あ。かっこいい。
講義が終わり、皆ぞろぞろと帰っていく。その中で一人、頭ひとつ飛びぬけて背の高い男の人。
ゆるくパーマのかかった少し長い髪の毛。シンプルだけど手を抜いてはない、ってわかる自分に合った格好。
私の視線は思わずその人の通り過ぎる背中を追いかける。急いで荷物をまとめて、席を立ち上がった。
講義が終わったばかりの大学は人が溢れ返っている。
私はひとごみがあまり得意ではない。人が多いのが直接の原因ではなく、人の流れを避けるのが苦手なんだ。
それでもその高身長に、パーマの長髪は目についた。思わず追いかけていく。
好きなわけじゃない。恋をする予感もない。格好いい男の人が好き。
それを追っている自分はなんとなく惨めだけど、なんとなくで心音は早まっていく、気もした。
その男の人はするすると、まるで流れるように誰ともぶつからずに人ごみを泳いでいく。距離は離れていくばかりだ。
ファッションのセンスや、纏う雰囲気とは別のところで、ああ都会の人間だ、東京の人だ、と思う。
東京の人は、人ごみを泳ぐのが得意なんだ。
男の人はふいに立ち止まる。手を肩の高さくらいまであげ、誰かに振っている。
すると女の子が現れた。彼女だ、きっと。ギターを背負っている。ずいぶん可愛い女の子だ。
お似合いのカップルってやつ。
二人は私の5メートルほど先で短い会話を済ませ、同じ方向へ歩いていった。
たった10分の尾行は終わった。
それでも私は歩みの速度をゆるめなかった。それどころか走った。人にぶつかる。
こういうところがなあ、苦手なんだよなあ。
それでも走った。このまま駅まで。だって、このあとあ〜ちゃんとデートなんだ。駅で待ち合わせだよ。そんであ〜ちゃんの顔見て、確認したい。やっぱこの人がいいじゃん、この人しかいないじゃんって。
心なんか乱されない。予測不能な未来もあんま思いつかないし、今のところ喧嘩する予定もない。
心音が早くなっていくんじゃなく、ひとつひとつ、確かに脈打つ感じ。
end
最終更新:2009年06月17日 11:31