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夏休みに入って、5日が過ぎた。

私は毎日昼過ぎまで寝ていた。

「寝坊できるってほんっとさいこー」

ベッドに寝ころんだまま時計を見る。
なんだまだ10時か。今日は割と早い目覚め。

どうしよう、二度寝しようか起きようか。
迷っていると携帯が鳴った。
あれ、メールじゃなくて電話だ。すぐに誰からか確認する。
あ~ちゃんだ。

「はーい」
「もう、何度電話したと思っとるんね」
「へ?」

うわー、寝とったけ全然気付かんかった…

「どうせ今の今まで寝とったんじゃろ」

なぜ分かる…。

「いやさ、ちょっと散歩に…」
「この暑いなか?ほぉー、それはそれは」

だめだ…完全に読まれて馬鹿にされてる。



「…何の用なん」

私がムスッとした声で聞くと、
あ~ちゃんは雰囲気を察してすぐに甘えん坊になる。
こういう所があ~ちゃんは上手い。

「用がないと電話しちゃだめぇ?」

むぐぐぐ…。

「なんてね、うちに来て三人で一緒に宿題せん?」



ふぅ、と少し呼吸を整えて。

「あ~ちゃん家には行きたいけど…宿題すんの?」
「どうせのっちのことじゃけ、やっとらんじゃろ?」

ちらりと宿題の入ったカバンを見る。
夏休みになってから5日間放置されて、
軽くほこりをかぶっているようにさえ見える。
なんで全部分かるんだろう、この人は…。

「分かった…今から行くね…」
「じゃ、おみやげよろしくー」
プチッ
ツー、ツー、ツー…

さて…着替えて少しだけ宿題やるか。
ほんとに真っ白のまま持っていったら何言われるか分からん。

窓の外を見る。
よく晴れて、まだ昼前なのにとっても暑そう…。
なんか外出るの久しぶりな感じ。

たいぎいと思いつつも、ウキウキしている自分がいた。



「お邪魔しまーす」
「はーい、よう来たよう来た」

あ~ちゃんに促されるまま部屋に入る。
相変わらず女の子の部屋って感じ。ぬいぐるみだらけだ…。

「ゆかちゃんは?」
「少し遅れるってー」
「そっか、あ、あ~ちゃんこれ」

あ~ちゃんが好きだと言っていたマンガの新刊を差し出す。
あ~ちゃんがマンガを返しにうちに来てくれることを計算して、
おみやげはこれにした。
あ~ちゃんといっぱい会いたいもん。

「やったぁ、ありがと!」

あ~ちゃんの笑顔が眩しかった。
あ~ちゃんの表情は万華鏡のようにころころと変わる。
どれも魅力的で、できることならいつまでも見ていたかった。

「さてさて、宿題しましょうか」
「ん…」

せっかく目の前にあ~ちゃんがいるというのに…。
ノートを開くのが面倒だった。

10分経過…。
宿題しようと言って来てもらったけど実は…な展開を期待してたけど、
そんな気配はなく真面目に勉強するあ~ちゃん。

そうだよね…、学生の本分は勉強だもの。
おかしなことを考えるのっちがいけないんです。
えぇ、そうですとも。

「ねぇのっちぃ…」

私はついびくっとする。


「この前ね…」

何かと思えば、あ~ちゃんは恋愛の話を始めたのです。
うんうん、あ~ちゃんモテるもんねー。
って…、悲しすぎるよこの状況。

この暑い中汗かきながらせっかく来たってのに、
好きな人の恋の話を聞かされるなんて。

セミが元気よく鳴いてる。
「ジージージージー」

私と同じ、儚い命よ…。

「それでさぁ…」
「ジージージージー」

いいよ、その調子であ~ちゃんの声を掻き消してしまって…。

「でもね私…」
「ジージージージー…」

あぁ、早く来てよ、ゆかちゃん…。

「全部、断るつもり」
「ジージージー…」


「あたしには、のっちがいるから」

「ジー…」

窓の外に旅立っていた意識が一気に引き戻される。
今のは聞き間違いではないよね。

真っ赤になったあ~ちゃんの顔が、
聞き間違いではなかったことを示してくれている。

「なんとか言ってよ!」
「ふぁ…」

来てよかった。
暑い中汗かいてでも、来てよかった。



セミたちの声が、私たちを祝福してくれているようだ。

「ありがと…」

体が熱いよ。
なんだか頭もボーっとする。
万華鏡を覗きすぎて、少し酔ってしまったのかもしれない。

「ずっと、そばにいてね…」

あ~ちゃんにこんなこと言われるなんて。
私はクッションを抱えて寝転ぶ。

「あー、さぼってるー」
「…ちょっと酔ったのー」

ほっぺをほんのりと赤く染めて、
何それ、と言って笑うあ~ちゃんを見ていると、
体がどんどん熱くなる。

今年一番の暑さです。
と、誰かが予報する声が聞こえた気がした。


「お邪魔しまーす」

ゆかちゃんがスイカ片手にやって来た。
一番暑い時間帯を歩いてやって来たとは思えないほど、
涼やかな笑顔。

まるで風鈴のよう。

風鈴はすっかり酔ってふらふらな私を落ち着かせてくれた。

「このスイカ、冷やして夕方食べよう」
「賛成ー!」

「さっきかき氷屋さん見つけたんよ」
「えっ、行きたい!」

私たちは宿題をほったらかしにして外へ向かう。

眩しい日差しが私たちを包む。

夏が始まったのだと、今更ながら実感した。

「ひゃー暑い暑い」

あ~ちゃんが両手をパタパタさせて自分をあおぐ。

「ほんと熱いね」

私はさっきのことを思い出して、また体を熱くしていた。

「あたしには、のっちがいるから」

いひひ、何度も何度も再生ボタンを押してしまう。

熱いよ、今年一番。

「まだまだ、これからもっと暑くなるよ」
ゆかちゃんが振り向いて言う。
「これからもっと熱くなるって、あ~ちゃん」
私はさり気なくあ~ちゃんの腕を持つ。

「なんかのっち、変」



さらっと手を払われて少し落ち込む。
ゆかちゃんが首を傾げて前を向く。

なんだよー、さっきのは夢だったの?

少しふくれてあ~ちゃんを見ると、
あ~ちゃんはゆかちゃんの方を気にしながら私の腕を引っ張って、
私の耳元で囁いた。

「今は我慢。あとでもっと熱くしてあげるから」


ひゃーーー!


「早く!かき氷!かき氷!」

冷やさなきゃ冷やさなきゃ。


急にダッシュする私を見て暑さで気が狂ったと思ったのか、
ゆかちゃんが心配そうな顔をする。

うしろで二人の会話が聞こえる。

「のっち大丈夫かなぁ」
「知恵熱じゃろ、久しぶりに勉強したけぇ」

なにを言われても平気平気。


ふと、あ~ちゃんの部屋に風鈴を買ってあげようと思った。
このままじゃ溶けてなくなってしまいそうだから。

「おじちゃん、ストロベリー!」


今年は外にいっぱい出よう。
もっともっと熱くなろう。
君と過ごす夏の色が、いつまでも褪せないように。



[終]






最終更新:2008年10月10日 22:56