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一度きり。

一度きりだから。

一度きりでいいの。

お願い。

のっち。

その大きな瞳であたしを見つめて。

そのやわらかい唇であたしに口づけして。

その長い腕であたしを抱きしめて。

そのウインナーみたいな指をあたしの中に入って。

そうすればあたしの体温は冷めるから。

他の人じゃこの上がった体温は下げられなかったの。

のっちじゃなきゃダメなの。

一度きり。

一度きりだから。

一度きりでいいの。

お願い。

あ〜ちゃん。

だからのっちを貸して。

——————



よく『自分とは正反対のタイプを好きになると上手くいく』って聞くけど、それって本当なの?

あたしは絶対そうじゃないと思う。
やっぱり自分と同じ価値観を持った人を好きになった方がいいに決まってる。

あたしとのっちは服のセンスや趣味や考え方が似てる。
でものっちは同じ価値観を持ったあたしじゃなくて、まったく正反対のあ〜ちゃんに夢中だ。

事あるごとに、「あ〜ちゃん」「あ〜ちゃん、かわいい」「あ〜ちゅぁぁぁん」だ。
それを聞くたびに「なんで、あ〜ちゃんなのよ!!あたしじゃ何が不満なの!?」って思っちゃう。

アホ。

のっちのアホ。

あたしじゃ、ダメなの?

どうして、あ〜ちゃんなの。

どうして、あたしの親友なの。

あ〜ちゃんに恋しないでよ。

あたしにしなよ。

あたしだったら、気持ちいい事いっぱいしてあげられるのに。

のっちのアホ。

「あっ、かしゆか!おはよう。あれ?あ〜ちゃんと一緒じゃないの?」
なんで、あたしに声掛けてるのに、あ〜ちゃんを探してるのよ。

「おはよう。一緒じゃないよ。あ〜ちゃんは一本早い電車に乗ったけぇ」
「ふーん。そうなんだ。なーんだ、残念」
おいおい・・・。
それって、失礼じゃない?
あたしがいるのに、残念って・・・のっちのアホ。

「あっ、かしゆか課題やった?のっち、全然出来てないんだけど・・・見せてもらっちゃダメ?」
そんなハノ字眉で頼まれたら、断るなんて・・・出来ないでしょ。

「いいよ」

「マジで!?ありがとう。この事は、あ〜ちゃんには内緒にしてて。あ〜ちゃんに知られると、怒られちゃうから」
「いいよ。そのかわり、ゆかのお願い聞いてくれる?」

「うん。聞く聞く!!なに、なに?」
「・・・あ〜ちゃんと、別れて」

「えっ・・・」
あーあ、ハノ字眉が歪んじゃった。

「・・・ウッソー!!冗談だよ。驚いた!?あはは、のっちマジに真に受けすぎww」
「う、嘘かよ!?ちょっと、かしゆか〜、何言い出すかと思ったよww」

嘘じゃないよ。
本当の事だから、誤魔化したんだよ。

別れてよ。
あ〜ちゃんと別れて、あたしにしてよ。
あたしにしなよ。



「ホントのお願いはね・・・のっちの部屋行っていい?」
「ん?そんな事でいいの?」

「いいの」
「でも、うち・・・めちゃくちゃ散かってるよw」

「いいの」

いいの。
のっちとふたりっきりになれればどこでも。

「ほんとだ・・・。汚い・・・・」
「だから言ったじゃん・・・」

のっちの部屋は散かり放題。
脱ぎっぱなしの洋服。
読みっぱなしの雑誌。
食べっぱなしの食器。
とにかくぐちゃぐちゃ。

「あ〜ちゃんが片付けてくれてるけど、すぐ散かっちゃうんだよねw」
のっちはハノ字眉になって苦笑する。

「よく、あ〜ちゃん来るの?」
「んー、週3回くらいかな?」

「ふーん・・・」
あたしはベッドに腰を掛ける。
そのベッドもシーツがシワシワの状態。

「のっちの匂いがするーw」
あたしは枕に顔を埋めてふざけたように言った。

「えー・・・なにそれ?wかしゆか、ちょっと変態っぽいww」
「ゆかが変態だったら、のっちも十分変態でしょ?」

「のっちは、へ、変態じゃないよ!!失礼な人ですねw」
「・・・変態だよ。だって、このベッドであ〜ちゃんにいっぱいエロい事してるんでしょ?」
あたしにもエロい事してよ。
あたしならのっちの欲求全部受け止めてあげれるよ。

「か、かしゆか!?な、何言ってるのさ!あ〜ちゃんに、エ、エロい事なんて・・・し、してないよ」
のっちはシドロモドロ。

「ここで最後にエッチしたのはいつ?昨日?一昨日?」
「な、なんでそんな事訊くの?かしゆかには関係ないでしょ?」

「関係あるよ・・・。だって、ゆか・・・のっちの事好きなんだもん」

あーあ、言っちゃった。

ほら、見て。

のっちの顔。

誰が見ても困っちゃってますって顔してる。

ハノ字眉が下がりまくってる。

「別に・・・のっちはあ〜ちゃんと付き合ってくれてていいの」
「でも・・・一度きり、一度きりでいいから・・・あたしを抱いて」



「そ、そんな事・・・出来ないよ」

そうだね。
のっちの言ってる事は正しいよ。
正論だよ。

でもね、のっち。
世の中、正論だけじゃ生きていけないんだよ。
誤魔化しや、嘘や、隠し事しないと生きていけないんだよ。

「大丈夫。これは浮気じゃないから。あ〜ちゃんに後ろめたさを感じなくていいの」

そう言って、のっちの首に腕を回す。
そして、あたしの方に引き寄せながらのっちの体を倒した。

のっちの鼻先があたしの鼻先に当たる。
のっちはあたしにこれ以上当たらないように、両手で踏ん張ってる。

「お願い、のっち。一度きりだけでいいの・・・」

「・・・いちどだけ?」
「うん・・・」

「のっちで・・・いいの?」
「のっちがいいの・・・。のっちじゃなきゃダメなの」

「・・・い、一度だけ・・・だよ」
「うん。わかってる」

「あ〜ちゃんに・・・絶対に言わないでね」
「言わない・・・」



のっちの口付けは甘かった。

のっちの手は温かかった。

のっちの指は激しかった。

のっちはのっちは優しかった。

「はぁ・・・はぁ・・・のっち、ありがと」
「ううん・・・お礼を言われる事なんて、してないよ」

あたしは乱れた髪と服と心を整える。
それをただ見てるのっち。

「かしゆか!!」
あたしが玄関を出ようとするとのっちが呼び止めた。

「あ・・・あ〜ちゃんには、絶対に言わないでね・・・この事」

「大丈夫・・・言わないよ」

あ〜ちゃんの事そんなに好きなんだね。

のっちの体は操れても、心までは操れなかったんだ。

あーあ、一度抱いてもらったら冷めると思ったら全然冷めないじゃん・・・。

この上がった体温どうすればいいの?

のっち。

一度きりじゃ、ダメだったよ。

お願い。

のっち。

もう一度抱いてって言ったら、そうしてくれる?

お願い。

あ〜ちゃん。

もう一度、のっちを貸してくれる?


— Fin —






最終更新:2009年07月17日 22:02