N-side
ゆかちゃんに彼氏が出来たのは2ヶ月前、で今付き合ってるのはその次の人…で、昨日三人目の人と……って、アレ?
「ゆかちゃん、二股!?」
「そうなるのかなぁ、やっぱり」
「二股はダメじゃろ、二股は」
「だってさぁ、どっちか一人なんて選べないんだも〜ん!それに刺激的だし?」
「刺激的とか…」
日に日に可愛くなっていく親友は、日に日に恋愛に対して軽率になっていった。正直言って、引く。だけどゆかちゃんがそれで良いってんなら別に口出しなんてしないけど。そんなゆかちゃんも、あ〜ちゃんにだけは嫌われたくないのか嘘を吐くようになった。嘘を吐くというより軽率な部分を隠す、と言った方が正しいのかも。
あ〜ちゃんは曲がった事が嫌いだ。たとえそれがゆかちゃんであろうとも、彼女は正義という名のもとに全力で行いを正そうとするだろう。大切な存在なら尚更だ。それくらい真っ直ぐで良く育てられた娘さんなんだよ、あ〜ちゃんって子は。
だったらゆかちゃんはなんで隠したがるのか、でもあ〜ちゃんは結局そんなんじゃゆかちゃんを嫌わない。それなら行いを正されたくないから?そうまでしてチャラチャラしたいのですか樫野さん。だとしたらのっちもお手上げだ、今も既にお手上げだけどね。
そもそものっちが注意したところで言う事なんて聞かないだろう、ゆかちゃんはのっちを舐めくさってるし。本気で言ったらもしかしたら聞いてくれるのかもしんない、だけどそれで関係が気まずくなるのは嫌だからのっちは言わない。とゆーか言えない、チキンなもんで。
「ねぇ、どうしてあ〜ちゃんに隠すの」
「さぁ〜どうしてだろうね?」
「心配かけたくないから?引かれたくないから?」
「どっちも正解でしょ」
てかさ、授業をサボって使われていない体育館なんかでのっち達は何をしてるんだろ。これもあ〜ちゃんにばれたらこっぴどく叱られるのに。それに明後日から待ちに待った冬休みなんだよ。
片付けられていないバスケットボールが一つ、体育館の隅っこに落ちていた。のっちはそれを見つけた途端テンションが上がって駆け寄り、手に取った。ボールを床につくと、その音が静かな体育館に鈍く響いた。
「はいのっち、パスパス」
「ほい」
「スリー!」
「全っ然届いてね〜」
ゆかちゃんが放ったシュートは、リングにかすりもしなかった。のっちはすかさずそのボールを拾ってゆかちゃんがシュートを放った位置から同じ様にシュートを放った。
放物線を描いて、ボールはリングに吸い込まれ…なかった。ガンッと鈍い音がして跳ね返ってくる。
「超惜しかったね」
「くっそー、」
「もう一回シュート打ってみてよ」
「おう」
「なんか、のっちのシュートフォーム綺麗」
「ほんと?スラ〇ン全巻読んだ成果かな」
しばらくバスケに夢中になるのっちを、ゆかちゃんは笑顔で見つめていた。ちょっと良い所を見せたくて格好付けたシュートばかり打ってみたり。シュートが入っても入らなくても、ゆかちゃんは「凄いね」とか「格好良いね」とか言ってくれるから調子にも乗るよね。
それに今日はなんだかゆかちゃんの様子がおかしい。朝からぼーっとしてるっていうか、そもそも急に体育館に呼び出すんだもんな、何があったのか心配だってする。二股の報告はびっくりしたけど、それ以外で何かありそうな雰囲気だ。
本題は何?と聞き出したくてもそれがのっちの踏み込んで良い領域なのか、そうでないのかは分からない。それは例えば、ゆかちゃんの財布の中からコンドームが出て来た時もそう。のっちは聞いてはいけない気がして、それについては何も触れる事が出来なかった。
