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N-side



「あ、大本さんだ」


大学の食堂で一人、カレーにがっついていると、後ろでそんな声がして振り返った。三人組の女の子…あ、ゆかちゃんの友達だ。前に酔っ払ったゆかちゃんを迎えに行った時に確かいた子達。
シカトするのもアレだから、どうも、ってとりあえず頭だけ下げておいた。


「ほら、めっちゃ可愛い!」
「目チョーおっきい」


なんか色々言われてるな…まぁ悪い事ではないみたいだから気にしないけど、てゆうか普通に嬉しいし頬が緩んじゃうんだけど。もしかして友達になるチャンス?なんて思ったけど、散々のっちの見た目について褒めちぎったかと思うとプレートを持ってそそくさテラスに出て行った。
あれ、そういえばゆかちゃんいなかったよね?いつも学校で一緒にいるのに、どこにいるんだろ。


「のっち〜」


ん、この声はマイエンジェル綾香ちゃん。光の速さで振り返る、手をヒラヒラさせたあ〜ちゃんがプレート片手にこっちに向かってくる。のっちはもう一個の椅子に置いていた荷物を慌てて床に下ろして席を空ける。珍しく一人だし。


「あ、またカレー?」
「うん、美味しいよ、あ〜ちゃんも一口どう?」


そう言ってカレーを掬ったスプーンを着席したあ〜ちゃんの顔に近付けると、あ〜ちゃんは要らん!と笑いながら首を横に振った。間接キスが失敗に終わり、のっちは肩を落とす。


「のっち、聞きたい事があるんよ」
「ん?なに?」


なんか、あ〜ちゃんの表情が深刻だ。自然と身が引き締まる。唇の動きがかなりスローに感じられた。緊張しちゃう、なんでだろ。


「最近ゆかちゃん元気ないけど、何か知っとる?」
「……ネズミが死んだとか?」
「あ〜、それあるかも」
「やっぱ死んじゃったのかな、やなヤツだったけど居なくなったらなったで寂しいかも」
「じゃね〜」
「ちょろもふーくんも生きてますけど」


ギョッとして顔を上げると、そこには口角を下げて不機嫌丸出しのゆかちゃんが。うわこっえ〜、まじ怒らせたら一番怖いよね、ゆかちゃんって。言葉で人殺せそうだもん。
元気ないのは多分、てか絶対のっちのせいな気が。多分ゆかちゃんが友達と飲みに行って迎えに行ったあの日からだよね、のっちが変な事を言ってしまったから。付き合うならゆかちゃんとか、そーゆー舐めた事。


「あ、そういえばさ、ゆかの友達がのっちと友達になりたいって言ってたよ」
「へ、女の子?」
「うん、椎名林〇大好きって言ってたからのっちと気が合うかもね」
「うっそ〇檎信者?やっべー超仲良くなりたいかも」
「今度のライブのチケット余ってるから一緒に行こって言ってたよ」
「ホントに!?うわ超嬉しい超行きたい」


今のっちの目は輝いているだろうな。それにゆかちゃんの友達って事は可愛い子に決まってるし。いやいや別に下心があるとかでなく、のっち友達いないから寂しいだけであって、ね。


ガタン、と音がして


「講義始まるけぇ、そろそろ行くわ」


と言って目も合わせずにあ〜ちゃんは席を立った。あ〜ちゃん、と名前を呼んでも振り返ってもくれない。置き去りにされた気分だ。


「やったね、のっち」
「…なにが」
「ヤキモチ焼かせてあげたよ?」


と言ってゆかちゃんはピースサイン。そんなの要らないんだよ、のっちはあ〜ちゃんと一緒にいたいだけ。分かってるくせに、ゆかちゃんの意地悪。
やっぱりあの時ののっちの言葉、無かった事にはしてくれないんだね、ゆかちゃん。









A-side



なんか最近、分からなくなってきた。それはふとした瞬間にやっぱ違うかって証明されるんだけど、でもやっぱりまた違う場面ではそうなのかも、って。
知ってるんだよ、あの夜二人がリビングでいっぱいキスしてた事。盗み見するつもりじゃなかった、たまたま窓の外から二人の声がしたから帰ってきたのかと思って、それで様子を見に行こうと思ったらリビングのソファーで何度も何度もキスしてた。
驚いたのは、泣いてるゆかちゃん。驚いたのは、夢中でキスを繰り返すのっち。驚いたのは、「付き合うならゆかちゃん」の言葉。たくさん驚いたけど、不思議と頭は冷静だった。高2の春にのっちに振られたあ〜ちゃんは、別になんとも思わなかった。


だけどなんだろ、あの時は平気だったのに、今さら胸がドキドキする。さっきすれ違った女の子達が「やっぱりゆかちゃんと大本さんってカップルみたいだね」と話していた事もそう。最近みんな、変だ。
確かに二人とも可愛いよ、ゆかちゃんは日に日に綺麗になっていくし、のっちは高校時代こそ女子校だった事もあり王子とかなんとか呼ばれ、今は男の子も女の子ものっちの噂をしてる。度々のっちの事を聞かれるけど、何かと皆下心丸出しだから怖くてアドレスなんか教えられたもんじゃない。


そんな絵になる二人だからか、カップルだなんて凄い発想。でもあながち間違ってはないか、あんなキスをしてたもんね。だけどね、高2の春にあ〜ちゃんはのっちに告白されとるんよ。「ずっと好きだったから付き合って」って、愛の告白ってヤツを。凄いでしょ、あののっちによ?ヘタレで人見知りで王子様なのっちによ?アンタらにはこの凄さが分からんかもしれんね、これって本当にどえらい事なんよ。


それすら何も無かった事にして、今はなぜか綺麗になってくゆかちゃんと人気の衰えない王子に嫉妬。いつから自分はこんなに惨めになってしまったんだろう。のっちに振られて自信を無くしたから?違う、今でものっちはあ〜ちゃんを見てくれている。
それだけで良かった、幸せに思えた、あ〜ちゃんはずるい、自分でも悲しくなるくらい辛いしずるい。可愛くないや、あ〜ちゃん昔の方が多分可愛かったな。今よりモテモテだったもん、あの頃は。他の学校の男子とかからも告白されるくらいで、のっちも気が気じゃなかっただろうし。


分かった、だからだ。
可愛くなくなったから、あ〜ちゃんじゃなくてゆかちゃんなんだ。のっちのお姫様は劣化しちゃったんですね。


「あ、あやちゃん来た来た」
「こっちだよ〜」


講義室に入ると、いつもの仲良しメンバーがあ〜ちゃんの席も取っておいてくれたみたい。それだけでなんか嬉しくて足取りは軽くなる。さっきまで鉛みたいに重かったのに。


「そういえばさ、さっきあやちゃん大本さんと食堂にいたでしょ」
「うんいたよ〜」
「私一瞬大本さんがあやちゃんの彼氏かと思ってビックリしちゃったんだけど!あやちゃん彼氏いたっけ?て思ったら、よく見たら大本さんだしまじビビったよー」


なんて笑って言って、周りの子達も笑いながら「私もそれある」なんて言って意気投合しちゃってる。なんだ、こりゃあ〜ちゃんの考え過ぎか。
よく考えたらこの一週間で三人に告白されとるし、高2の時とあんま変わらん。




◇10:終◇






最終更新:2009年05月30日 23:00