SIDE-N
土曜日の午前9時。
ゆかちゃんの部屋の鍵はかかっていなかった。
部屋に入るとソファーの上で、ゆかちゃんが小さくうずくまって泣いていた。
ゆかちゃんが泣いている姿を初めて見た。
一年と半年。
ゆかちゃんと付き合ってから過ぎた時間。
あたしは一体ゆかちゃんの何を見てきたんだろう。
「ひっ…く…、のっ…ち?」
「うん…」
泣いてる理由を聞くことは愚問である気がして、聞けなかった。
ソファーの前の床に腰を下ろす。
「…話が、あるんだ。」
わざわざこんな時に話さなくても良い気がしたけど、
今じゃなきゃきっとゆかちゃんの雰囲気に流されてしまう気もして。
「ゆかも、…話したいこと、ある」
そう言ってゆかちゃんはゆっくり身体を起こした。
「ゆかね…のっちがゆかのこと好きじゃないって、知ってた。」
「…」
「それで、あ〜ちゃんを利用したの…。」
消えそうなくらい小さな声でゆかちゃんは全てのことを話し始めた。
あたしとの行為に虚しさを感じていたこと。
あ〜ちゃんにあたしの代わりを求めたこと。
あ〜ちゃんが昨夜、ここにいたこと。
最終的にあ〜ちゃんを傷付けてしまったこと。
「…のっちが、あ〜ちゃんのこと好きなのは、知ってる」
「ゆかちゃん…」
「ゆかちゃん、のっちはね…」
そこから出てくるのは感謝の言葉しかなかった。
廃人同然のあたしを救ってくれたゆかちゃん。
笑うことも、泣くことも、怒ることも、教えてくれた。
「でもゆか、『好き』って感情は教えられなかったね…」
そう言われて何も言えなくなった。
あたしはゆかちゃんに何をしてあげられたんだろう。
ただゆかちゃんを傷付けただけじゃないか。
「のっち…やっぱり最低だ…。」
「ううん。ゆかも最低だから。きっと…あ〜ちゃんもそう言うと思う。」
「やり直そう。はじめから。」
ゆかちゃんは真っ赤な目をしながら、あたしに微笑みかける。
最後までゆかちゃんは優しくて、それが一番あたしを責めた。
「本当にごめんね。」
そして。
「今まで、ありがとう。」
ゆかちゃんに恋人として最後のキスをした。
唇を離すと同時にあたしの携帯が鳴る。
「もしもし…」
「話がある?…うん」
「うん…ゆかちゃんの家だよ…全部話した。」
ちらりと目をやると、ゆかちゃんは全てを承知したようにゆっくり頷いた。
「今からおいでよ。二度手間って感じだけど…。」
「三人で話そう。ね、あ〜ちゃん。」
つづく
最終更新:2009年05月25日 23:09