昔からのゆかちゃんのイメージとか、何もかもが壊れるのが当時は嫌だった。それで今までの何かを失う様な気がして。まぁそれは当時の話であって、今はもうゆかちゃんはそんな少し過激な女の子だって認識してるから平気なんだけどね。
「誰かいるんですかー」
その時、遠くから聞こえてきたのは聞き覚えのある声だった。生徒指導のあのオバサン教師だ。校則だの風紀がどうだのとめちゃくちゃうるさくて生徒からの人気は最悪。
こんな所、見つかったらまた生徒指導室で説教祭り開催だよ、どうしよう。
「のっち、こっち隠れよ」
突然手を引かれ、駆け込んだのは体育倉庫。意外と強いゆかちゃんの力に驚いたけど、今はそんなのどうだって良い。薄暗い倉庫の中は小さな窓が一つしかなくて、あのマットやらの独特な匂いがつんと鼻をさす。
ゆかちゃんに手を引かれるがままに跳び箱の影に隠れて、息を潜めた。狭くて必然的に密着する様な形になる。僅かな扉の隙間からは、さっきまで戯れてたボールが転がっているのが見えた。
触れ合った部分、ゆかちゃんの体温は熱い。蒸し暑くて、冬なのに体が汗ばんできた。そっと目線を下ろすと、白くて綺麗な太ももが見える。短いスカートから伸びて、うわ、パンツ丸見えじゃ。なに興奮してんだのっち、今さらパンツくらいで。一緒にお風呂とか入ってたじゃん昔は。
意識しちゃいけないと思ってそこから目を逸らすと、今度はもっといけない物を見てしまった。ゆかちゃんのうなじ、普段綺麗な髪に隠れてるうなじに、赤い小さな跡。これが噂のキスマークってやつですか、初めて見たわ。
「…ゆかちゃ、」
「し、」
喋らないで、って口を手で塞がれた。瞬間、呼吸を忘れてしまい、なんだか悲しくなった。どこのどんな野郎かのっちは知らんけど、のっちの方がいっぱいゆかちゃんを知ってるのに。のっちの親友の服を脱がして足を開かせたのが、どこの馬の骨とも知らんやつなんて。それはのっちもあ〜ちゃんも知らない所なのに、簡単に入れられるなんて。
(※er)
その男が見たのは、こんな景色?違う?
「ちょっと、のっち…?」
足音が遠ざかる。
固いマットに押し倒されたのっちの親友は、大きな黒目を揺らしていた。こうやって、ベッドに押し倒したのかな?こうやって、服の上から体を撫でて、こうやって、キスをして。
のっちの知らないゆかちゃんを突然ぽっと湧いて出た男が知ってるなんて、そんな事実許せない。いつだって一番はのっち達でしょ、違うの、ゆかちゃん。そんな男の方がのっち達より大事なの。
「…のっち、ヤりたいの?」
ヤりたい訳じゃない、悔しいだけ。どうせのっちはわがままで子供で、親友を取られたと親友の恋人に嫉妬するようなみじめったらしい人間ですよ。
ゆかちゃんはその気持ちを読み取ったのか、小さく微笑んでのっちの頬を撫でた。
「女の子同士のエッチって、どんなだろうね」
「さぁ…のっちも知らん」
「しよっか、エッチ」
好奇心なのか何なのか、ゆかちゃんは楽しそうにそう言った。のっちは男じゃないから、自分の一番気持ち良い部分をゆかちゃんのそこに入れる事はできない。今だけ生えてこないかな、と自分の下半身を見つめても、もちろん何も起こる訳がなく。
やけくそだ、だったら女にもある機能で気持ち良くなるしかないじゃんか。口で、指で、出来るだけ優しくゆかちゃんに触れると、くすぐったい、と笑って体を震わした。肌に触れるだけで、舐めるだけでなんか全身がゾクゾクする。こんな所、もしあ〜ちゃんに見られたらどうなるんだろ。気持ち悪いと思われるかな。
「のっち、早く入れて、」
ゆかちゃんの声は色っぽかった。頬はチークを塗ったみたいに綺麗なピンク色で、服がはだけて露になった胸や腰は、成長して子供だった頃のあの体形を思い出すのも困難で。
