朝目が覚めてまっさきに思い浮かんだのは、今日の約束。
駅前に3時、ゆかちゃんと、待ち合わせ!
ここのところずっと忙しくて、二人で出かけるなんてできんかったもんね。
久しぶりのデートだから、ばっちり気合い入れちゃうよ。
新作のマスカラに、キラキラのジェルネイル。
思い切って奮発したピンクのワンピにお花の髪飾りを差したら、…準備完了!
待ち合わせの15分前。ちょっと早く来すぎたかな?
もうすぐ会えるから、走り出しそうになるココロを抑えて、
呼吸を整えて、…髪OK、メイクOK、服OK、
も一つ深呼吸して、、、目を開くと…、
ほらね、人波の向こう側に、見つけちゃった!
「…あ~ちゃん、遅くなって、ごめんね!」
さらさらの髪を風になびかせたゆかちゃんが、とことこと駈けてくる。
涼しげなブルーのチュニック、ミニスカートに小さなカゴバック。
今日のゆかちゃんも、超可愛いっ!
「どうしたん?あ~ちゃん、今日はオシャレさんじゃね?」
ゆかちゃんに会えるから、…なんて、言えないから、
「えへへ、可愛いでしょ?」って、自分で言ってみたり。
「可愛い!あ、ゆかね、ほら、こないだ一緒に買い物したときの、つけてきたんよ」
ゆかちゃんの耳にキラっと光る、お星さまのピアス。
あ~ちゃんが、絶対似合うからって勧めたやつじゃね…、なんか…嬉しい!!
とってもよくあってるよ、ゆかちゃん。
「さ、行こ~よ、あ~ちゃん。」
「うんっ!」
「今日は、どこ行くん?」
「あ~ちゃんはね、ケーキが食べたい!」
「いいね!ゆかも、いつものケーキ屋さんに行きたいな~。」
ゆかちゃんと並んで歩く、お気に入りのカフェまでの道。
ちょっとおしゃべりするだけの、たわいもない時間。
こうしたかったの、今すっごく楽しい。。。
「あ~ちゃんは、何にするん?」
「うーん、いつものフルーツタルトかな。」
「じゃあ、ゆかはレアチーズ。あ~ちゃん、半分コしよーね?」
「もちろん!」
そう、いつだって半分づつじゃもんね。
おいしい時も、すっぱい時も、苦い時も。
いつだって、一緒じゃろ。
だって二人は、…友達だから。
テーブルに並んだ、色とりどりのスイーツ。
あ~ちゃんのは、生クリームたっぷりのフルーツタルト、
ゆかちゃんのは、ブルーベリーソースのレアチーズタルト。
ミントのハーブティーが、ふんわり香る。
「いっただきまーす!」
「いだだきます…。ん~、おいしいね~っ。あ~ちゃん!」
うん。でもね、どんなに甘いタルトも、ゆかちゃんの笑顔にはかなわない。
「ゆかちゃん、それ、ちょうだい?」
「えぇよ。…はい、あ~んして?」
「あ~ん!」
「な~んてねっ、自分で食べんさい。」
「…ぶぅ~っ」
「あっ、あ~ちゃん、こんなとこにクリームついとるよ?」
ゆかちゃんが、あたしの唇を指先でなぞる。
すくい取ったクリームをペロッとなめて
「うわっ、甘~いっ」って、舌を出した。
「…あ~ちゃんのクリームだもん、甘いにきまっとるじゃろ?」
「そうね。そりゃ、甘いわけじゃ!」
ゆかちゃんは、おかしそうにくすくすと笑いだした。
なんでかな、…ゆかちゃんは、いつも、そうなんよ。
こんなに甘いのに、こんなにスパイシー。
あたしの温度を上げたり下げたり、
矛盾だらけの不思議な気持ちさせる。
こんな時のゆかちゃんと目が合うと、…ちょっと苦しくなる。
「あ~ちゃん?」
ゆかちゃんの優しいまなざしが、あたしを見つめてる。
「これ、食べないの?」
「食べる…。」
「じゃぁ、大サービス。…あ~ん?」
「あ~ん…」
とろけるようなレアチーズタルト。
ミルクの濃い香りが、口いっぱいに広がる。
胸がキュンとなるのは、甘酸っぱいソースのせい…じゃね。
「あ~ちゃん、おいしい?」
「うん…、おいしい。」
「よかった!ゆかにも、ちょうだい?」
「はい、ゆかちゃん、…あ~ん?」
