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『また泣いてるよ。』


ハードディスクに収めておいた
いつかの自分達のライブを見て
そっとつぶやいてみる


キッチンからはバタバタとせわしなく食器たちが音を鳴らして
バターの甘く優しい匂いが鼻をくすぐる


“早く〜お腹すいたよ〜”
なんて言えば
“じゃあ自分でつくりんしゃい”
ピシャッと言われるのがオチだろう
だから言わない


薄型のワイドテレビいっぱいに映し出されたあ〜ちゃんの泣き顔を見て
必ずしも誰もがもらい泣きするわけじゃないけど
少なからず誰もが胸くらいはうつだろう


それがちょっとだけ悔しかったりもする
一番近くの二人
のうちの一人であるここ9年
より近い一人
その一人になってもう・・・

・・・


・・・何年だ?
こうゆうとこ
自分でも呆れる
“忘れた”
なんて言えば
“ふざけとる?”
顔がひきつるだろう
いや
最近ではそんなのっちのことも
“まったく”
なんて笑ってくれる、かも?



『なんか言ったぁ〜?』


そんなことをめまぐるしく考えていたら
キッチンから不意に顔だけ出したあ〜ちゃんがいた


『んーいや、なんも。』
間延びした自分の声
今でも少し二人でいる時には虚勢をはってしまう


『もう出来るけぇね!ちょっと上かたしてよ』
散らかったテーブルの上に目線をやって
“ふふっなんよもう”
て顔して笑った


いつもお見通し
虚勢をはってることも
それを隠す間延びした声も
いつもお見通し


テーブルの上を片付けながら
キッチンへと足を進める
綺麗に盛り付けられてるそれらを横目に
後ろからゆっくり抱きついてみた


『ふふっなんよもぉ〜』
菜箸を片手に左肩に乗せた私の頭を
器用に左手でさする


『お腹すいたよ。』
『もうできるけぇ』
さっきの予想はさっきの予想
今は今で優しく返ってくるのわかってたよ?


『あ〜ちゃん。』
昔より少し細い腰にまわした腕で
昔したときより少し強い力で抱いた


『ふふっなんよもぉ〜』
あ〜ちゃんさっきからそればっかりだよ?
照れてるの?
・・・違うか
最近ではじゃれるのっちを簡単に受け流すんだ
ちょっと淋しいけど
ちょっと嬉しい
あ〜ちゃんの手のうえで転がされるのは
苦じゃないもん
むしろそれだけ関係が深まったと
優越感さえ抱くよ?



『あんま泣かんでよ・・・』

人前で泣かれるとさ
のっち以外の人も心配するじゃん
あ〜ちゃんのそんな顔
のっちの中だけでとどめときたいんよ


『ふふっもう泣かないよ』

あ〜ちゃん絶対に守れない約束でしょ?それ
だけどそんな優しい顔されたらのっちが泣きそうだよ


『のっちの前で泣けばいいよ。』
後ろから腰を抱いたまま
何、弱っちぃこと言ってんだ自分は

『うん。そうだね』
後ろから腰を抱かれたまま
何でそんな優しい顔するんだろ?


『じゃあさ?のっち?』
菜箸を置いて
フワッて柔らかい風が舞う
父親譲りの可愛いえくぼで
優しく優しく笑ったあ〜ちゃん
『あ〜ちゃんがいつでも泣けるように、いつも側にいてね?』


まいったなぁ
人前で泣くのは苦手なんだ

『また泣いてるよ〜』
子供をあやすように頬を伝う涙を拭ってくれる
さっきののっちのセリフとらないでよ


『約束できる?』
『うん。』
のっちは絶対に守るよ
泣き顔も
苦しくなるくらいに優しい笑顔も
知ってるのは
のっちだけでいいよ


『ずっとだよ?』
うん
ずっとだよ



END






最終更新:2009年05月25日 23:27