アットウィキロゴ
K-side



「ねぇ、あれからどうなの?」


朝一番、おはようより先にのっちに放った言葉はこれ。眠そうな顔したのっちは歯磨きしながら「なにが?」な表情。その横からゆかは手を伸ばして自分の歯ブラシを取る。


「例の林〇さん信者とは。昨日メールした?」


のっちはうがいをしてベッと水をはき捨てる。そして歯みがき粉臭い口でゆっくりと話しだした。


「メールしてるよ、あの子返信めちゃくちゃ早いね、返事した一分後くらいにすぐ返事きてびっくりした」
「あー、確かに早いね」
「でも色々聞いてくれたから今も続いてるよ、ただのっちは質問に答えてるだけだけど…」
「あはは、」


片想いしてる女の子が好きな男の子とのメールを絶やしたくないが為の良くあるパターンだね、質問攻めって。まるでこれじゃのっち男の子みたいじゃん、超笑える。
だから、という訳でもないけど、そろそろ揺さぶる良い時期だとゆかは思うの。これをきっかけにしたい。ゆかは仕事をするだけ。


「のっちって、もうそこまであ〜ちゃんのこと好きじゃないの?」
「……なんで?」
「いや、なんとなく」
「…分かってるくせに」
「分かんないから聞いてんじゃん、あ〜ちゃんも付き合うならゆかって言ってたし、もういっそ付き合っちゃおうかな」


なんて幼稚。いつもののっちだったら、すぐに冗談だと気付いて笑ってくれるだろうけど、最近ゆかと色々あったもんね、冷静さが欠かれてる。


「…そう」


ほら真に受けてる。ばーか。
いつまでもちんたらちんたらしてるからこーゆー事になるんよ、極度のヘタレも考えもんじゃ。


「アンタあの頃からなんも成長しとらんのね」


小さく笑って、鏡越しにのっちを見ると、眉間に皺を寄せて、これまた鏡越しにゆかを睨んできた。おーこわい、犬が毛を逆立ててる。そして


「カンチョー!」
「ぷぎゃあ!」
「へっへーんだ!ざまぁみろ!」
「のっち!こら待ちんさいや!」


渾身の一撃を放ったのっちは、一目散に逃げていった。ゆかはお尻をおさえてうずくまる。
うぅ…あのアホ犬……やってくれよった…。


N-side



ゆかちゃんの言葉に動揺を隠す事は出来なかった。そこまでのっちはうまく自分をコントロールしきれていない。ゆかちゃんの言ってる事が本当なら、あ〜ちゃんは付き合うならのっちでなくてゆかちゃん、と確かに言った訳であって。
そうなると話は変わってくる。のっちは今の親友をライバルと呼ぶ事になるのか、いやむしろ勝負はついていて、ゆかちゃんに王子の座を渡す事に?そんなん嫌じゃ。のっちこの家でもう二人と住めなくなる。そうなったら出てくよのっちは。


「あ〜ちゃ〜ん!あ〜ちゃん、のっちがゆかにカンチョーしたぁ〜」
「ええぇ、チクるとか卑怯じゃ!」
「のっち!アンタ良い年してゆかちゃんになんて事しよんの!」


などと言って気がついたら細い通路に前にあ〜ちゃん、後ろにゆかちゃん、と挟み撃ちを食らってしまった。逃げ場のないのっちはジリジリ詰め寄る二人の間であたふた。
だってゆかちゃんがあ〜ちゃんと付き合っちゃおうかな、なんてチャラ男が新しい女の子を見つけたみたいに軽く言うもんだからさ。そんなチャラ男講師かしお…じゃなくて、ゆかちゃんに容易く受け渡せる程あ〜ちゃんはお手軽コンパクトなゲーム機じゃあるまいし。
自分でもその抵抗がカンチョーなんて泣けるくらい情けないけど、ゆかちゃんはどこまで本気でどこまで冗談なのかたまに分からない事があるから。だから、逃げた。ゆかちゃんの言う通りだ、のっちは逃げてばっかであれから一つも成長していない。


「ゆかちゃんが痔になったらどうするんよ、アホのっち!」
「そうよそうよ!痔になったらお医者さんにお尻の穴に指入れられるんよ!?」
「ゆ、ゆかちゃん随分詳しいんだね」
「お父さん治療中じゃもん」
「そうなん!?」


