K-side
昨夜の事はほとんど覚えていなかった。ただ目が覚めたらのっちに乗っかっていて、のっちはゆかの下で寝ながら苦しそうに唸っていて、苦笑いしたあ〜ちゃんが頭の上で「ご飯食べる?」って。時計を見たら昼過ぎで、早起きなあ〜ちゃんがどれだけゆか達の寝顔を眺めていたのかと思うとなんだか恥ずかしくて耳が熱くなった。
化粧も落とさず着替えもしていないゆかは体がベタベタして気持ち悪くて、でもそこまで頭痛はなかったから二日酔いはなかったんだと安心した。
「ゆか、シャワー浴びてくる」
「上がったらご飯食べる?」
「うん食べる!」
そう言って立ち上がると、のっちの手を思い切り踏んづけてしまった。いだっ!と顔を歪めて飛び起きたのっちは、なんとも笑えるくらい間抜けな寝癖で髪が相当散らかっていて、大きな目はしょぼしょぼで、殴られた犬みたいだった。
◇
最後の授業にはなんとか間に合った。昨日一緒に飲んだメンバーは一人も欠けることなくいつもの席に座っている。
「おはよ〜」
「あ、ゆかちゃん、今日来ないかと思ってたよー」
「今日レポート提出でしょ?昼に思い出して大変だったよ〜(起きたの昼過ぎだけど)」
と、言いながら詰めてくれた席に座ると、隣に座ってる子に尋ねられた。
「ねぇねぇ、ゆかちゃんって大本さんと付き合ってんの?」
バックから取り出した筆記用具が派手な音を立てて床に散らばった。手が滑った、ただそれだけ。「まじ最悪ー」と笑いながらそれを拾い集めるゆかは、凄くダサいかも。のっちのあの寝癖よりダサいかも。
「付き合ってる訳ないじゃん、ただの同居人だよ」
「だって昨日迎えに来たりおんぶして帰ったり、なんか大本さん彼氏みたいで超カッコ良かったし」
「えー無いわー!のっちは無いわー」
「キスしたりラブラブだったじゃん、ゆかちゃんのキャラ変わってたし」
「キス?キスなんかしたっけ?」
「あとカンチョーも」
「カンチョー??」
やべ、一個も覚えてないんですけど。特にカンチョーって何?ゆかなんかしたの?
全てにおいてちんぷんかんぷんだけど、ただ言えるのはのっちは特別だからそりゃキャラも変わるわ、って話で。小学校の時から仲良いんだもん、のっちの事はあ〜ちゃんとゆかが一番よく知っているし。
高校生の時は、のっちとあ〜ちゃんばかりが目立っていたから、付き合っていると噂されるのはいつもあの二人だったのに。そうか、ゆかもまだまだ行けるのか。
「なんかそれに、二人が並ぶと絵になるよね」
「分かる、めっちゃお似合い」
「まーたまたぁ」
ゆかは鼻で笑った。お似合い?のっちとゆかが?笑わせないでよ。
昨日の事、ほとんど覚えてないだなんて嘘。のっちは付き合うならゆかちゃんだな、と確かに言いました。最低なヘタレの糞おにぎりに、ビンタの一発くらじゃ済まないんだから。
とは言ってもまじでカンチョーって、何??
N-side
ゆかちゃんはレポートがあるとかで、一人で大学に行った。のっちとあ〜ちゃんは家でのんびりする事に。てかゆかちゃん金返せ。そして約束のあ〜ちゃん生写真よこせ。
昨日あれだけ酔っていたからもしかしたら忘れてんのかも、と思いあ〜ちゃんに隠れてこっそりメールを送信。「あ〜ちゃん生写真五枚セット、忘れずに」と。
「のっち、アンタゆかちゃんに変な事したじゃろ」
「変な事…?カンチョー?」
「カンチョーってアンタ、小学生じゃないんよ、」
「だってゆかちゃんが先にのっちのお尻にぶすっとさ」
「ゆかちゃんお茶目で可愛いのぉ」
「のっちは?ねぇのっちは?」
「ゆかちゃんに変な事する子なんかね、この家にいらんのよ」
「うわ、ひどーい」
付き合うならゆかちゃん、そう言ったのは、のっちが心の底からそう思っていただけ。言うべきでは無かったなと今さら反省しても、タイムマシンはどこにも見当たらないし。
あれから家に着いた瞬間、ゆかちゃんとソファーに倒れこんで何度も唇を重ねた。お酒の匂いと、煙草の匂いと、死ぬんじゃないかってくらいの嗚咽。それを全部飲み込んでのっちは、ゆかちゃんを抱き締めた。
あ〜ちゃんがいない世界だったら、のっちはきっとゆかちゃんに惚れてたんじゃないかと思う。あ〜ちゃんがいない世界だったら、あ〜ちゃんがいない世界だったら。そう心の中で叫んで、ゆかちゃんと深いキスを繰り返しても、やっぱり何食わぬ顔であ〜ちゃんは心の中で輝いていた。
最低のっち、ってでこぴんを一発。あ〜ちゃんがいなかったら、もしあ〜ちゃんと出会ってなければ、のっちは誰かを好きになる事がこんなにも辛い事だなんて知らずに済んだかもしれないのに。
「付き合うなら、ゆかなん…?」
「うん」
「それ、あ〜ちゃんにも言われたんだけど」
ゆかちゃんは笑いながら、吐きそう、とだけ呟いてのっちの腕をすり抜けトイレに消えた。
水が流れる音がして、ハッと我に返った。我に返るのには遅過ぎる。のっちの唇はゆかちゃんのグロスでベトベトだった。
「ほら見て、のっち」
「ん?」
あ〜ちゃんが嬉しそうにのっちに携帯の画面を見せてきた。それは苦しそうな顔で寝ているのっちと、その上で口を開けて爆睡してるゆかちゃんの写メだった。
「UFOキャッチャーのぬいぐるみさんみたいで可愛いじゃろ」
「……」
それはのっちがあ〜ちゃんとゆかちゃんを見る時、凄く幸せな気分になるのと同じだ。女の子は自分の好きなものが並んでいると幸せになるでしょ。フルーツの詰め合わせや、お花畑だってそう。見てるだけでわくわくするんだ。
「二人はお似合いじゃね」
「え?」
「たまにカップルに見えるんよね、あはは」
うわ、冗談きっつー。
と笑い飛ばせたらどんなに楽か。のっちは胸が張り裂けたよ。だけどあ〜ちゃんは歌う様に笑ってた。
「その写メ消して」
「えーいやじゃー」
「のっちブサイクだから、お願い」
「可愛いじゃん」
「お願いだから」
◇9:終◇
最終更新:2009年05月25日 23:29