Side K
ここは家の病院。
その一室に私は居る。
ベットで上半身を起こして友達と話しているのは、幼馴染のあ〜ちゃん。
話しているといっても、あ〜ちゃんは筆談…。
別に障害者ではない。
ただ、精神的なショックで一時的に声を失ってしまっているらしい。
一週間前…。
あ〜ちゃんは
初めての
恋人を…
亡くした
付き合い始めて、
たったの一週間で…。
周りから見たら、もっと前から付き合っててもおかしくない二人だったけど。
素直になれないあ〜ちゃんと、待つのが嫌いじゃないあの人の性格が祟って。
あ〜ちゃんが初めて告白されてから、一年も経ってようやく付き合いだしたのに…。
あの人の運転する車に、対向車のトラックが突っ込んでくるという悲惨な事故が、あ〜ちゃんからあの人をあっさり奪いさった。
一年かけて築いてきたのに、一瞬にして……。
あの人がココに運ばれてきたのを聞いて、あ〜ちゃんへ連絡して。
でも、あの人は助からなかった。
息を切らしてきたあ〜ちゃんへ、その残酷な知らせを告げると。
泣くでもなく、しばらく空を見つめていたかと思ったら、その場で意識を失って倒れた。
目を覚ましたあ〜ちゃんは、声を失っていた。
そして、検査などの関係で、そのまま入院している。
……。
声を失ってしまうほど、あ〜ちゃんにとってあの人の存在は大きかったんだと思い知らされた。
二人を見てたら、どう見たって向こうの方が惚れまくりのイメージだったから…。
でも、あの人と同じくらいあ〜ちゃんも好きだったんだね?
だから気になるのは、それほどの人をなくしたのに、あ〜ちゃんが一度も泣いていないという事。
誰よりも泣き虫なはずなのに。
大学の友人達がお見舞いに来れば、心配させまいと笑顔をつくる。
それが少し痛々しかった。
今はちょうど春休みで、あ〜ちゃんはもともと友達が多いから、毎日のように人がやってくる。
私は心配になる。
だって、あんなに眩しいくらいだった笑顔なのに。
今その瞳の奥には、光が宿っていないから。
「ねぇ、あ〜ちゃん。無理してない?」
皆が帰ってから聞いてみる。
‐‐してない!
ノートに大きく書かれた文字を、ニッコリ笑いながら見せてくれる。
「うそばっか。」
‐‐本当だもん
「じゃあ、なんで無理に笑ってるの?」
‐‐皆に心配させたくない
「それが、無理してるっていうのw」
しばらく黙って考えてるあ〜ちゃん。
またささっと書く
‐‐だって、強くならないと
「どうして?」
‐‐あの人は、いないから
そして、また無理して笑う。
そんなあ〜ちゃんを、無意識に抱きしめていた。
あ〜ちゃんはビックリして、私の背中を軽くトントン叩いてくる。
「良いんだよ、無理に笑わなくたって。」
あ〜ちゃんの手が止まる。
「弱くたって良いんだよ。」
私の腕の中でふるふると首を横に振るあ〜ちゃん。
「泣いたって良いんだよ。」
またふるふるする。
「あ〜ちゃん、あの人が死んでから泣いてないでしょ?」
きゅっと私の服を掴むあ〜ちゃんの手。
もしかしたらあ〜ちゃんは、あの人の死をどこかで否定したいのかもしれない。
泣くことで、居ない事を受け入れてしまうのが嫌なのかもしれない。
でも、でもね?
「泣くから弱いわけじゃない。泣ける強さだってあるの。」
背中にあるあ〜ちゃんの手の力が強くなる。
「泣いてあげなよ。あの人の為に…。それで、弱いと思うなら、私があ〜ちゃんを守ってあげるから。」
「…ゅ…k、ty…nっ。」
上手く出ない声で、確かに私の名前を呼んでくれた。
「うん。ゆかはココにいるよ?」
「ぅ、…ぅっ…。」
少しずつ泣き出したあ〜ちゃんの声は、次第に大きくなっていった。
それから数日後。
声も元に戻って、あ〜ちゃんは特に異常はなく無事に退院した。
大学にも休むことなく普通に通える。
そして、新学期が始まる…。
お見舞いに来てくれた友達と話しているあ〜ちゃん。
傍から見たら、何もなかったように、元と同じように笑って見える。
でもね。知ってるんだ。
私と違って友達づくりが得意なあ〜ちゃんは、昔から学年が変わってもすぐに新しい友達が出来てたはずなのに…。
今年は、一人もいない。
あ〜ちゃんは、失うことを恐れている。
だから、今まで仲の良かった友達とすら、以前より距離を置いている。
でも、私との距離は変らない、むしろ近くなった気がしてそれは嬉しかった。
…季節は移り、夏休みがやってきた。
季節がかわっても、あの日から変らない事がひとつ。
依然、あ〜ちゃんの瞳の奥の光は戻らないままだった。
お願い
誰でも良い…
誰でも良いから
あ〜ちゃんの光を取り戻して。
—つづく—
最終更新:2009年06月17日 11:46