アットウィキロゴ
バスローブの上から腋を辿って胸のふくらみをわずかに掠めては、また腰から臀部の曲線をなぞる。
しつこくそれを何往復も繰り返すイタズラな手。
わずかにしか与えられない微妙な刺激がもどかしい。


あたしの顔を覗きこんでくるニヤついた顔を睨みつけてみれば、わざと怯んだふりをして、更にニヤつく顔。
憎たらしくて仕方ない。
だけど、それすらも身体の熱を昂らせる燃料になるのだから、やっぱりあたしはどうかしてるみたいだ。


「マッサージしてるだけですよ。マッサージ」


いちいち耳元で囁かないで。
そんなニヤニヤした顔で言われたって説得力ないんよ。


隣ですやすや眠るあ〜ちゃんの背中は規則的に上下して、まだ起きる気配はない。
だけど、深く寝入ってるとも思えなくて。
彼女がいつ起きてもおかしくないという状況がさらにあたしを火照らせる。


気づかれたら、どうしてくれるつもりなんよ。
このエロおにぎりめ。


「あの子がゆかちゃんの本命、、あ〜ちゃん、か」


あ〜ちゃんを横目で見ながら、のっちがポツリと呟いた。
急に大人なぶった声を出す彼女の表情を読み取ろうとしたけど、ふんわりした髪のシルエットに邪魔された。


「・・・・その言い方、なんかヤダ」


本命だとか、遊びだとか。
そんな言葉で括れるほどの存在だったら、どれだけ楽か。


あたしの心の真ん中にはいつだってあ〜ちゃんがいて。
それはあ〜ちゃんに出会った時から、今も、きっとこれからも、ずっと変わらない真実。


だけど、
のっちのことだって、ただの遊びじゃないんだよ。。


ただの遊びなんかじゃないから、、あたしは、、


「ごめん。ちゃんと、分かってるよ」


そう穏やかに笑いながら頬にキスをくれた。
のっちの瞳は泣きたくなるほど、キレイで優しかった。




そのまま唇は首筋に移動して、生温かい舌が耳の裏側まで丁寧に舐め上げていく。
耳元で響く水音に背筋がぞくぞくする。




やっぱり、、
のっちはずっと気づいてたんだね。


ホントはあたしも気づいてた。
のっちが気づいてることに。


だけど、何も言われなかったから、何も言わなかった。
きっと、何も言わなかったから、何も言われなかった。


そう、それだけのこと。
いつも、あたしたちはそうやって核心には触れないできたね?


すべてを語らなくても、
すべてを共有し合わなくても、


甘えることを教えてくれた。
甘えることを許してくれた。


なんとなくで、のっちとの関係だけは長く続いた。
というか、片手で数え切れないほど同じ人と身体を重ねたのはのっちが初めてだった。


抱きしめられて安心する、なんてことも、
キスで落ち着ける、なんてことも、


全部、のっちに会うまでは知らなかったんだ。


なのに、あたしの中の彼女の存在の大きさに気づかされたのは、
一番大切なものをこの手に入れた時だった。


どんなに想っても届くはずがないと思いながらも、あ〜ちゃんへの想いを断ち切れなかったあの頃のように、
無条件に寄りかかることのできるこの関係を、その想いが届いた時も手放すことができなかったんだ。




だって、彼女はあたしの、トランキライザーだから。





また意地悪な顔に戻ったのっち。
こういう時だけ器用に動く指先が、いつの間にかバスローブの下に侵入して素肌を這っていく。
身体の下に潜りこんで胸のふくらみを包むイタズラな手。


「あれぇ?ココすごい凝ってますよ?」
「・・・・んっ、」


周りばかりを焦らすようにくるくる彷徨っていた指が、主張している突起を捕らえてを転がすように弄る。
思わず洩れそうになった声を唇を噛みしめて抑えた。


意地悪な言葉を吐く口も、
ゆっくり首筋を這う舌も、
休むことを知らないみたいだ。


「敏感なんですね、樫野さん」
「、、っな、こと、、ない」


さっきから何なんよ、そのわざとらしい敬語は。


それにあたしなんかより、あ〜ちゃんの方が全然敏感なんだから、、
って絶っ対、、誰にも教えてあげないけど。


「、、っ、ぁっ、」
「ウソツキ」


そうだよ。
あたし、ウソツキなの。
でも、あなただって、そうでしょ?


イタズラな手が太腿の内側をさすりながら、ゆっくり上がってくる。


ああ、もどかしい。
いっそのこと、早く終わらせて欲しい。


そんなことを思いながらも、もっともっと続きを欲しがるあたしの身体はやっぱり末期なんだと思う。


はやく。
はやく。
おねがい。
はやく。


ようやく下着に手がかかった。


耳にかかるのっちの吐息も熱い。
次に来るであろう刺激に、あらかじめ唇を噛みしめた


その瞬間



「んぅう・・・・」


隣から聞こえてきたあたしのものじゃない、くぐもった声に。
あたしたちの時間が止まった。




◇◆◇◆◇◆◇◆◇





「また是非二人でいらしてください」


エレベーターホールまで見送りに来たのっちは、見事な営業スマイルを披露している。
さっきまでニヤニヤいやらしい顔をしてた人と同じ人とは到底思えない、さわやかな笑顔。
それは受付の女性がそわそわしながら、こっちをチラチラ窺うほどのもの。


本当に、、さっきまでのエロおにぎりは一体どこへ行ったんだろう。。


何でもないふりをするのは、あたしと彼女の得意技で。
あ〜ちゃんが身を起こした時には、二人揃って、元バイト仲間の演技をしていたのだから、自分自身に嫌気が差す。


っていうか、そもそもは、手を出してきたのっちが悪いんだよね??


「ほんま大本さん上手だから、あ〜ちゃんまた寝ちゃったぁ・・・」


なんて少し恥ずかしそうに言うあ〜ちゃんは最高に可愛くて。
それだけで、この沸々と沸いてきた訳の分からない怒りも癒される。


「寝顔も可愛かったよ?」


あ〜ちゃんの耳元でそっと囁いてみれば、可愛い耳が真っ赤に染まった。
表情だけは崩さないようにと、必死で作った笑顔すらも可愛い。


うん。
やっぱ、あ〜ちゃんだな!


あ〜ちゃんへの揺るがない気持ちを確認できたところで、エレベーターが到着した。


「ありがとうございました」


のっちが頭を下げて、さっさと奥の方へ戻っていく。
こういうところ、あっさりしてて彼女らしいなと思う。


だけど、すれ違い様にのっちがあたしの耳元で小さく小さく呟いた。


囁かれた言葉にドクンと心臓が跳ね上がる。
その言葉が脳みその中をリフレインしていく。


ズルイ。
このタイミングで。
ズルすぎるよ。


「ゆかだけ、だから」


なんて。
そんな甘いセリフ。
滅多に口にしないくせに。




◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「こんな時間になっちゃったね、、送るよ」


駅へ向かう足を速める。
今日は門限に間に合わせてあげられないかもしれない。


繋いだ手がいつもよりも汗ばむのは、時間に追われてる焦りから?
それとも、身体の奥で燻ぶる熱のせい?


ふいに彼女が立ち止まった。
繋がれた手の力が強くなる。


「あ〜ちゃん?」
「・・・たくない」


わずかに斜め下、伏し目がちな彼女の瞳。
長く伸びた睫毛が揺れた。


「今日は、帰りたくない」


ポツリと呟かれた言葉は、静かな夜の空気に溶けていった。




to be continued...





最終更新:2009年06月17日 12:27