イチゴ狩りが旬だった季節から、憂鬱な梅雨が明け、紫外線が大敵な夏も過ぎて。
だんだん夜が長く、一人で過ごすには肌寒い季節になった。
変わらず、あたしはあ〜ちゃんとのっちの間をゆらゆら彷徨うような生活を続けている。
あまりに身体に馴染んで、すっかり定着してしまったこの生活は、
ずっとこのまま続いて行くことが当たり前のような、そんな気さえしている。
*********
唇に触れる柔らかい感触。
うっすら目を開けると瞳を閉じた愛しい彼女の顔が見えた。
あぁ、そっか。
昨日は久しぶりにあ〜ちゃんが泊まりに来てて。
って、あれ・・・?
キス、、されてる・・・?
スローな思考回路でようやく現状を把握できたのと同時に、彼女の瞳が開かれた。
「お、おはよぉっ!・・・はよ起きんと、、」
声を裏返しながら、バッとベッドから離れて背を向ける彼女は、もう随分前に目覚めていたらしく。
キッチンからは炊きたてのごはんのいい匂いがした。
それにしても、、
なに?なに?今の?
可愛すぎるんですけど。
「、、んぅ・・・・ぁ〜ちゃ、、」
まだうまく呂律が回らないまま、片手を伸ばしてあ〜ちゃんの腕を掴む。
力の入らないその手は振り払われることはなくて。
「もっかい・・・ちゅーしてくれたら、おきりゅ、、」
頬をほんのりピンクに染めたあ〜ちゃんが振り返る。
「そ、そんな、こと言ってないで、、」
もごもごと慌てる彼女を他所にゆっくり瞳を閉じる。
視界を遮断したら、首筋にじっとりと嫌な汗をかいていることに気づいた。
幸せな気持ちのまま眠りにつけたはずなのに、なんだか嫌な夢を見てた気がする。
どんな夢かは、さっきのキスですっかり忘れてしまったけど。
しばらく視界を閉ざしたまま待っていると、一瞬だけ、唇に柔らかい感触を感じた。
「あやちゃんっ」
気だるい身体を起こして、今度はあ〜ちゃんが離れて行ってしまう前にしっかりと腕の中に収めた。
あたしの腕の中であたふたする彼女の頬はピンクを通り越して真っ赤になっていたけど、思いがけない幸せな朝にあたしの頬は緩みっぱなしだ。
きっと、、それくらい、今のあたしは幸せ。
テーブルの上を見れば、キレイに朝食の準備が整っていて。
真ん中を陣取る緑と赤のものが盛りつけられた小さなボールに敵意を込めた視線を送りつつ、
自分一人では(ましてや、あの子と一緒では)決してありえない朝食の光景に胸が踊った。
「あ〜ちゃん、このまま学校行く?」
「うん。ちゃんと準備もしてきたから」
「じゃぁ、ゆかも一緒に行く」
最近、あ〜ちゃんは忙しい。
卒業と同時に進路が確定するあ〜ちゃんの学科では、この時期から実習や課題でいろいろ大変みたいだ。
普通、大学三年の後期にもなれば、授業数はそれまでの半分以下で。
その上ゼミにも所属しないで、だらだら過ごしているあたしとは大違いだ。
「でも、ゆかちゃん、今日授業ないじゃろ?」
「うん。でも、就職課に顔出してみようかなーって」
そう。
だけどその分、あたしのような学科の子はぞろぞろと就職活動を始める頃だ。
将来やりたいことがはっきりしてるって羨ましい。
明確じゃないにしても、それなりに目指すべきものがあることが、それすらないあたしには羨ましいんだ。
あたしの口から出た『就職課』という言葉に目を丸くしながらも、
そっか、と言ってあ〜ちゃんはとびっきりの笑顔を見せてくれた。
いつだってそうだ。
あ〜ちゃんはあたしの一歩先を行く。
あたし?
あたしは何がしたいんだろう?
例えば、動物は好きだけど、ペットショップの店員になりたいかと言えばそれは何か違うし。
かといって今更、獣医や動物園の飼育係、トリマーにだってなれやしない。
それに、それが「したいこと」かと聞かれれば、やっぱり何か違うし。
写真も好きだけど、それを仕事に食べていけるとも思えないし。
「そんなことないけ、ゆかちゃんは自分に自身が無さ過ぎなんよ」
いつだったか、あ〜ちゃんに言われたっけ。
あ〜ちゃんはあたしよりも少し先に進んで、
いつもそこからあたしの方を振り向いてくれる。
そして、時にそうやって優しい言葉もかけてくれる。
だけど、あたしは怖いんだ。
いつの日か、あ〜ちゃんはあたしを置いてどんどん先に進んで行ってしまうんじゃないかって。
いつの日か、あ〜ちゃんはあたしの方を振り返らなくなってしまうんじゃないかって。
いつの日か、あたしはあ〜ちゃんの背中しか見れなくなるんじゃないかって。
いつか訪れるかもしれないその日を、ずっと恐れているんだ。
ねぇ、あ〜ちゃん。
あたしはあ〜ちゃんがいなきゃ、どこへも行けそうもないよ。
連れてってよ。
置いて行かないで。
だけど、もし重荷に感じるなら、
早いうちにあたしを捨てて。
to be continued...
最終更新:2009年07月17日 22:17