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「あ~ちゃんなんでゆたかにアドレス教えるんじゃー!!」
のっちが叫んでる。
ただの思いつきが、ライブのコーナーになるとはなあ。
でもまあ、みんな喜んでくれとるみたいだし。悪くないよね。

「その方がおもろいじゃろ」
「そうよ、のっちはなんもわかっとらんねえ」
あたしに対してどぎまぎする様子は、実際とはちょっと違うけど。
のっちはちょっと感情移入しすぎだ。そんなすねた顔しないでよ。

足をじたばたしてまだアトマイザー劇場をひきずってるのっちを見てたら、
不意に最後に抱きしめられたときを思い出した。
のっちの心臓のドキドキは、半端なかったなあ。

「一人で、悩まんでええけぇ」
のっちはそう言った。とてもやさしく、とても頼もしかった。

あたしの気持ちなんて、何もわかってないくせに。
でもその声が頭の中に響くと、少し落ち着いた。


「最近よくぽーっとしてるよね」
「そうかねぇ。別に普通じゃよ」
何気なく言ったかっしーに、適当に返してみる。
悩みなんか何なのかよくわからんこの気持ちを、二人には悟られたくなかった。

FMから愛の歌が聞こえる。よく聞くDJの声。
そうか。あれからもう一週間経ったんだな。。
のっちはあたしを好きと言った。何度も。


自分の部屋に着いて、ベッドに体を投げた。
明日は心配されないくらい、平気な顔をできるかな。

『最近よくぽーっとしてるよね』
のっちからのメール。ゆかちゃんに影響されすぎ。わかりやすい。
さっきのゆかちゃんのセリフそのままじゃ。
昔からよく、ちょっと言葉数や笑う数が減るだけで、色んな人に心配されてきた。

『何言っとるん。そんなことないけぇ。いつも機嫌よく笑ってないとめんどくさいん!?』
少し考えて、あたしはライトに返すことにした。
この時間に深みにはまると後がきつい。

『んなことないよ でも悩んどるんじゃないかって』
『あ~ちゃんは悩むことがおおいけぇ、心配はいらんよ! はよねんさい』

ねぇのっち。
ほんとにあたしを好きでいてくれてるんなら、
この気持ちをなんとかしてほしい。
…言ってもしょうがないよね。のっちは悪くないもう寝よう。


気づくとあたしは夢を見ていた。こないだの続きだ。
首筋にやわらかい感触。気持ちが昂ぶってくる。
自分がどうにかなってしまいそうになる。

『のっち』
あたしはのっちの名前を呼ぶ。
でもなんて続けたらいいかわからない。
すき、って言葉が浮かぶ。でも声が出ない。

また、ぞくぞくする感触をのっちがくれる。
あたしはそこにキスされるのが好きらしい。
もっとしてほしい。でも何も声が出ない。

次第にのっちの姿が薄くなっていく。
あたしを呼ぶ声が聞こえなくなっていく。

そこで目が覚めた。
起き上がって携帯をみる。声がききたい。
でも、さっき強気なメールをしたじゃない。
のっちだって困るじゃろ…。

逡巡したあげく、結局あたしは電話をかけてしまった。
「のっち」
夢の中とは違う。あたしの声は乾いていた。

「…どうしたの??」
「どうもせん、でも…」
「のっちに、電話しようか思いながらやっぱりやめよう思ってから」
「じっとケータイ見とったら、ついかけちゃった。」
やっぱり、のっちと話すと変なことを言ってしまう。電話口から驚きが伝わってくる。

「どうもせんて、なんかあったからかけてきたんじゃろ」
「なんもないもん」

時計は2時。明日も早い。わかってるけど。

「のっち」
「うん?」
やさしい声が伝わる。あたしのことを好きな人の声だ。
心がほどかれる。気持ちは整理ついてない。でも、甘えていたい。

「名前、呼んで」
困ってる。夢の中での呼び方を思い出す。あの熱で呼んでくれはしないよね。
「…あや、か?」

予想外の呼び名にびっくりして笑ってしまう。
「そこは本名なんじゃ」
「…なんとなく」
「うん、ありがと」

落ち着きを取り戻して。あたしは言った。
「なんもいわんでええんよ、ありがと、おやすみ」



電話を切った。のっちは最後まで釈然としないかんじだった。
ごめん。でも自分でもようわからん気持ちなんよ

まっすぐな愛情を向けられて、かわいいっていってくれる。
のっちには邪念がない。傷つけたくない。

結論なんて出ない。そう思ってもう寝ようとしたとき。
「もしもし。今、下に来とるよ」
「・・・!」

「なんでそんなことするん!」
あまりの驚きで、つい怒り口調になる。
のっちはいつだってそうだ。考えるより先に行動する。
ものすごくヘタレかと思えば突然勇敢になる。

