アットウィキロゴ
あの頃のあたしはあ〜ちゃんに対する想いを絶対に叶わない、届かないものだと決め付けて、密かに心の奥底に留めていた。


だけど、その一途な想いをひとつだけを抱いて、彼女の隣で何食わぬ顔をして日々を乗り切れるほど、
あたしは大人でもなかったし、強くもなれなかった。


のっちと出会ったのは、よく通ってたクラブ。
広すぎず、狭すぎないフロア、DJのセンスも良かったし、変に常連ばっかりじゃない客層が好きだった。


クラブに出向いてはリズムに揺られ、ビートに身を任せるままに踊った。
そして、よく声をかけられたし、自分からかけもした。
男の子も女の子も誰彼構わず、それなりに気に入れば誘ったし、誘われれば断りはしなかった。
自分に向けられる視線に気づかないほど鈍感じゃないし、向こうから声をかけさせるなんて簡単だったから。


それに、いつだって、“イチバン”以外に積極的なのは、昔からのあたしの悪い癖。


飲んで、踊って、知り合ったばかりの誰かの隣で朝を迎える。
だけど、そんな日々に飽き飽きしてたのも事実。
お酒が醒めて、朝日に照らされてしまえば、ただ欲を吐き出すような行為のあとに残るのは虚しさだけ。


結局、空っぽで惨めな自分に気づかされるんだ。


それでもその生活をやめられなかったのは、怖かったから。
寂しさを埋めたかったからとか、独りになるのが怖いとか、そんな可愛らしい理由なんかじゃなくて。
そうでもしないと溢れそうな自分が怖かったから。


心の奥底に密めた想いが溢れてしまうのが怖くて仕方なかったんだ。






そしてあの日、あたしはフロアから離れひとりバーのカウンターに突っ伏していた。
いつもなら心地よく響くはずの重低音も、あの日のあたしにはただの耳障りな

音にしか聞こえなかった。


だっさいDJ。
こんなぶつ切りでヘタクソな繋ぎ、醒めてくるだけだって。
さっきまで回してた金髪の人の方が全然アガれたっての。


カシスオレンジを喉に流す。
こんな甘いお酒じゃ、酔えもしない。


あ〜、、さっきの子可愛かったなぁ。
壁に押し付けてちょっと顔近づけようとしただけで、耳まで真っ赤になっちゃ

ってさ。
ちょっと垂れ目で、ふわふわパーマをあてて、、あの甘い香水はきっとあの子

同じ。
髪の毛の色は栗色で、ピアスの穴も幾つか開いてたけど。
でも、残念。彼氏連れだったか。
向こうも満更でもなかったみたいだったけど。
まぁ、さすがに目の前で面倒起こしたくないしねぇ?



「ねぇ、ねぇ、」


無遠慮に隣に座ってきた男の子。
大分出来上がっているのだろうか、ものすごくお酒くさい。


「一緒に飲もうよ」


最近、女の子とばっかりだったし。
久しぶりに、男の子もいいかもね。


試しに得意の上目遣いで微笑んでみせると、とても分かりやすくいやらしく歪

む彼の口元。


ほらね、簡単。
特に男の子なんて単純。
ちょっと甘い顔見せただけでその気になっちゃうんだから。


「飲むだけ、、でいいんだ?」


上目遣いのまま、下唇を舐める。
あたしの唇を見つめる彼の瞳に欲情が灯った。


あーあ、この人、今あたしとキスしたくて仕方ないんだろうな。




「じゃあ、二人きりで、」
「ダメだよ。その子先約入ってるから」


ふいにカウンター越しに延びてきた手があたしの肩を抱こうとした男の子の手を叩いた。


「先に目付けたの、わたしだから」


そう男の子にビールを渡しながら言ったのは、カウンターの向こうにいるバーテンダー。
ショートボブの大きな瞳が印象的な女の子。
黒髪と黒いシャツに白い肌がよく映えている。


「んだよ、また、のっちかよ」


男の子は彼女の顔を見るなり、大きく舌打ちをしてビール片手に仲間の方へ戻って行ってしまった。


「・・・別にどっちでもよかったんだけど?」
「うん、知ってる。だから、取られたくないなーって」


そう言って、頬を掻きながら笑う彼女はこの場所に似つかわしくなくて、今まで遊んでいた子たちとは違う空気を感じた。


カラーでもモノクロでもない。
なんていうか、透明。
透き通ってる感じ。
そう、無色で透明。


そして、その透明さは、カラフルなあの子の透明感に似ていた。


「いいお店知ってるんだ。付き合ってよ、ゆかちゃん?」


ふいに名前を呼ばれ、彼女の顔を見上げたら最後。
瞬間、その大きな瞳に射抜かれた。


「それとも、ショートカットの女は嫌い?」



カラフルなあの子が、モノクロなあたしの世界に色を与えてくれる存在だとしたら、
無色透明な彼女は、澱んだあたしの世界に差し込む光みたいな存在だったんだ。



to be continued...






最終更新:2009年05月25日 21:00