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SIDE-A


『愛のないエッチ、したことある?』


そう聞いてきたのは確か私がのっちと初めて顔を合わせた、
その日の前日の夜だった。




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毎週金曜の夜。
普段と変わらず、他愛のない話をゆかちゃんとしていた。
でもその夜は少し違った。
時折見せる辛そうな顔に気づかない訳がなかった。


「ゆかちゃん…何かあった?」
「え、何急に?!」
「いや…悩み事でもあるのかなって思って」
「ないよー、そんなの!ゆか幸せだもん」


ゆかちゃんにしては、ごまかすのが下手だった。
私の目を見ないのが何よりの証拠。
今思えば、それだけゆかちゃんに余裕がなかったんだね。


「本当に幸せ…?」
「…」
「あ〜ちゃん、何でも聞くよ?」


ゆかちゃんは自分と戦っていた。
弱いところは余り見せない人だから。


「恋人のさ…のっちのことで悩んでる、とか?」


『のっち』という言葉にゆかちゃんの身体がピクッと反応する。
それで心を決めたのか、ゆかちゃんはやっと私と目を合わせた。


「あ〜ちゃん…」
「うん…何…?」
「愛のないエッチ、したことある?」


私はなんて答えれば良いのかわからなかった。
ゆかちゃんの言いたいことを理解するのに必死で。
黙っていると、ゆかちゃんは一人で話し始めた。




「すごく虚しいんだよ…。全然心が満たされないの。
身体はね…確かに感じるよ。でも、違う。身体だけなら…一人でも出来るじゃん。」


正直聞きたくなかったゆかちゃんの告白の中から、
ゆかちゃんが本当に言いたいことを探し出す。


「ねぇそれって…のっちの…その…エッチに、愛がないってこと?」
「…うん」
「付き合ってから、ずっと?」
「…うん」
「のっちは…ゆかちゃんのこと、好きなの?」
「…わかんない」


ゆかちゃんの答えに少し苛々してしまって。


「じゃあ…なんで付き合ってるの?」


少しだけ感情的に聞いた質問。
返ってきた答えは、私が一番聞きたくなかった答え。


「のっちが、好きだから。」


そう答えられたら。
ほら、私は無力。
再び黙ってしまう。
ゆかちゃんはただ、私を見つめる。


「あ〜ちゃん…ゆかはね」


ゆかちゃんは私との間を詰める。


「愛して欲しいの…愛が足んないの…」


そんな寂しそうな声で話さないで。
私の奥深くにしまい込んだ感情が、溢れてしまいそうになるから。
そう思ったのに。




「あ〜ちゃんなら、愛してくれる?」


もう遅かった。


ゆかちゃんにふわりと抱きつかれて、心拍数が上がる。
でも。
ゆかちゃんはのっちが好きなんでしょ?


「じょ、冗談やめてよー!浮気する気?」


極力ふざけた感じで。
そうすればお互い傷付かずに済むって思ったから。
でもゆかちゃんはそんな逃げ道を許してくれなくて。


「冗談じゃないよ。」


「あ〜ちゃんだから、言ってるんだよ。それとも…あ〜ちゃんも愛してくれないの?」


耳元で聞こえるゆかちゃんの声。


「でもっ…浮気、だよ?」
「浮気じゃないよ。これは、浮気じゃない。」


何故かそこだけは確信をもって話すゆかちゃんに、顎を軽く持ち上げられる。


「あ〜ちゃん…ゆかを、愛して。」


そう言って重ねられた唇は柔らかくて。
その感触に夢中になりながら、ゆかちゃんの中の矛盾を感じとっていた。


大人っぽいのに、子供っぽい。
言うこと、為すことは立派に大人なのに。
ゆかちゃんはどこかで甘えたがってる。
私は愛を込めてゆかちゃんに何回もキスをし、抱き締めた。
それ以上は、しなかった。
ゆかちゃんは私の胸の中で寝てしまったけど。
それって心地良かったんだよね。


—————————




一度だけで終わると思っていたのに。
その夜から毎週ゆかちゃんは私を求め、私はゆかちゃんに愛を注いだ。
身体は決して重ねなかった。
ただ二人でキスして、抱き締め合うだけ。
ゆかちゃんが好きだという感情を隠して。
私にとって残酷なことだった。
だけど。
それだけでも、愛は十分伝わるでしょ?
ゆかちゃんはのっちに会う前に、私で愛を補給している。
私を支えにしている。
私がいなきゃ、きっとゆかちゃんは潰れてしまう。
のっちには言えない関係。
一方では、ゆかちゃんに必要な関係。
愛を求める、ゆかちゃんに。



あの日のっちを受け入れてしまったのは、二人ともに後ろめたさを感じたのもあるけど。
本当は心のどこかで愛を知らないのっちに愛を教えてあげられたら、
ゆかちゃんも愛してもらえるんじゃないかって思っていたからかもしれない。






なのに皮肉だね。
私はのっちの行為に教えるまでもなく、僅かだけれども、確かに愛を感じたんだよ。







つづく








最終更新:2009年05月25日 21:12