サイドN
無害なものなんて、本当はない。
この世に無害なものなんてない。
意味のないものなんてない。
意味がないなら
最初から存在しない。
意味はある。
あったうえで、
有害か、無害か。
私に降り注ぐのは酸性雨。
水素化合物である酸。
私は水素。
物質の中で最も軽い。
そして、
最も燃えやすい。
有害か、無害か。
そんなことはわからない自分の特性。
あなたは酸素。
無色で無臭で無害。
誰しもが生きるために欠かすことができない。
あなたは無害。
だけど二つの気体元素は
化合して水になる。
あなたと私は水になる。
なったら、
なったら有害。
水になったら何も残らない。
酸性の雨は、
雨はただそこに降るだけで何も残らないでしょ。
二つが一つに化合したら、
二人が一つに混合したら、
何も残らないで、
水のようにさらさらと、
何も残らないで、
ただ『曖昧』に過ぎ行くだけ。
だから有害。
やっぱり有害。
酸素ですら有害。
ならば、どう生きようか?
有害な酸素を体いっぱいに吸い込んで、
水に流してしまうしかない。
あなたの私に向けられた感情が読み取れない。
だけど私はこの期に及んで傷つきたくない。
だから意味がないと偽り、無害にしていくのです。
それが有害だと知りながら。
最初から拒むつもりもない。
そんなにきれいなままの子供でもない。
感情が、感情が凪。
急にさらわれたのに、
不意に風がやんだ。
有害だと知りながら、
それに犯されていくのも見てみたい。
願わくば
あなたなら
毒すら薬に変えてくれるでしょ?
つづく
最終更新:2009年06月17日 11:03