今日は、うちの学校のバスケ部が招待試合をする日。
相手は県で1、2を争う強豪チーム。
対するうちのバスケ部の主将は、のっち。
私とゆかちゃんは、のっちを応援するために横断幕を作った。
何しろヘタレのっちがヘタレじゃなくなる貴重な日じゃけんね。
それに、相手が強豪とあって、
今回ののっちの熱の入りようは尋常じゃなかった。
毎朝早くから練習(後輩が熱い視線を向ける中)。
放課後も毎日練習(後輩が熱(ry
誰かに声をかけられても聞こえないくらいに集中して、
練習し続けていたのを私は遠くからずっと見ていた。
「勝てるかなぁ?」
不安げなゆかちゃん。
「勝てるっしょ」
そう言い切ったものの、相手チームが入場してきた途端に、
その自信は不安に変わる。
なんか…みんなでかい…。
絶対170以上あるよ、あの人たち…。
「勝てるかなぁ…?」
涙目のゆかちゃん。
「さぁ…どうだろう…」
同じく涙目の私。
応援しにきたとは思えないような表情の私たちを残して、
ホイッスルが鳴る。
試合開始。
今気付いたけど、ものすごい観客数。
のっちはうちのバスケ部歴代ナンバーワンの実力だと言われている。
それになんだかかっこいいんよね。
ユニフォーム姿…。
のっちを見るために体育館に来たという人も少なくないだろう。
試合開始からしばらく経っても点差はあまり開いていなかった。
長身の選手の間を、鋭いドリブルで駆け抜けるのっち。
誰よりも練習したであろうスリーポイントをどんどんと決める。
相手のマークがきつくなれば、
今度は味方を生かしたパスを次々に送り出し始めた。
「すごい……」
いつもは顔に寝たあとをつけて、
「あ~ちゃん、さっきの授業のノート貸してぇ」
とか言ってくるのっちが。
いつもは私のあとを犬のようについて回るのっちが。
ものすごい歓声に包まれて、コートを縦横無尽に駆け回っている。
「頑張れぇ…」
私の声は今日一番の歓声にかき消される。
のっちのスリーポイントが決まって、
逆転した。
ここでハーフタイム。
なんと、あの強豪チーム相手にうちがリードしている。
のっちはもう相当汗をかいている。
かなり消耗しているようだ。
「のっち大丈夫かなぁ…」
ゆかちゃんが心配している。
私はもう心配すぎて声もでない。
第3ピリオドを終了しても、まだ点差はほとんどない。
まさにデッドヒート。
のっちが鍛えた後輩たちも、よく頑張っている。
観客も息を飲んで戦況を見守っている。
のっちを止めようとする相手のファウルが増える。
のっちが倒れるたびに観客が悲鳴をあげる。
私はもうずっと唇をかみしめて、
のっちの動きをひたすら目で追う。
気付けばもう、最終ピリオド。
残り時間は、
あと10秒。
2点ビハインド。
ボールはのっちが持っている。
もう勝つにはスリーポイントしかない。
のっちが残った力を振り絞ってドリブルで切り込む。
そして…あと3秒…。
のっちが白線の外からシュートを放つ。
私は横断幕をギュッと握りしめる。
シュートは…
無情にも外れた。
のっちはその場で膝をつく。
試合終了のホイッスル。
静まり返る体育館に、
相手チームの主将がのっちの健闘を讃えて拍手する音が響く。
場内が拍手で包まれる。
立ち上がったのっちの顔に、涙はなかった。
そして、笑顔もなかった。
試合後、ゆかちゃんはのっちのために、
冷たい飲み物を買いに行った。
私はおそるおそる、部室に入る。
タオルを被って床に寝転ぶのっちがいた。
「のっち…」
「…入って来ちゃだめだよ」
のっちは、泣いてるみたいだった。
「今は…だめ……」
私は思わずのっちに抱きついた。
のっちがびくっとして、顔のタオルがずれた。
「のっちはよく頑張ったよ」
「でも…」
「負けとらん」
「え…」
「負けとらん」
自分が無茶苦茶なことを言っていることは分かっていた。
「あ~ちゃんねぇ…負けたものは…」
私はのっちの口を閉じるため、自分の唇を重ねる。
のっちの悔しさを私が全部吸い取ってあげる…。
抵抗するのっちの舌を絡めとる。
次第にのっちも私の舌の動きに合わせて、
いやむしろ、リードして…
長い長いキスの末、お互い息が苦しくなって顔を離す。
「くくく…」
のっちが笑い出す。
「ちょっと、何を笑いよん」
「…、ごめん、だって、この体勢…」
「押し倒されてるみたいなんだもん」
この状況でそんなことを考えるか、この変態。
ちょうどゆかちゃんが帰ってくる。
「あれ、二人とも…何…して…」
「何もしてない!」
「ぷーっ!あひゃひゃひゃ」
固まって目が点のゆかちゃんと、笑い転げるのっち。
私はその真ん中で真っ赤になってあたふた。
ほんまに、二度と心配してあげんけぇ!
ゆかちゃんから飲み物を奪い取り一気飲みをする。
「あー、それのっちのー」
「ふん、知らんわこんな子」
私が走り出すと、のっちと、
そしてなぜかニヤニヤ顔のゆかちゃんが追っかけてくる。
苦い思い出が、甘い思い出に変わった。
最終更新:2008年10月10日 21:56