下着の隙間からその部分に触れた、親友ののっちですら今まで触れた事のない部分。大親友のあ〜ちゃんですら、触れた事のない部分。男だったらな、そんな大切なとこに簡単にあんな見るからにグロくてエグい物体をねじ込むんだもんな、当たり前みたいに。なんか悔しくて泣けてくるわ。
「ん、」
「…うわ、」
自分の体と同じだから、入り口はすぐに分かった。見ても女の子の大事な部分、ってだけで特に興奮もしない、だってのっちにも同じのがある訳だし。だけど中は思ったよりも熱くて、ねとねとしていて驚いた。まぁ体の中なんで大概体液でねとねとしてるか。
そしてこんな狭い穴に男のアレが入ったなんて嘘だろ、とあれこれ考えながらも指をゆっくり動かした。ゆかちゃんは小さく声を漏らしてる、感じているのかな、やらしいな。あ〜ちゃんもここに入れたら感じるのかな。中は同じくらい熱くてねとねとしてんのかな。
だめだ。
想像したら、罰が当たりそうだ。
終わりが分かんなくて、授業の終わりを知らせる鐘の音で行為は終わった、というか中断した。男だったら出して終わりなんだろうけど、生憎のっち達は女の子なもんで。単純な作りでないだけに、曖昧な感じで終わってしまって良いものかと思ったけど、まぁ初めてにしてはよく出来た方でしょう。
「そろそろ行こうか」
「…、そうじゃね」
ゆかちゃんの新たな一面を見れて、嬉しい反面後悔もした。だって指を抜いたらそこには真っ赤なA型の血が着いていたから。
「ゆかちゃん、生理だったの?」
「ううん、違うよ」
「じゃあなんで血…」
「処女膜が破れたからでしょ」
乱れた服を直しながらゆかちゃんは淡々と言った。のっちはただ呆然とした。嘘だ、初めてな訳ないもん、あのコンドームは何だったの?そのキスマークは何?訳が分かんない。
「ゆかちゃんって、処女だったの?」
「意外だった?」
「意外っていうか、当然経験済みなのかと…」
「だって、男とするの怖いじゃん」
「だったらのっちはお試し初体験だった訳?」
「しょーゆー事!」
「しょーゆー事!じゃねぇよ」
なんなんだ、のっちはまんまとはめられたんだ、この人でなしの小悪魔に。だけど良い、これで良かった、やっぱりのっちはゆかちゃんの親友だ。これから何があってもずっと側に居て良いんだと思えた。それにこの血が何よりの証明。
「なに血見てニヤニヤしてんの、気持ちわりゅい、はいティッシュで早く拭いて」
「ああっ!拭かないでよ!」
「はぁ?ずっと指に血つけてる気?」
ティッシュに拭き取られたゆかちゃんの血は、体育館の出口に置かれたゴミ箱にくしゃくしゃポイされてしまった。
ゆかちゃんの彼氏さん、申し上げにくいのですが、のっちの勝ちです。きっと地球最後の日にゆかちゃんが一緒に過ごすのは、あなたじゃなくてのっち達です。ゆかちゃんの処女は、一生のっちのものなのです。それにクリスマスイブのゆかちゃんは、のっち達と楽しく過ごすので。
「ねぇ、なんで男とすんの怖いの?」
「だって男のアレってキモくない?」
「…まぁ、確かにね」
「それに比べてのっちのウインナー指は形も可愛いしね」
「こ、このウインナー目当てだったのね…!体目当てなんて最低よ!」
「のっちのそのたまに入る演劇口調ウザイよね」
「いつもは乗ってくれるじゃんか…」
調子に乗ったのっちをいつもの感じで叩き潰すと、ゆかちゃんはうなじをポリポリと爪で掻いた。またあの謎の赤い跡が見えてしまう。
「かっゆいわ〜、こんな冬にも蚊っておるんかね」
その一言に、のっちはただ呆然と立ち尽くすしかなかった。
◇♭:終◇
最終更新:2009年06月17日 13:31