Side A
季節は夏。
夏は図書館に限る。
だって、涼しくて課題をやるにはもってこいの場所。
うちの大学の図書館は結構おっきくて、一般の人も自由に出入りできるようになっている。
あの日から、あたしはゆかちゃんと居ることが常になっている。
だから、今日もゆかちゃと一緒。
なんだけど、あたしは課題に必要な本を探して本棚の間を歩いている。
えっと、多分この辺り…。
あ、あったあった。でも、ちょっと高いな。
周りを見回して踏み台を探すけど見当たらない。
ん〜、しょうがないな。
とりあえず、背伸びをして手を伸ばす。
うwwもうちょ、、っと。
ふぅ〜。指先が触れるけど、残念ながら取り出せないや。
今神様に、何が欲しい?って聞かれたら…身長3�って言うわ。
……。
そういえば、彼と初めて会った時もこんな感じだったっけ。
届かなかった本を見上げて思い出す。
以前から、ココの図書館を利用していて、そうだ、あの日もゆかちゃんとココへ来た。
まだ、大学に入る前だっけ。
今みたいに、あたしが本を取ろうとしてたら、すっと横から手が伸びてきて…。
見上げていた本に誰かが手を伸ばす。
そうそう、こんな感じ。
そのまま、本の行方を目で追う。
で…
『はい、コレ。』
「はい、コレ。」
って…。
あれ?
一瞬あの日に戻ったのかと思った。そんなはずないのに…。
本を取って差し出してくれてたのは、大きな目が印象的なキレイな女性。
なのに、不思議と彼の姿が重なって、思わず数秒見つめてしまった。
あたしが本を受け取らずにいると
「コレ取りたかったんじゃないの?」
と言って、キレイな表情から眉毛が困ったように垂れる。
我に返って、本を受け取りお礼を言う。
「あ、ありがとう。」
「良かったw違うの取っちゃったかと思ったよw」
安心して照れたように笑う彼女。
やだ、止めてよ。
彼と同じ笑い方。
「あ、ねぇ、キミ名前は?あたし、大本彩乃。」
大本?
なんで?
彼と同じ苗字。
顔が強張っていく。
「…西脇、綾香。」
「綾香ちゃんか〜。あやちゃんて呼んで良い?」
「やめてよ。」
反射的に冷たく言い放つ。
あたしはたぶん今、恐い顔をしている。
だって…。
「あ、ごめん…。慣れなれしくし過ぎたね…。」
明らかにしゅんとする彼女。さすがに悪かったなと思い、慌ててフォローをいれる。
「ちが…、みんなあ〜ちゃんて呼ぶから。」
あやちゃん。
そう呼ぶのは彼だから。
彼にしか呼ばせなかったから。
その領域には誰も、踏み込んで欲しくないの。
「そっかぁ。じゃあ、あたしもあ〜ちゃんて呼んでも良い?」
「…うん。」
本当はあまり関わりたくない。
新しい関係なんて作りたくない。
今のあたしはとても臆病。
誰かを彼のように失うのが恐い…。
「あたしのことは、みんなのっちって呼んでるけど。好きに呼んで?」
「…うん。」
早く離れなきゃ。
彼女は危険だ。
「本、取ってくれてありがとうございました。」
軽く頭を下げて、ゆかちゃんの所へ戻ろうとすると。
「あ、待って。」
あたしの腕を掴む。
「あのぉさぁ…。」
振り向いたあたしに、言い難そうな仕草がまた苛立ちを生む。
「ごめんなさい。友達待たせてるから。」
掴まれた手を解き、あたしは彼女を置いてゆかちゃんの元へと歩き出す。
後ろに残された彼女の姿が、容易に想像できる。
左手を脇に当て、参ったなって顔して、右手はたぶん顎を触ってる。
だって、彼女は似過ぎている。
通路を曲がる時に、チラッと彼女を見ると、あまりに予想とピッタリすぎて笑ってしまった。
彼と一緒過ぎて可笑しかった。
二人掛けの席に戻ると、ゆかちゃんが顔を上げてニッコリ迎えてくれる。
「遅かったね?」
「うん。ちょっと、高いトコにあったから。」
「そっか。」
ゆかちゃんは、彼が死んでしまった時に、ショックで声を失ったあたしの声を取り戻してくれた。
泣いたら彼の存在が薄れるんじゃないかって、泣くのは自分が弱いからじゃないかって。
泣けなかったあたしに気付いて、泣いて良いんだよって。弱いなら守ってあげるって、あたしを助けてくれた。
あたしは、そんなゆかちゃんに甘えている。
「でも、キレイな子が取ってくれたよ?」
「へ〜、名前聞いた?」
「ん〜聞いたけど〜…。」
大本…。
「忘れたw」
その方が良い。
「ひどw」
突然、後ろから声がして驚いた。
しかも、あんまり会いたくない人。
—つづく—
最終更新:2009年06月17日 12:17