていた。

「ねぇ、のっち!!一体どうしたんよ?!」

思わず語気が強まる。
のっちは、しゃっくりをあげて泣きじゃくりながら、ぽつぽつと喋った。

「のっち、は、ね……あ〜ちゃんが、いなきゃ…ダメだけど……あ〜…ちゃんは、違うんよ…」
「な…何言っとるん!!…そんなはず、ないじゃろ?」

そんなはずない。
ずっとふたりを傍で見ていた私には、痛いほどわかっているつもりだ。
あ〜ちゃんだって、のっちがいなきゃ駄目なんだ。

「のっち、それは違うじゃろ。いつものっち達を見とるゆかが言うんじゃけぇ、間違っとらんよ。」


のっちを安心させようと、優しく言い聞かせる。
でも、私の言葉に顔を上げたのっちの目を見た瞬間、もはやのっちに、その言葉が届かないことを悟った。




「…じゃあ……何でよ…どうして?!」
「のっちっ……」
「なんで、あ〜ちゃんは……のっちに…何も言ってくれないんよぉ…っ……」

そう言って頭を抱えて泣きじゃくるのっちは、痛々しいほど震えていた。
それを見ていた私は、自分の中にまた、あの感情が蘇ってきたのに気付いた。

もう、押し殺したはずの想い。
あ〜ちゃんとのっちが幸せなら、と掻き消した想い。
……でも、今は?

違う、よね…?

私は、のっちに腕を延ばして、抱きしめそうになった。

……いや、でも、
のっちが求めているのは、あ〜ちゃんでしょう?
諦めたでしょう?
ふたりを、…壊すの?

私の中の冷静な部分が、私の想いを引き止めようとする。

だけど…のっちは、あ〜ちゃんに傷付いて、壊れそうなくらい泣いてる。
ゆかは、…ゆかなら、そんなことしない。

ゆかなら、
のっちを守ってあげられる。

そう思い立った瞬間、
何か、外れた。

「のっちっ…。」

震えるのっちを、強く強く、抱きしめる。
のっちは、一瞬びくりとしたけど、そっと、私に縋り付いて来た。

「ゆかが、傍にいるよ。…大丈夫じゃけぇ。」

そっと、のっちの髪を撫でてあげる。
ちょっとずつ、のっちの震えが収まってきた。


もう一度、傷付くかもしれないことなんて、わかってた。
でも、放っとけなかったんよ。
それに……どこかで期待してたんよ。
ごめんね、のっち。


Side.N



あ〜ちゃんが帰っちゃって、パニックを起こした私は、思わずゆかちゃんに電話してて…。
そして今、ゆかちゃんの腕の中にいる。

「ゆかが、傍にいるよ。…大丈夫じゃけぇ。」

そうやって、頭を撫でてくれるゆかちゃんの腕の中は、心地よくて……。

でも、私は、
ゆかちゃんの腕の中で、ずっと、あ〜ちゃんのことを考えていた。

あ〜ちゃん、今、何を思ってるん?
のっちが今、思ってること、あ〜ちゃんに全部伝えたら、あ〜ちゃんもこうやって抱きしめてくれる?
それから、あ〜ちゃんが思ってることも教えてくれる?
ねぇ、見えない、見えないよ。
あ〜ちゃん……。


包み込んでくれるゆかちゃんの体温が、気持ち良くて、
でも、その中にいてもあ〜ちゃんのことで頭がいっぱいの自分が、可笑しくて悲しくて。

だからかな、
ゆかちゃんの気持ちにも表情にも、
のっちは、気付けなかった。
ごめんね、ゆかちゃん。







最終更新:2009年05月25日 20:41