アットウィキロゴ
所謂、
一目惚れ、ってやつだ。


またかよ。
って自分にツッコんでみるけど、好きになってしまったものは仕方ない。


自分が惚れっぽい性格なのは重々承知。
来る者は拒まないけど、去る者じゃなくても、自分から追いかけたりはしない。
だから、こっちが一方的に惚れるだけ。
好きになっても、ただそれだけ。
その先なんて望まない。


そうやって、自分が勝手に好きでいるだけで満足しちゃってるわたしは、
みんなが言う“人を好きになる”ってことを本当は知らないのかも知れない。




そもそも、好きなの?
名前も何も知らないのに。
話したことすらないのに。


だけど、広いフロアの人だかりの中、わたしは簡単にあの子を見つける。


キレイに前髪を切り揃えた、黒髪のストレートロング。
サラサラなびくその黒髪をわたしは遠くから無意識に目で追いかける。


凛としたクールな雰囲気のあの子。
だけど、時々見せるはじけるような笑顔はびっくりするほどあどけない。


いつも一杯目は決まってカシスオレンジを頼むあの子。
二杯目からの最近のお気に入りはハイボール。


いつも違う人の隣にいるあの子。
男の子も女の子も、みんな甘い匂いに誘われるようにあの子に惹き寄せられていく。


どんな香りがするのかな?
きっといい匂いなんだろうな。
甘くて、でも、ちょっぴり刺激な。


重ための前髪がフロアから帰ってきた時には、少しだけバラけてるのにドキっとするんだ。
その奥にある深い瞳に、今日は誰が写るの?


ゆかちゃん、って呼ばれてた。
そっか、ゆかちゃん、って言うんだ。


ってあれ。
なんか、わたしストーカーみたい??


だって、気になるんだ。


だけど、近づけないよ。


あの子は自由気ままに遊び回る、ネコみたいで。
たとえどんなに愛想を振り撒いてても、簡単には懐いてはくれないんだろうから。





今日は珍しくカウンターにあの子が座ってる。


チャンス到来?
なんて。
まさか、ね。


だから、見てるだけでいいんだって。
見てるだけで幸せなんだから。


あーあ。
それにしても、今日の新人DJさんはひっどいな。
まぁ、最初はみんなこんなもんだけどさ。
さっきの人のあとじゃ、ちょっとキツイよね。


だから、今日はそんな浮かない顔してるの?
って、んな訳ないか。


たまに、そんな顔してるよね。


どれだけ楽しそうに誰かと触れ合いながら踊ってても、
どれだけ楽しそうに誰かに笑顔を向けてお酒を飲んでても、


世界でひとりぼっち、みたいな哀しい顔するんだ。


それは、そのまま消えていなくなってしまいそうに儚くて。


今日なんて、カウンターに突っ伏しちゃってさ。
さっきの子にはフラれちゃったの?


あの子に声をかける人なんて数え切れないくらいいて、
それこそ色んな人が、今夜こそは彼女を連れ去ろうと必死に声をかける。


だけど、あの子から声をかける相手は、だいたい決まっていて。
それは、ふわふわパーマでやわらかい雰囲気を纏った可愛らしい女の子。


タイプなのかな?
でもタイプってもっと漠然としてるものだよね。
って、ことは、、誰かと重ねてる、、とか?


ま、どっちにしたって、わたしとは正反対だけど、さ。



「生ひとつねー!」


グラスを拭きながら、そんなことを考えてるとオーダーが入った。
無言でビールサーバーへ向かう。
こんな大音響じゃ接客も何もないし、なんて最近は開き直ってる。


「やっべ。あの子、ちょーカワイイじゃん」


それでも、彼女に関する情報だけには敏感なわたし。
うん、やっぱ、ストーカー気質あるかも。


てか、あんたなんか相手にされるレベルじゃないっつーの。
って、アレ・・・・?


ビールを頼んだ彼があの子の隣に座る。
あの子の深い瞳が彼を捕らえた。


マジっすか。
今日はソイツが相手なの?
ダメダメ。ソイツ、たまに飲んで暴れるような最低な奴なんだから。
先週だって、フロアでダイブしたり、女の子に絡んだ挙句に手を上げようとしたんだよ。
出禁にしてやれたらいいのに。
思いっきりぶん殴ってやったのに、まだ懲りてないの?


そんな爪の先まで腐りきってるような下衆なんてやめてさ、、


「ダメだよ。その子先約入ってるから」


自然と言葉が零れた。
と同時に気づかないうちに身体も動いてた。


彼女の肩を抱こうと伸びた手を叩いたのは、紛れもなくわたしの手だった。


あーあ。
やっちゃった。。


こうなったら、もう退けない、、よね。


「先に目付けたの、わたしだから」


あんたなんかより、ずーっとずっと前からね。


テーブルに力強くジョッキグラスを置いてやれば、悪態をつきながら逃げていく男。


「・・・別にどっちでもよかったんだけど?」


上目遣いに見上げてくる彼女は、いつものクールな笑顔で品定めをするようにわたしを見た。


捕らえてよ、その瞳で。


「うん、知ってる。だから、取られたくないなーって」


見てるだけで幸せ、だったはずなのにな。


これが、全て捨てなさい、ってこと?


「いいお店知ってるんだ。付き合ってよ、ゆかちゃん?」


ゆっくりと顔を上げた彼女の瞳がわたしを捕らえた。
わたしも彼女を真っ直ぐ見据える。


「それとも、ショートの女は嫌い?」


捕らえられたのはどっち?




今夜、連れ去ってもいい?
24:00過ぎても、消えてなくならないで。



  • fin-





最終更新:2009年06月17日 13:45