「むぐっ!んん…。ってコレ、結構照れるね~…」
ゆかちゃんが、ほんのり赤くなる。
前髪をいじりながら、恥ずかしそうに俯いて、
ハーブティーに手を伸ばした。
「あちちっ!」
ゆかちゃんは、こう見えて意外とおっちょこちょいだ。
そこがまた、かわいい。
それからあたしたちは、お茶を片手に、たくさんたくさんおしゃべりした。
楽しかったこと、嬉しかったこと、びっくりしたこと、
昔のこと、今のこと、それから、それから…。
いくら話したって、足りない。時間は、あっという間に過ぎてく。
「もうこんな時間。あ~ちゃん、このあと、どうしよっか」
「あ~ちゃん、お散歩に行きたいな…。」
「外、歩くん?じゃ、出ようか。」
会計を済ませて、外に出ようとしたその時。
ポツポツッ…と、ガラスを叩く水音。
「…雨?」
ポツポツとした雨音が、次第にシトシト、ザーザーに変わっていく。
…天気予報のうそつき。
バックに忍ばせてた折り畳み傘…、全然嬉しくないよ。
「雨じゃお散歩はできんし、…今日はもう、帰ろっか。」
「…。」
「あ~ちゃん、傘持っとる?」
「…持っとる、けど。」
「よかったぁ!ゆか、傘持ってきてないんよ。入れて?」
ゆかちゃんは、あたしの傘を広げて、肩をすりよせた。
「一緒行こ?あ~ちゃん。」
ゆかちゃんが、近い距離でにっこり微笑む。
いつも近くにいるのに。
ゆかちゃんがそんな風に笑うから、…触れてる右手が、震えてしまう。
ザーザー雨音が、ゆっくりと歩くあたしたちを包んだ。
小さな傘の中が、二人だけの世界になる。
ゆかちゃんの体温が伝わってきて、
暖かくて、溶けてしまいそう…。
手を伸ばせば、抱きしめられる距離に、
閉じ込めていた想いが、もう、はじけてしまいそうになる…。
(あたしは、あたしは、、、、ゆかちゃん…。)
危ういセリフがこぼれそう。
(ねぇ、ゆかちゃん、…あたしの願いは。。。)
言葉を紡ぎだせないまま、傘を叩く雨音を聞いていると、
束の間の時間は過ぎ去り
雨の向こう側に、コンコースが見えてきた。
…もう、バイバイしなくちゃいけないの?
もっと、一緒にいたいのに…。
別れたくなくてもじもじしていると、
ゆかちゃんが顔をよせてささやいた。
「あ~ちゃん…」
ふいに肩に置かれた手と、
頬に感じた、微熱。
鼻先をくすぐるように撫でていくのは、ゆかちゃんの、甘い香り。
(…っ!?)
「じゃ、また明日ね。あ~ちゃん!」
ゆかちゃんは固まったあたしを残して傘をでると、そのまま改札に向かった。
「…っ、ゆかちゃんっ!」
改札を抜けてホームに出たゆかちゃんが、半分だけ振り返った。
雨のカーテンの向こうに、右顔だけが霞んで見える。
雫を宿した前髪と、茜色の頬。
照れ臭そうに唇を結んで、小さく手を振っている。
あたしも、しっかりと手を振り返した。
手をふった勢いで、傘が、こぼれ落ちる。
「ゆかちゃん、また明日ね!」
小さなあたしの声は、電車の音にかき消されて。
電車の扉にもたれかかったゆかちゃんが、困ったように笑ってる。
ゆっくりと遠ざかっていく、やわらかい影。
あたしの頬に、消えない熱だけを、残して。
「…また、明日。。。」
傘を拾いながら、空いた方の手でほかほかするほっぺを押さえた。
(…。はぁ、今日も、言えんかった…。)
さっきまで触れていた右手がまだ、ドキドキしている。
幸せな微笑みに包まれて、いつも伝えられない、言葉。
心の中で言うのなら、こんなに簡単なのに。
ゆかちゃん、あのね。
あ~ちゃんは、、、、
ゆかちゃんのトクベツには、なれなくても。
あ~ちゃんのトクベツは、ひとつだけ、なんよ。。。
神様、
もしも明日、晴れたなら、
この想いを、伝えたいから。
どうか遠くで、祈っていて。。。。
…お願い、じゃけぇね。
おしまい
最終更新:2008年10月10日 22:27