などと二人が盛り上がってる内に、のっちはそろそろと壁に張り付いてすり抜け…られる訳もなく、二人に押さえ込まれてしまったのっちは子供みたいにお尻をペンペン叩かれてお仕置きされてしまった。
うぅ…今どきこんなお仕置きするお母さんいないよ…。やめて、ゆかちゃん写メ撮らないで!
もう色んな意味で羞恥プレイを受けたのっちのほんの小さな金平糖くらいのプライドはバラバラに砕け散った。


「もうしませんは?」
「うぅ…もぅしましぇん…」
「よろしい」


やっと解放されたのっち。お尻がジンジンと痛む。そして涙はしばらく止まらなかった。



A-side



お尻ペンペンでのっち号泣があ〜ちゃんとゆかちゃん的にはかなり萌え萌えであれから写メ交換祭りが開催されたんだけど、のっちとしては死にたいくらい嫌だったらしく、ここ数日生気を全く感じられなかった。
だけど、今日は少しだけ、ほんの少しのミジンコくらいの生気は感じられた。どうやら前にゆかちゃんの紹介で仲良くなった子と約束していたライブに行くらしい。
だからそんなのっちをあ〜ちゃんは玄関でお見送り。のっちがあ〜ちゃん達以外の人と遊びに行くのはこっちに来て初めてだから、なんかちょっと心配。あ〜ちゃんははじめてのおつかいのお母さんみたいな心境。


「良いなーライブ」
「良いじゃろ〜生〇檎さんよ〜」
「今夜は雨降るらしいけぇ、折り畳み傘ちゃんと持った?」
「うん持った」
「携帯も財布も持った?何かあったら連絡するんよ?」
「持ったし分かってるし、のっちももう大学生なんだからさぁ、」


靴ひもを結び終えると立ち上がり、のっちはリュックサックの肩紐を掴んで笑顔で振り返った。あぁもう、今から遠足に行く小学生かっての。


「んじゃ、行ってくるね」
「うん、行ってらっしゃい」


そう笑顔で見送る。
いつまで経っても世話の焼ける子供みたく思っていたけど、本当はあ〜ちゃんが子離れ出来ないママなのかも。ゆかちゃんも心配で、のっちも心配で。
と言った先からほら、鼻歌歌いながらおしゃれな服に身を包んだ小悪魔ちゃんがやってきたよ。


「ゆかちゃんお出かけ?」
「うん、男の子と飲み行くの」
「二人きりで?」
「んな訳ないじゃん、合コンよ合コン」
「また〜?」


合コン中毒ですか。
毎回毎回帰ってくる度に「イケメン揃えるって言ったくせにキモい奴ばっかだし!まじ萎えるわあり得んわ〜」とかうだうだ言うくせに全く懲りてない。


「あ〜ちゃんはお出かけせんの?」
「あ〜ちゃんはお留守番しとる」
「一緒に飲み行かない?」
「未成年の飲酒は法律で禁止されています」
「固いこと言うなよあ〜ちゃんー」


などとあの得意のイケメン声で肩を抱いてきたチャラ男講師かしお…でなくゆかちゃん。
これは乗っておくべきかと思い、あ〜ちゃんは演技風のあの高い声を出す。


「やめて下さい〜私お酒飲めないんですぅ〜」
「オレが飲み方を教えてやるよー、天文学の分からない所もオレが教えてやるよ〜」
「でも〜、私天文学とってないしぃ…」
「くっそぉー」


と悔しそうにゆかちゃんは叫んだ。あのゆかちゃんのイケメン声、ちょっとドキッとするんよね…心臓に悪いわ…。


「と、ゆー訳なんでゆか夜ご飯いいや」
「あ〜ちゃん一人でフルーツパーリーしとるも〜んだ」
「お留守番よろしくぅ」


ゆかちゃんは抱きついてきたかと思うと、あ〜ちゃんの頬に軽い音を立ててキスをして、玄関を飛び出して行った。チャラい、チャラいよなぁ。

よくよく考えると、あ〜ちゃんが一人でお留守番ってなかなかないかも。のっちはよくお留守番…というかあの子の場合はただ単に引きこもってるだけか。
誰もいないと静かなこの家は、一人で使うには広すぎる。ようし、こんな時間だけど、掃除でもしようかな。



◇11:終◇






最終更新:2009年05月30日 23:36