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でもね?
あたしはもう、そんなに心配してないんだ。


「ねぇのっち?」
「うん?」
「あ〜ちゃんのこと抱き締めて、どうだった?」
「え?いや……どうって言われてもなぁ…」


困った顔。
こんなに近くに、のっちの顔。
久しぶりな気がする。
のっちとちゃんと話するのも、すぐとなりで肩を並べて座るのも。


「ゆかちゃんには、いつもああしてあげてるん?」
「あぁ、うん。まぁ、たまに?」
「そっか…」
「うん」


屋上に尻餅ついて、のっちと二人きり、空を見上げる。
のっちはなにもきいてこない。
黙ってとなりにいてくれてる。
さっきまで疎ましかった目を刺す光は、今はやたらとキラキラ輝いてみえる。
あたしも大概簡単にできた奴だったんだな。
でも、思ったより単純にできてて、ありがたい気持ちもある。


本当はぐずぐずしてる場合じゃない。
降りなきゃいけない。
楽屋に戻らなきゃ。
ゆかちゃんはきっと今一人でのっちを待ってる。
あたしが飛び出した楽屋で。
そんなことは分かってる。


なのに、体が言うこときかないのはなんでだろう。
力が抜けて、なんか頭の中もふわふわしちゃって。
体は軽くなった気がして、どこにでも飛んで行けそうなのに、ここから動く気はさらさら無いみたい。
なんて気持ちの良い場所なんだろう。
のっちのとなり。
最近あたしの欲していたものは、全部ある。

ひなたぼっこしてるだけで幸せだ。
口を開けて空を見上げるのっち。
あなたは今、なにを思っているの?


「のっちはゆかちゃんのこと、好き?」
「うん」
「あたしも好きだよ」
「…え?」
「あ〜ちゃんは、のっちもゆかちゃんも二人共好き」
「ん。のっちも一緒」
「うん」


恋をするって、ちょっと恐いね。
三人共それぞれが、お互いを大切に思ってることは、本当はもう確認なんて必要ない。
それなのに確認するのは、きっと不安が生まれたから。
あたしは感じたから。
絶対に壊れないものなんてない。


たったひとつの恋で
たったひとりの人への想いで
こんなにも胸が苦しくなるものだとは知らなかった。


それでも


たったひとつの恋で
たったひとりの人への想いで
こんなにも幸せになれるってことも知った。


結局のところ、あたしが勝手にあたふたしてただけでしょ?
あたしが誰を好きでいようが、のっちが誰と付き合っていようが、あたし達三人が変わる必要はない。
あたしが、のっちとゆかちゃんに変な遠慮するのは、二人に失礼だ。
二人共、付き合ってることをあたしに隠してるわけじゃない。
むしろ、ちゃんとはなしてくれた。真剣に。
だから、あたしもちゃんとはなそう。正直に。
今になってこんなにあっさりしてるのは、やっぱりのっちのおかげだろうか。
なにを女々しく悩んでたんだろう、やっぱり大分まいってたんだな。
簡単なことだった。


ゆかちゃんは怒るかな。
それとも呆れるかな。


のっちは驚くかな。
ゆかちゃんと一緒になって、怒るかもしれないな。
それはちょっとヤダな…


それとも、全部受け止めてくれるかな?


でも、それでも…
どうなったとしても、今よりはずっとマシだ。
そして、そのくらいのことじゃあたし達はダメにならない。
そう信じたい。
例え多少ぶつかることや、イザコザがあっても、誰かが辛い思いしてまでなにかを我慢してるのは良くないよ。


あたしが言うなって、言われてもいい。
なにを今更って、思われたっていい。
だからあたしには分かったんだから。


「のっち」
「ん〜?」
「戻ろっか」
「え?」
「楽屋に戻ろっか」
「あぁ、平気なん?」
「なにが?」
「いや、もう平気なのかな?って。さっき泣いてたからさ…」
「なんで泣いてたと思う?」
「ん〜…わからん?」
「あ〜ちゃんに聞くの?」
「その方がいいかなって」


泣いてた理由なら、分かってるよ。
どうなるかは、まだわからないよ。
答える代わりにあたしは笑った。
少なくとも、あたしはもう大丈夫。






最終更新:2009年06月17日 13:12