あたしは急いで玄関まで行く。ドア越しに見える姿。
着の身着のまま来たかんじ。
肩が落ちとるよ。
あたしの電話を受けてすぐ来てくれたんだなあ。

息を吐いて、ドアを開けた。
寝静まった家族を起こしてはいけない。
でも、どうしても帰したくなかった。


「あんたなんできよるが」
「我慢できんかった」

のっちはまるで夏の子供みたいだ。
照れながらにこっと笑う。
会えてうれしいって気持ちが伝わってくる。

夜中にあんな電話を受けて、心配でしょうがなかったんだろうなあ。
あたしはやさしい気持ちになった。
ありがとう。という気持ちをこめて言った。
「仕方のない子じゃねえ」


「ちょっと、ごめん」
近いな、と思った次の瞬間、のっちはあたしを抱きしめた。
仕方のない子は自分だ。こうやって簡単に抱きしめられてしまう。

「…勝手に夢に出てこんでよ」
「せっかくはようにねたのに、眠れんくなる」
「…」
のっちの匂いを近くに感じると、いつだってこうだ。
知らずに変なことを言ってしまう。

「ほじゃけえ、のっちとあんなことなってからに、悩んどるんじゃないん」
意外に鋭い。そういうとこあるよなあ。

「…」
あたしは黙ってしまう。そうだよ。
「だから、なんかその、ごめん」
のっちが謝った。叱られた子供みたいな声。急に胸が痛くなる。

「…のっちは、謝らないかんような気持ちなの?」
「そんなことないよ!」

大きな声と大きな目。とっさに指をのっちの口にあてた。
「しーっ あんまり大きい声だすとみんな起きるけぇ」

のっちはしばらくそのままでいた。
振り回した挙げ句、謝らせたりしてる。あたしはどうしようもない。
いたたまれない気持ちになった。

触れられたい。でもどうすればいいんだろう。
…?
指にやわらかな感触。

よく見るとのっちはあたしの指を唇でなぞっていた。
上目遣いでこっちを見てくる。あたしは言った。
「かわいいね」

かわいいよ。
でも、してほしいのは、そこじゃないよ。


のっちの顔が近づいてくる。
いつになく真剣な顔。
あたしに底知れない心地よさをくれるんだなと思う。でもすこしこわい。

首筋が熱くなった。
「んっ・・・」
だめだ。気持ちがよすぎる。
自分の感情やのっちの思いを、忘れてしまいそう。

理性がささやかに抵抗しようとして、あたしはのっちの手を離そうとした。
でもその手ごと包み込んで、のっちはあたしを追いかけてくる。

「のっちっ…」
「…」
やめて、と言おうとする。でも言いたいのはそんなことじゃない。
さっきの夢と同じだ。やめないでほしい。何も考えないですむように。
そう思って目を閉じたとき、階下で音がした気がした。


夢の中から急激な勢いで引き戻された。
のっちは全然気づいてない。
あーあ。でも、だめだめ。

「…って、こらっ」
のっちがびくっとした。
「あんたここがどこかわかっとるん」
「…」
「ちょっと、目覚ましんさい」

恥ずかしそうに下を向いて、いつものへたれののっちが帰ってきた。
「ごめん、なんかその」
「ほんっとにこの子は…いけん子じゃねぇ」
ほっぺたをつねってやった。

のっちは固まったと思ったら、いきなり真剣な顔でこう言った。
「あ~ちゃんどうしよう」
「なにが」
「…全然痛くない!」

さっき自分に触れてきたときの顔とはまったく違う無邪気な顔に、
あたしは思わず笑ってしまった。



(おわり)






最終更新:2008年10月10日 23:19