サイドN
『行きます。』
大学三年の冬。
“いつもそればっかり”
と、彼女に口癖を指摘された。
心の中では秋に言われたあの時から決まっていたはずの答え。
誰にも相談しなかったのは、
誰かの意見で決めるなんて失礼なこと
したくなかったから。
誰にも相談しなかったのは、
誰かの意見に左右される格好悪い自分じゃ
この先守りたいものも守れないから。
大学三年の冬。
厳密に言えばもう冬も終わるだろう。
いつものようにバイトにむかい、
いつものようにオーナーはコーヒーを飲んでいた。
穏やかで、優しいその人が、
実は内心冒険家で、
“変わらない”ことが嫌いな
好奇心旺盛な努力家だと知り、
私には一つの答えしか出なかった。
尊敬に値するその人が
“来い”
と言うのなら、
“行く”
のが、全てだ。
『そう!よかった!』
いつもみたいにニカッと子供みたいに笑う。
『言った?』
その無邪気な笑顔のままで触れる。
『いや、、まだ、、。』
私の返事に戸惑うわけでもなく、
『うん。そっか!』
やたらと検索してこない人だ。
私はそれを心地よく思ったし、
いい意味で“適当”なオーナーをありがたくも思った。
『でも、まぁ早めに言った方がいいよ〜w』
最後にはふざけながらも核心をつく凄い人だ。
そうなんだ。
私はまだ言えないでいる。
だから誰にも相談しないっていうのもある。
一番に報告したいのは、
彼女だから。
春休みに入る前、
私はバイトを減らして
彼女との時間を多く持った。
『いいよ、いいよ。出発早めちゃったし!』
オーナーは快く承諾してくれた。
そう。
私はオーナーに合わせて出発を早めた。
大学にも言った。
“就職が決まった”
と言えば、
すぐに研修が始まるのが当たり前で、
それが海外ってきたもんだから、
ゼミの先生も色々と試行錯誤してくれた。
『前期までは出てね!そうすれば後期は単位たりるから。』
そう。
だから夏が終わったら私はアメリカに行く。
帰ってくるのは卒業式。
そしたらまたそこから二年。
彼女に言おう。
一刻も早く。
前だってこんなことあったじゃないか、、。
永遠の別れじゃない。
これが最後じゃない。
大丈夫。
大丈夫。
大丈夫だよね?ゆか?
サイドK
『話ある。』
いつもみたいにふざけて抱きついてきたくせに、
急に低い声を出すから驚いた。
そんな真剣な顔して、
また何かおかしなことでも始めるの?
片方だけ上がった眉が少し笑える。
『なんよ?』
手をつないだ帰り道。
今日は月明かりがまぶしいね。
綺麗なあなたの横顔を
“これでもかっ!”
て程に照らすから、
私は何度あなたの波に溺れればいいんだろう?
『うん。あのね?』
いつになく慎重だから、
こっちまでかしこまっちゃって。
二人してとった、
汗を拭くみたいな変な仕草に、
二人して笑った。
夜の道に二人分の笑い声が響く。
何かを確認するように、
“うんうん”
って頷いて、
清々しい笑顔を見せてくれたのっち。
『うん。大丈夫だw』
『なんよそれ〜w』
ふざけ合いながらも
お互いの存在を確認するように、
手を強く握ったのっちの体温がいつもより熱い。
『ゆか?』
『ん?』
『好きだよ。』
『何!?w』
急な告白に笑ってごまかしながらもドキドキ。
『あーー!!もう、ちょー好きだぜーー!!』
急に大声で叫ぶのっちを見て
また笑った。
のっちも笑った。
夜の道に二人分の笑い声が響く。
『のっち、アメリカ行くわ!』
最終更新:2009年05月30日 22:47