あ〜ちゃん、甘いよ。
そう言ったらあ〜ちゃんは多分、そりゃそうよ、ケーキだもん、ってにゃははって笑う。
わたしが甘いと思うのはケーキじゃないことを、たぶんあ〜ちゃんはわからない。
あ〜ちゃんは相変わらずていねいに、ショートケーキを先から食べていく。
どんどん減っていってあらわになる銀紙は、おどろくほどきれいだ。
几帳面な彼女の性格がありありとあらわれる食べ方。
のっちは意味もなく、てづかみで食べる。
クリームが指についてべとべとで、あ〜ちゃんはそれを行儀がわるいと言う。
フォークつかえばいいじゃん、って本当にふしぎそう。わたしは得意げな顔で、あ〜ちゃんの洗いものを減らすためだよって答える。
そうするとあ〜ちゃんは、あんたが洗えば済むことよ、ともっともな言葉を突きつけてくる。
のっちはそれがつまんない。
ほんとうは。
ほんとうはあ〜ちゃんにケーキをてづかみで食べてもらいたい。絶対そんなことしなさそうだけど。
でももししてくれたらのっちは、あーあ汚れちゃったね、ってあ〜ちゃんの指を舌できれいにする。
それにあ〜ちゃんにあんたのためにてづかみで食べてるのよ、なんて冗談でも言われたらのっちは舞いあがって、お風呂そうじまでしてしまうのに。
思い描くシチュエーションがあって、あ〜ちゃんの行動パターンと総合すると、なんだか絶対できない気がする。
のっちとあ〜ちゃんの思い描く恋人は、すこし違うみたいだ。
でも、のっちはべつにのっちと付き合いたいわけじゃない。
あ〜ちゃんが好きで好きで、そんで付き合ってるんです。
でもやっぱり少したしかめたくて呟いてみる。
「あ〜ちゃん、甘いよ」
これはあ〜ちゃんが大好きな自分への挑戦でもあるわけで。
「あんたの指のほうが甘そうよ」
あ〜ちゃんはにゃははって笑って、ケーキのさいごのひとかけらを口にした。
それからのっちの肩に頭をあずけて、腰に手をまわして、早く食べて、って消えそうな声で言った。
あ〜ちゃんが好きで好きで、なにもかも知り尽くしてるはずなのに、
彼女はたまにのっちの想像もできないようなことをする。
でもきっと、急いでケーキを胃に流し込んであ〜ちゃんを抱きしめてキスをしようとするのっちは、あ〜ちゃんの予想通りに違いない。
end
最終更新:2009年05月25日 22:43