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SIDE-N


「だだいま」
「おかえりぃ…」


ドアを開けると眠たそうに目を擦りながらパジャマ姿のあ〜ちゃんが迎えてくれる。
あたしはもう一人暮らしではなくなっていた。
あ〜ちゃんと半同棲状態。
玄関先でただいまのキスをする。
いつもならこのままキスを深めちゃうところだけど、今日のバイトは大分キツくて。
あたしはあ〜ちゃんに甘えるように抱きついた。


「あ〜ちゃん、疲れた…」


瞼を閉じればもう意識を手放す寸前。
このまま眠ってしまうかと思ったら、あ〜ちゃんに頬を思い切り抓られた。


「痛たたたっ!」
「ちゃんとお風呂入って、歯磨きしてから寝なきゃ駄目でしょうが」


母親のような注意をするあ〜ちゃんの言うことを聞かない訳にはいかず、
半分意識が飛びながら寝る仕度をした。
少し大きめなダブルベッド。
半同棲をするようになってから買った。
それに崩れ落ちるかのように寝転ぶと、もう半分の意識が飛んだ。
あと残り4分の1。
その意識は一人で大きなベッドで寝る寂しさに向けられた。
そういえばあ〜ちゃんも眠たそうだったよね。
あ〜ちゃんを抱きしめながら寝られたら、それ以上の幸せはない。




「あ〜ちゃんはまだ寝ないの?」


リビングにいるあ〜ちゃんに呼びかける。


「うん。ゆかちゃん帰ってくるの待ってる。」


そう言いながら寝室まで来て、ベッドに座ったあ〜ちゃん。
実はゆかちゃんとも半同棲状態。


「ゆかちゃん、今日飲み会なんだって…」


ゆかちゃん飲み会か…。
帰ってくんの遅いだろうなぁ。
ふと思う。
あ〜ちゃんがゆかちゃんを待つのは、ゆかちゃんが好きだから?
それとも優しさ?
今は考えることさえできないけど、
考えても無駄ってことは直感的にわかってる。
あたしはあ〜ちゃんと居ると昔の自分が信じられないほど、素直で純粋な自分でいられる。
だから余計な計算とかしないし。



隣に座ったあ〜ちゃんはあたしの頭をそっと撫でてくれる。
柔らかい手の感触が心地良くて、残りの意識もだんだん薄れていく。
もうほとんど意識がなくなった時、
玄関からこちらに向かってドタバタという足音が近づいてくるのを僅かに感じた。


「たっ、だいまー!!」


ベッドが軋む。


「ゆかちゃん、おかえり…相当酔ってる?」
「じぇーんじぇん酔ってないよー!」


あ〜ちゃんの困惑した声にゆかちゃんの酔っ払い特有の陽気な声。
ごめんね、あ〜ちゃん。
今日は助けられない。
少しだけ取り戻した意識を手放す準備をしようとした途端、身体に重みがかかった。



「うっ…」
「のんのん…ゆか帰ってきたよー」


ゆかちゃんの声が耳元で聞こえる。
ゆかちゃん、さてはあたしの上に乗ってるな?


「…お、おかえり」
「ふふっ、ただいまぁー」


かなりご機嫌なゆかちゃん。
上に乗られてるのは我慢して今度こそはと、意識を手放そうとしたら
再び耳元でゆかちゃんに話しかけられる。


「ねぇー…今から三人で、シない?」


ちょっとだけドキッとした。
でも身体はもうクタクタだし。
三人だと…体力がもたない。


「今日は無理…」


そうとだけ答える。
あたしの返事でゆかちゃんはご機嫌ナナメに。
「つまんない」と言いながら、あたしの上から降りてくれた。
身体が軽くなって、やっと寝れると安心する。


「あ〜ちゃん…のっち、つまんないの!」
「まぁーのっちもバイトで疲れてるし…。
ほら、ゆかちゃんももう寝る準備して!」
「やだー!つまんないもん!」


背中越しに聞こえるやり取り。
あ〜ちゃん、ほんとにごめんね。


「あ〜ちゃんがゆかにチューしてくれたら寝る!」
「本当?」
「うん!」
「じゃあ、してあげるから…寝てよ?」




あ〜ちゃん、ちょっと待って。
なんだかその言葉はとんでもない罠な気がする。





つづく






最終更新:2009年05月30日 23:18