アットウィキロゴ
サイドN


『意味なんかないよ。』
そう呟いた口元が近づく。

『意味なんかないもん。』
まるで自分に言い聞かせるみたいに、、。


そっと毛先に触れてやると、
ピクッと肩を動かしたように見えたから
今度はそっと頬に触れたのに、
ピクリとも動かないで、
まるで人形みたいに動じない。


すっ、と大きくて優しい
でも細くて冷たい手のひらが伸びてきた。
さっきまで冷水の入ったコップを持っていたかしゆかの手は
まるで温度を失ったみたいに冷たくて、
飲めないお酒で酔っている自分には気持ちがよかった。


視界が闇に覆われる。
かしゆかの創る、光のない暗い宇宙。
驚く程に心地よいそれに
光もあたらないのに目をつむる。
かしゆかの創る手のひらの下で目をつむる。


冷たい手のひらで覆われた暗闇なのに心地がいいのは、
唇から伝わる生温さが
心にも響いたから?


『意味なんかないよ。こんなキスに。』


サイドK


『意味なんかない。』
そう動く口元。まだ目は見れない。

『意味なんかないなら、こんなのキスじゃない。』
そう動く口元。もう目は見れない。


弱いくせに強がって飲んだお酒に酔ってるの?
私の心の中に、
その柔軟な体みたいに
ねじって、ひねって、
するすると入ってこないで。


どっち?のっち?
どっち?ゆか?


“嘘”だと言って
今すぐ私の手をはらいのけて。
“馬鹿”だと罵って
今すぐ私を突きとばして。


もう・・・やめて。
もう・・・とめて。
もう・・・
そんなに優しく手を握らないで。


『意味なんかないなら、こんなのキスじゃないから。』
わかってる。
わかってた。


『キスじゃないなら、無害だから・・・。』


『曖昧』な唇が重なった。
見つめる目も
やっぱり『曖昧』



サイドN


『意味なんかないなら、続けても無害?』
まるでひらきなおったような声色に戸惑い1つ。
『意味なんかないから、いいよね?』
まるで確信犯みたいな言動に戸惑い2つ。
『意味なんか知りたくない。目、閉じてよ。』
まるで操り人形みたいな自分に戸惑い3つ。


さすがに3つも戸惑っていたら、抵抗なんか出来なくなる。
してる暇がないから。


強い口調で出てくる言葉とは裏腹に
唇だけは柔らかくて、
曖昧なこの感情ごと
心地よさに流される。


かしゆかの手のひらがまた目の前にひろがる。
視界が闇に覆われる。
唇に、もう何度目だろう
生温い温度が伝わる。
温度までもが『曖昧』だ。


『見なくていいよ。意味ないから。』
耳元で聞こえるその声に
もう一度かたく目をつむった。



サイドK


意味を見つけたいわけじゃない。
“意味はない”と何度も言っては、
自分に言い聞かせてるようだった。
意味を見つけたいわけじゃない。
むしろこの『曖昧』な感情ごと
洗い流してほしかった。


“意味がないならやめろ”
そう言って払いのけてよ。
だけど返ってきたのは
“意味がないなら、無害”
そんな『曖昧』な答えが聞きたいわけじゃない。


だけど私が意味のせいにして
この感情を隠すように、
のっちも意味のせいにし
何かに耐えてるみたいだった。


私はずるいから
私はずるいからね?
否定されないのなら、止まれないの。
止まれないどころか、止まる気もないの。
それどころか、
止まるために存在する心のブレーキは、
なぜかこの部屋にあがってから、
急に故障したみたい。



つづく







最終更新:2009年05月30日 23:40