アットウィキロゴ
のっちと距離を置いて三日経つ。
三日間、あたしからのっちに話しかけたのは、片手で数えられるくらいの回数。

いつもは大体あたしから話しかけて、のっちがずっと話を聞いてくれる。
でもこの三日間は、のっちが積極的にあたしに話しかけてきてくれた。

あたしはそれが複雑だった。
あたしがどんなに冷たい態度でのっちを避けてるのに、のっちは懸命について来てくれる。

あたしから離れてるのに、のっちが寄ってくると嬉しい。
行動と気持ちが完璧に矛盾してる。

そして今日ものっちから話しかけてきてくれてる。
「あ〜ちゃん、今日あったかいから、屋上でお弁当食べようよ」
「んー・・・あ〜ちゃん、今日お弁当じゃないから、屋上へは行かん・・・」
誘ってくれたのは嬉しいけど、一緒に行けないよ。

「学食?」
「・・・うん」
本当は、お弁当持ってるの。
嘘、ついてごめんね。

「んじゃ、あたしも学食にする。一緒に食べよ?」
あたしになんて合わせなくていいよ。
のっちが好きなもの食べればいいじゃない。

「うー・・・」
あたしは返事に困る。
困ってると、のっちはあたしの手首を掴んで強引に学食に連れてった。
あたしはのっちの手を振り払う事は出来た。
でもそれはしなかった。
しなきゃいけないのに、しなかった。
だって、嬉しかったから。
やっぱり、行動と気持ちが完璧に矛盾してる。

「どれにする?」
「どれも食べたくない・・・」
「食べたいのない?」
「・・・ない」
「じゃ、なに食べたい?」
「・・・コンビニの、肉まん」
優しすぎるのっちに、あたしを呆れさせたかったから、学食に置いてない物を言った。
そうすれば、あたしに愛想付かして、あたしといるのが面倒だと思ってくれると考えたから。


でものっちはあたしの言った事を真に受けて、学校の坂の下のコンビニまで走って行ってしまった。
あたしは驚いて呼び止めたけど、のっちには聞こえてないみたいだった。

お昼休みがあと5分になった所で、のっちが帰って来た。
息を切らしてて、手には肉まんが入った袋。
あたしは、そんな真っ直ぐなのっちの姿を見て、胸が締め付けられた。

のっちの事は諦められないって。
自分の気持ちには嘘はつきたくないって。
離れる日が来るまで、一緒に居たいって。
やっぱり、のっちの事が好きなんだって再確認した。

でも素直になれなくて、のっちに「アホじゃ!!」って怒鳴っちゃった。
素直になれない自分が嫌。
可愛くなれない自分が嫌。

もう、のっちと会える時間は限られてるのに。

あたしが出来る素直な行動は、のっちの好きなサンドイッチを買ってあげる事くらい。
そんなちっちゃな事しか出来ない自分が情けない。

「ありがとう、あ〜ちゃん。すげー、嬉しい」
のっちはとっても素直に自分の気持ちを伝えてくれる。

「サンドイッチくらいで、大袈裟よ・・・」
それが眩しすぎて、あたしはまた素っ気無い態度になってしまう。

あたしたちは屋上へ昇って、サンドイッチと肉まんを食べて、ただ何をするでもなく、ただボーっとしていた。
その雰囲気がとても心地良かった。



のっちはあたしが避けていた理由を訊いてこなかった。
なんで訊かないんだろう。
あたしなら真っ先に訊くのに・・・。

でも訊かれたら、あたしは返答に困って何も言えなくなっちゃう。

「あたし春になったら転校するんだ!!あはは」
って、何も考えないで言えるほど、あたしはバカじゃない。

海外に行ったって、今は電話もメールもあるから連絡は取り合える。
でもそんな事したら余計に会いたくなっちゃうじゃない。
それに簡単に会いにいける距離じゃないし。

あたしはまだ子供だから、好きな人との別れ方を知らない。
好きな人の辛い顔、悲しい顔は見たくない。
それを見てあたしも辛くなったり、悲しくなる。

のっちにだけは言えない。
転校するって。
言わなきゃいけないのに、まだ言えてない。

言えないまま、引っ越す前日の朝になってしまった。
今日で日本に居るのは最後。
その日、一日一緒にいたいと思ったのは、のっちしかいなかった。

「のっち・・・ひとつお願いがあるんだけど、いいかな?」
あと、数分でのっちと本当にお別れ。

「駅まででいいから・・・手、繋いでいい?」
あたしは勇気を振り絞って、ずっとしてみたかった事をお願いする。
それを聞いたのっちは、大きな瞳をさらに大きくして驚きを隠せてなかった。

「あ・・・やっぱ、いいや。ごめん、今の忘れて」
あたしは自分が言った事が恥ずかしくなって、足早に駅に向かった。
あー、やっぱり言うんじゃなかった・・・後悔。


「え、駅までね・・・」
のっちが追いかけて手を繋いでくれた。
嬉しかった。
繋いだ手から、あたしの気持ちがのっちに伝わってないか心配した。
のっちを見上げると、照れ笑いしてる。
あたしもつられて、ハニカミ笑い。

このまま、のっちが手を取ってあたしをどこかに連れてってくれたらいいのに。
このまま、世界中にあたしたちふたりだけになっちゃえばいいのに。
このまま、時間が止まっちゃえばいいのに。

「じゃ、明日学校でね」
ごめんね、のっち・・・もう学校で会えないんだ。
てか、もう今日で会うのは最後なんだよ。

「のっち!!」
改札口越しで呼んだ。
言おう。ここで。
明日、引っ越すって。

「はい?」
のっちはマヌケな気の抜けた返事。
あーあ、眉毛がまたハノ字だよ・・・。

のっちのその顔を見たら、言えなくなっちゃった。
その顔を歪ませたくなかったから。
でもそれはきっとあたしのエゴだよね。
自分勝手でごめん。

のっち・・・だからあの時「さようなら」しか言えなかったの。許してなんて思ってないよ、もうあたしの事は忘れて。






最終更新:2009年06月17日 12:13