「のっち、遅い!」
「ごめん…なかなかあ〜ちゃん見つからなかった」
「ゆかはこんなにおいしそうなドーナツを目の前に、ずっとお預けくらっとったっていうのに」
「ごめんって」
わざとやってるのかな?
のっちが可哀想。
悪いのはあたしなのに…
「ごめんなさい、ゆかちゃん。あ〜ちゃんふらふらしとったけぇ、すぐには見つからなかったんじゃろ」
「いいんよ。ゆかはのっちをイジメたいだけだから」
「えぇ〜、それひどくない?」
「へぇ〜…じゃあのっちはあ〜ちゃんが悪いと思うんだ?」
「そ、そんなわけないじゃん!」
いいな。
のっちはからかわれるのが上手だよね。
いつも上手にからかわれてくれてる。
優しくて、穏やかで。
誰よりも相手を思いやれるから。
あたしにはない、沢山のものを持ってる。
あたしにはなにがあるんだろう…
なんかあるのかな…
「なんか久しぶりだね。三人でまったりするの」
「あ、うん…ほうじゃね」
「あ〜ちゃんドーナツ食べないの?」
「食べる。ちょうだい」
「なにがいい?」
「なにがあるん?」
「ほい」
のっちがドーナツを箱ごと渡してくれる。
受け取ったあたしは中をのぞく。
色とりどりの沢山のドーナツ。
それすら今のあたしには羨ましい。
鮮やかだしおいしいし、食べ物なのに笑顔をくれる。
あたしはその中から、チョコレートのかかった、中に沢山のクリームが詰め込んであるものを選んだ。
どうせなら、うんと甘いやつがいい。
「やっぱり、あ〜ちゃんそれ選ぶと思った」
「え?」
「いつもそれ食べてるよね。毎回だからのっち覚えちゃったよ」
「そうかな?」
良くみてるな。
あたしのことなのに、あたしは知らなかったよ。
じゃあきっとあたしはこれが好きなんだろうな。
のっちは人をよくみてる。
あたしの知らないあたしまで、ちゃんと見つけてくれてる。
あたしには分からない、あたしの良いところ、のっちならなにか見つけてくれてるんだろうか。
「のっち思ったんだけどさ、あ〜ちゃん最近なんか元気なくない?」
「え…」
「一人でいること多いし。あ、気を使ってくれてるのはもちろん分かってるんだけど…なんか様子がおかしい気がして…」
「…そんなことないよ」
あたしはまた微笑む。
さっきの、あれ。
作り物みたいな、形だけの笑顔。
「あ〜ちゃんは、のっちとゆかちゃんが幸せそうにしてて、幸せよ?」
「うん。ありがと」
「…のっち、気付くの三ヶ月は遅い」
ハッとした。
ハッとしてゆかちゃんをみた。
一瞬で空気が凍りついた。
ゆかちゃんは寂しそうな、でもちょっと怒ってるような、恐い顔をしてる。
気付いてた?
てか、とっくにバレてた?
やだよ、やめてよ。
せっかく穏やかな時なのに、重苦しくなりたくない。
「ほんまに、のっち考え過ぎじゃ」
「でも…」
「へ〜きって言ったらへ〜きなんよ」
あたしはわざとおどけてみせた。
ただでさえ毎日キツイのに、気まずくなりでもしたら救いがない。
あたしは大口開けてドーナツにかぶり付いた。
「おいし〜」
「あ〜ちゃんっ!」
のっちに大きな声で呼ばれて、ビクッとした。
なによ、下手な芝居だって分かってるよ。
ゆかちゃんも心配そうにこっちを見ていた。
二人してあたしをみてる。
なに?
逸らしたくて俯くと、膝の上に雫が落ちた。
ああ、そっか…
あたし、泣いちゃってるんだ…
「あ〜ちゃん…」
のっちが腕を伸ばしてくる。
でもあたしは、ゆかちゃんの視線を気にして、それを邪険に払い退けた。
「平気よ。平気…」
最近あまりに泣くのが日常で、気付かなかったよ。
ヘマしたな…
こんな風に二人の前で泣いちゃうなんて。
「甘くて…おいし……」
ああ、ダメだ…
止まんない…
なんでよ、どうしよう…
思いとは裏腹に、どんどん溢れてくる涙。
次第にぼやける視界。
違うか…
想いに素直になるならば、涙が流れる方が自然だ。
でも、今はダメ。
だけど、止まらない。
「あ〜ちゃん!」
背中にのっちの声を聞いて、あたしは楽屋を飛び出した。
最終更新:2009年06月17日 11:33