<side a-chan>
さっきの掃除時間から、のっちがおかしくなった。
ゆかちゃんをじーっと見てはため息をついたり、頭をかきむしってる。
端から見るとウケるよ、のっち。
でもやっぱりあたしはどこか凹んでる。のっちがこっちを見てくれない。
いつもはゆかちゃんとあたしを交互に見てにんまりするのに。
その視線がこっちに向かないだけで異常なまでの寂しさに襲われた。
まるで飼い主に見放されたペットみたいな気分。
「あ~ちゃん。放課後いい?」
のっちが急にこっちを向いて勢い良く言ったので、あたしは勢いで答えてしまう。
「うん、いいよ。」
そうやって勢いで答えていいことが起こった試しなんて無いのに。
放課後。あたしはのっちと一緒に教室に設置する小道具を作っていた。
「あのさぁ、あ~ちゃん。さっきの話なんだけどさ、ゆかちゃんのことなんだけど。」
「うん。どーかした?」
やっぱりゆかちゃんの話なだよね。ゆかちゃんの事考えてる顔してると思った。
「こしじま先生かも。」
はい?
「何が?」
のっちは顔を真っ赤にして言い切った。
「だからぁ!ゆかちゃんの事好きなのはこしじま先生かもなんだって!」
ん?こしじま先生って保健室の天使のことですか?
一瞬にして深刻な事だと勘違いしてたあたしの思考回路が切れる。
とにかく爆笑した。笑いすぎて息が切れてヒーヒーのフーフーになった。
なにそれ。無い無い。アホの子発動じゃね。
笑いが収まるのに5分はかかった。
「のっち、アホ。先生がゆかちゃんのこと好きなんて無い。」
のっちの眉毛がみるみる八の字になってく。
「だってさぁ、こしじま先生が言ったんだもん!掃除ん時に聞いた!」
このアホの子は。何を聞いてきたんよ。
「ちゃんと聞いたん?もう一回確認してみぃ。絶対違う。」
のっちは完全に自分が正しいと思ってる、って表情で自信満々に言い切る。
「よし、じゃああたし明日ゆかちゃんに直接聞くけぇ!」
はいはい。分かりましたよ。張り切ったのっちはかわいい。
その挙動不審にも見える動作がぎこちなくて、それがたまらなく愛おしい。
そんな自分の気持ちを確認するたびに胸が苦しくなる。
すぐにこの気持ちを伝えられたらって思うけど。
でもそれは学園祭の日に取っとく。
うちの学校の学園祭は、時期が極端に遅い。
留学生が多いため、秋に生徒の半分がいなくなる。
そのせいで、学園祭が2月半ばになって、バレンタインに引っかかる。
その日に、って思ってるから、もうちょい我慢じゃね。
夜。あ~ちゃん自宅。
やっぱちょっと気になったからゆかちゃんにメールしてみた。
「やっほー♪急にゴメンね。最近ゆかちゃんよく保健室行くよね?どーしたの?
何も無いと思うけどなんかあるなら相談してね☆ あ~ちゃん」
それだけ打ってケータイを放り出した。
ベッドに転がって今日の出来事を思い出す。
あの時、心配そうにゆかちゃんを見るのっちの目は、あたしがのっちのこと見る時の目に
良く似てた。多分だけど。
のっちの一番は誰なの?あたしがのっちの一番でいたいよ。
少なくとも一年くらい前まではきっとそうなれるだろうと思ってた。
でも最近は少し違う。のっちの気持ちも、あたしの気持ちも。
確証のない感情の波の大きさも、溢れそうな想いの振れ幅も微妙に変わってきてる。
ゆかちゃんの気持ちはよく見えないけど。
ただ、あたしとのっちがお互いに交わらないところで抱えた一方的な想いだけはよく見える。
一方的だけど、優しい。押しつけじゃない、壊れそうなほど繊細な心。
きっと似た者同士なんだろうね。あたしとのっちは。
そのとき携帯が光った。パネルには樫野有香の文字。
やっぱゆかちゃんの返信は速いね。
「心配してくれてありがとう。ただ学園祭の仕事で中田先生に頼まれて、
こしじま先生に用事あってよく行ってるだけだよ。もしかしたら近いうちに
二人にも仕事があるかも♪そのときはよろしくね! ゆか」
ほら、やっぱり違った。
安心したけど、なんだか気持ちがしんみりしてたから返信はしなかった。
何故だかもうすぐ何かが起こる予感。良い事かはわからないけど。
あたしのカンは良くあたる。それだけに不安も大きい。
疲れた。今日は寝る事にしよう。あたしは電気を消すとすぐに眠りに落ちた。
最終更新:2008年10月10日 22:50