アットウィキロゴ
あの日のゆかちゃんは、今思えばちょっと様子がおかしかった。


あたしは、叶った夢だとか幼い恋だとか。
ノンキなことばかり考えてふわふわしてた時期だったから、切羽詰まった様な困った様な、真剣な顔をしたゆかちゃんが心配になったっけ。


Recollection*



「あ〜ちゃん」
「ん〜?」
「ちょっとね、話があるの。今日、仕事が終わったら付き合ってくれない?」
「えぇ〜、なんじゃろ改まって。珍しいね」
「うん…。付き合ってくれる?」
「ええよ。あ〜ちゃんで良いなら、いくらでも聞くよ」
「良かった。ありがと」


仕事が終わり、楽屋に戻ると、あたしとゆかちゃんはそそくさと帰り支度を済ます。


その日のラストの仕事の後は、楽屋でやいのやいのガールズトークを繰り広げるのがいつものあたし達だから、のっちが不思議そうにあたしとゆかちゃんを眺めている。


大きな瞳が、あっちへこっちへ、キョロキョロ動く。

口が開いてるよ、のっち。

かわいい。



「なになに、もう帰っちゃうの?」


のっちは、いつものあの顔。


「そ。今日はあ〜ちゃんとデートなんじゃ」


イジワルな顔したゆかちゃん。語尾が上がる、あの喋り方。


「えぇ〜…のっちは?」


「デートは二人でするもんじゃけ、のっちはおとなしくおうちでゲームしとりんさい」


しゅんとしてしまうのっち。下唇が、かわいく突き出る。


ごめんね。のっち。
今日はゆかちゃんと二人で話するけぇ、今度は一緒にお出掛けしようね。




東京ってのは、すごい街だ。
時刻はすっかり夜だというのに、目を凝らさなくたって、歩く道は遠くまでしっかり見える。


街が明るいせいか、空はどんよりどこまでも黒い。
利便を考えればいくら明るくしても足りない位だと思っていたけど、光っていうものも度が過ぎると、なるほど問題も生み出すらしい。


まぁ、そもそもこの街の空は、下手くそなあたしがやった、積み上がったテトリスの疎らな隙間ほどしか見えないのだけれど。


あたしとゆかちゃんは、肩を並べて、明るい道をずんずん歩く。
別に変装もなにもしてないのに、気付く人はいない。

ちょっとつまらないけど、きっと私服が地味だからだな、と、自分を納得させる。
いつもは、派手な衣装だから、きっと結び付かないんだな、と。


ゆかちゃんに連れて来られたのは、店内が少し暗い、でもちょっと間接照明がセンス良い感じの、落ち着いたオシャレなお店。


ゆかちゃんは、こういうお店を良く知っている。
いつもは、誰と来てるんだろう。
あたしとのっちは、ゆかちゃんとこういうお店に来たことはない。


注文やらなんやらは、ゆかちゃんに任せたコドモなあたし。


なんかこういうお店って、そわそわしちゃうんよね。


「あ〜ちゃん、今、好きな人いる?」


注文を終えたゆかちゃんが、唐突に話始める。


「え?あぁ…うん。いるよ」


「そっか」


聞かれて、一瞬考えてしまった。きっとゆかちゃんの今日の話ってのは、恋の話なんだ。


質問を聞いて、最初に頭に浮かんだのは、優しい顔したのっち。
あたしはきっと、表情が緩くなったはず。
でも、好きな人が女の子だって問題ないよね?
好きなことにはかわりない。


「あたしもね、好きな人がいるの」


やっぱり、恋の悩みだね。


ゆかちゃんがあたしに頼ってくれるなんて嬉しい。


ってか、珍しい…?








最終更新:2009年05月25日 22:30