逃げてどうするの。
ある意味、せっかく貰った浮上のチャンスだったのに…
でも、そうだ。
それが嫌で今まで逃げてきたんだった…
答えが出てしまうのが、恐かったんだ。
それすら恐くて逃げているあたしは、もうのっちにヘタレなんて言えない。
あたしが行き着いたのは、屋上。
スタジオに籠ってると気付かないけど、今日はとても良い天気だ。
こんな日は雨でも降ってればよかったのに…
わざわざ理由を考える手間が省けるから。
気持ちはどんどん低く沈んでいくくせに、あたしはこの場所を選んだ。
笑えるよ。
上がる気なんてないのに、無意識に上に向かってる。
しかも凄い良い天気。
なにが言いたいの?
無駄だよ。
今のあたしには、なに言ったって。
「あ〜ちゃん…」
「来ないで!」
当たり前だけど、のっちが追いかけて来た。
ゆかちゃんは…多分いない。
「でも…」
「お願い。お願いだから放っておいて…」
馬鹿みたいに声を震わせて、良く言うよね。
心配して下さいって、言ってるみたいな震えた肩で、声で、涙で…
「放っておける訳ない」
さっきより、少し近くで聞こえる愛しい声。
「来ないでよ…お願いだから…」
ひたひたと近付いてくる足音。
「いくらあ〜ちゃんのお願いでも、今回ばっかりはきけないよ」
凛とした声。
「ダメ!来ないで!あたしは大丈夫だから放っておいて!」
体がガタガタ震える。
ダメになる。
恐い。
お願いだから優しくなんかはしないで。
もうあたしに近付かないで…
「なにも恐くないよ。今は二人しかいないから…」
なにが言いたいの?
二人だからなに?
あたしはそれが恐いのに!
「だからなに!?なにもわかってないくせに!」
そのまま気持ちが言葉になって出てきてしまった。
あたし、ひどいこと言ってる。
のっちはなにも悪くないのに…
これは、いつもからかうのとは訳が違うのに…
ごめんね。のっち。
ごめん。本当にごめん。
でも、あたしは素直にごめんなんて言えない。
ごめんなさい。
「ねぇ、あ〜ちゃんのことはいいからさ…ゆかちゃんのとこ戻ってあげて」
「…なんで?」
「なんでって…だってのっちはゆかちゃんの「関係ない」
あたしのすぐうしろにのっちの香り。
柔らかい感触。
温かな背中。
のっちに、うしろから抱き締められた。
あたしは咄嗟に両腕を胸の前に持っていったから、ギリギリで完璧な密着を逃れた。
つくづくかわいくない。
「…なにしとん?」
のっちがあたしの肩に頭をのせた。
「したいようにしてる」
涙が、とめどなく流れる。
柔らかい。暖かい。心地好い。
したいようにしてるだって。
簡単に言ってくれるよね。
自分の気持ちに素直なあなたには分からないかも知れないけど、あたしみたいな人間が、したいようにするのは信じられないくらい勇気がいる。
自分の気持ちを素直に表すのは、途方もない恐怖が付きまとう。
「なにがあったのか知らないけど、のっちはあ〜ちゃんの力になりたい。今までは全部逆だったよね」
あたしには到底言えない台詞。
強いな。
潔いな。
考える前に行動に移す人は、よく失敗もするけど、時に深く心を突き刺す。
心地好くて当然だ。
涙が出て、当然だ。
あたしはずっとこうしたかったんだから。
あたしは素直じゃないから、言葉にはできない。
でも、したいようにはできるじゃない。
「っ……バカ!」
あたしはのっちの腕の中でクルリと身を翻し、思い切りのっちの胸に抱きついた。
台無しだよ…
もういいや。
あとのことは、あとで考えよう。
目の前に愛しい人がいる。
触れたくて当たり前でしょ?
抱き締めたくて、当たり前でしょ?
誰でも、考えなくたって知ってる欲望。
そんな簡単なことですら我慢してたあたしは、さすがにもう限界だから…
もう壊れてしまいそうだったの…
どうなってしまっても、知らないんだから…
のっちのせいだよ…
「あ〜ちゃん…」
のっちの腕が背中にまわり、強く抱き締められた。
あ〜ぁ…のっちの衣装あたしの涙でぐしゃぐしゃだ…
マスカラがついて黒くなっちゃってるし…
これは買い取りだな…
「…のっち」
「うん?」
優しい声。
驚いた。
もう全部、どうでもいいや。
あたしはのっちに抱き締めて貰うだけで、こんなになっちゃうんだ…
そりゃ、そうか…
あたしはずっと
本当はのっちにこうして欲しかったんだから…
でも、なんで?
なんでのっちはあたしを抱き締めているの?
最終更新:2009年06月17日 12:19