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「君がいない夜だってー…♪」
お風呂場の方から、あ~ちゃんの鼻歌が近づいてくる。
何の歌だっけ?と思いながら雑誌のページをめくる。
部屋のドアが開く音がして、い~いおゆ~だった~よね~ってと替え歌になった。


「湯船のお湯抜いとらんよ?」
「りょーかい。何の歌だっけ、それ?」あたしは振り向かないまま問いかけた。
「三日月じゃん。何読んどるん?」
後ろからページを覗き込まれる。ふわりとシャンプーの香りがして、
何だか心がピョンと飛び跳ねた。(うちのシャンプーなのに!)


「CREAの猫特集。ほら、可愛かろう。ニャー!」
あたしはあ~ちゃんと目を合わせずに、子猫が眠たそうな顔で必殺上目遣いをしてる表紙をめくって見せた。

「…やだ、あ~ちゃんねこきらい」
「何でよ、ねこ!可愛いじゃん!ねこ!」
「わがままだし、好き嫌い激しいし、自分が飼い主より偉いと思ってるし。
 気に食わんことがあるとシャーって鳴いてバリバリってひっかくじゃん。なんに、なでてほしい時だけ寄ってきて。」
「っそ、それでも、可愛いからいいんだもん」
「悪いことしたら可愛くても許されんじゃろ!」
「でも…」
「嫌い言ぅたら、きーらーいなんじゃ」
あ~ちゃんはムッとした表情で、近くにあったクッションを掴んで、こっちに投げた。
「いってぇ!骨折れたよ!ゲームできないじゃん!」
あたしがわざと手をぶらぶらさせて痛がると、あ~ちゃんは転がったクッションを枕にして、
背中を向けて、ころんと寝っころがった。

その背中に、君のそのピンクのパジャマにプリントされている白いふわふわの生き物は何か?
と反論しようと思ったが、言ったら10倍返しされるのが目に見えているので、
釈然としない気持ちを抱えつつ、再び雑誌に目を落とした。

───特集ページも満喫し、最後の方の星占いのページに差し掛かって、
ちょっと!おとめ座来月最悪の運勢じゃん!運勢じゃん!と、激しくショックを受けていた時。

「のっち。ねえ。」

声のするほうを向くと、あ~ちゃんが寝たままこちらを見ていた。
こっちを見つめるあ~ちゃんは、表紙の必殺上目遣いの子猫にそっくりで。
喉の辺りがドコドコドコドコして、ダンスフロアーになったみたいで、19年間、声をどうやって出してたのか一瞬忘れた。

「…っ…な」
に、まで言いかけて、
ぴたん。

あ~ちゃんはニヤッと笑って猫手のグーであたしの頬に軽く猫パンチをした。
そのまま指はあたしの首筋をなでる。
「ちゃんと、あ~ちゃんの、ほう、みて。」


ほら、悪いことしても可愛いから、許されちゃうんだよ。うちの大きい猫ちゃんも。






最終更新:2008年10月09日 23:31