さっきまで、あたしの心にあった黒い部分。
後ろ向きで、鬱々としていて、形のないような気持ち。
のっちといたら、どっかに行った。
のっちといたら、形ができた。
愛しい愛しい形だよ。
今のあたしの気持ちの形。
別にまだなにか解決した訳じゃないのに、随分だよね。
小さい頃から、色んな人に言われた言葉。
遠い昔の、偉い人の言葉。
パパとママにも言われた。
学校の先生にも言われた。
ピアノの先生にも、仕事を始めてからの関係者の方からも言われた。
今思えばちょっと可愛いけれど、部活の先輩にも言われたっけ。
『時には回り道も必要』
遠回りした方が良いって言う人もいたな。
なんとなく頷いて、なんとなくそんなの無い方が良いじゃんなんて思ってたけど、救われた。
この言葉をくれた全ての人にありがとうと言いたい。
今思えば、あたし達の活動だってそうだ。
ポンとデビューしてポンと売れてたら、味わえなかった感動や感謝だってあった。
勿論辛かったし、泣いたこともあったけど、今なら全て良かったと思える。
今のあたしも、それでも良いんだよって、言ってもらえてる気がする。
時には、失敗しても良いんだよって。
楽屋の前に着くと、のっちがドアに耳をつけ、中の様子に聞き耳をたてる。
「……なにも聞こえない」
何故かウィスパーボイス。
あたしは笑う。
「いいけぇ、開けて」
「うん」
中に入ると、ソファーに座ったゆかちゃんが雑誌に目を落としていた。
表情は見えない。
「ゆかちゃん?た、ただいまぁ〜……」
のっちが恐る恐る声をかける。
なんかめっちゃ緊張してるし。
なんでのっちが緊張してるの?
あたしはまた笑う。
ゆっくりと顔を上げるゆかちゃん。
ほらね。笑ってる。
「おかえり〜」
あたしと暫くみつめあったあと、また柔らかく微笑む。
「なになに?」
のっちがあたしとゆかちゃんを交互に見る。
あの時から、あたしの気持ちは知ってたんだね。
あたしも、あの時ゆかちゃんがどんな気持ちだったのか、今なら分かるよ。
あたしも、のっちのことが、とても好きだから。
誰にも渡したくないくらい、愛しいから。
「ねぇ〜、どしたん?なにニヤニヤしてんの?」
「のっちはわからんでええよ」
「そ。ゆかとあ〜ちゃんがわかってれば良いの」
「えぇ〜…のっちは?」
勘違いしてた。
なにを恐がってたんだろうね。
あたしの目の前にいるのは、のっちとゆかちゃん。
何年も一緒にいて、なんだって共有してきた仲間。
元々求めるものじゃなかった。
あたしの場所なら、ここにある。
三人で造り上げた、三人だけの場所。
あたしは欲張りだから、新しい場所を求めて見えなくなっていた。
本当は、ずっとここにあったんだ。
三人の気持ちは変われど
三人の形は変われど
三人を取り巻く状況は変われど
あたし達の場所は、きっといつまでもあたし達のもとにある。
「はなしがあるの」
あたしは話始める。
化粧が崩れてかわいくなんかなくて、目も腫れててみっともないあたしの、人生初の大事な告白。
穏やかに微笑むゆかちゃん。
さて、これからどんなふうにしようか?
お互いヤキモチやきだから、苦労するかもしれないよ?
「あのね」
キョトンとするのっち。
あなたはどう受け止めてくれるの?
慌てて驚くのっちが頭に浮かぶ。
それでも、顔を赤くしてくれたら嬉しいな。
心地好いよ。
当たり前じゃない。
あたし達三人でいる場所は、あたし達があたし達の為につくった場所。
これからもずっと、あり続ける場所。
「あ〜ちゃんはね、のっちが好き。ず〜っと前から、のっちに恋してたの」
〜end〜
最終更新:2009年06月17日 13:35