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こうして朝をむかえるのは、もうこれで何日目なのだろうか。
私は彼女の手を握り、まるで他の世界を知らないかのように彼女だけを見つめ続ける。
部屋に響くピッピッ…と刻む電子音のリズムだけが、彼女が生きているという証明だった。

力なく横たわる彼女。
どうしてこんなことになってしまったのだろう。
私の頭はもう、そんなことを考えることさえできなくなっていた。
私のパーマをくるくると指に巻きつけて遊ぶその指も、私を見つめて離さなかったあの大きすぎる瞳も、今はもう動かない。
彼女がいない世界など、想像すらできないというのに。
私にはもう、彼女と呼吸の速度を合わせることしか出来なかった。

握っていた彼女の指が、ピクリと動いたような気がして、思わず私は手に力を込める。
それと同時に、電子音はリズムを刻むのをやめた。
それはあまりにもあっけなかった。
繋いだ手からはみるみる温もりは消えていく。
私は涙は枯れることがないのだと、その時初めて実感した。


眠っているかのような、さっきまでと何一つ変わらないその姿。
今にもまた、私の名前を呼んで微笑んでくれるかのようなその顔。
強がらなくていいよ、と優しく抱き締めてくれるかのようなその体。
電子音が刻むリズムでわずかに残っていたそんな希望も、もう今は微塵もない。
私はただ彼女を見つめ、泣いた。

その時だった。
彼女の目が勢い良くガッと開き、私をとらえた。
だが、電子音はリズムを刻まないままだ。私は何が起きているのか全く理解できず、全身は硬直し、息さえ止まってしまったかのような感覚に陥る。
目の前の彼女は、私の腕を物凄い力で引っ張った。
そして、こっちへおいでよこっちへおいでよ、とひたすら呪文のように繰り返した。
私はわけが分からないまま、ただ一生懸命に足を踏ん張る。
その間も彼女は、ブツブツと同じ言葉を繰り返しながら、私の腕を引っ張った。
あの時のままの大好きな彼女の大きな瞳。
だが、まばたきをせず見開いたままのその瞳は、ただ不気味としか言い表せない。
私の知っている彼女ではない、そう思い私はとてつもない恐怖心に襲われた。

その時、より一層強い力が私の腕に加わった。
…もう、ムリだ。
私の体は、あっという間に彼女にもっていかれた。


うっすらと目を開くと、真っ白い天井がボヤけて見えた。
…どうやら私は眠ってしまっていたようだ。
さっき体感した恐怖に、まだ私の心臓はバクバクと波打っていた。
体は正直で、初めて私は疲れているのだと思った。
そして、私はきちんと生きているのだと嫌でも実感せずにはいられなかった。


耳に聞こえる電子音は、ピッピッ…とリズムを刻んでいた。
夢であってほしいと思った。
また眠りにつき、目を覚ました時、あの頃のように彼女に抱き締めてほしい。
だが、そんな私の願いは叶うはずがないことは、今さら十分に分かっている。

視界がわずかに開けてくる。
そこには愛しい彼女の姿があった。

…ポツリ、ポツリ
生暖かい感触が私の頬に伝わる。
大好きな彼女の大きな瞳から、大粒の涙が零れ落ちていた。

…どうして、どうして泣いているの?
問いたくても、なぜだか私は声が出ない。
その間にも彼女の涙は増すばかり。
泣かないで、とその涙を拭おうと手を伸ばそうとする。
が、私の手は何かに縛りつけられているかのように動かない。

目の前にいるのは、人形のように眠ったままの彼女ではない。
あの頃と同じ、大好きな彼女だ。
手を伸ばせば抱き締められるのに、気持ちとは裏腹に、私は動けない。

彼女の手が、私の頭を、髪を撫でる。
久々の彼女の感覚に、私の胸はキュッと締め付けられる。
それはそれは、呼吸が上手くできなくなるくらいに。
私は自分の息苦しさ、胸の苦しさに、彼女への揺るぎない愛を確信した。

「あ〜ちゃん、どうしてっ…。のっちを、置いてかないでっ…。」
その時、頭に響いていた電子音は、再びリズムを刻むのをやめた。
私の頬には、彼女の涙が降り積もった。

  • END-







最終更新:2009年06月17日 12:24