アットウィキロゴ
Side A
あたしは雨も気にせず、歩き出した。
早く遠ざかりたかった。
あそこから…彼女から。

なんで?なんなの?
なんでそんなに簡単に、あなたは土足であたしの心の中に踏み込んでくるの?
彼があたしにくれた言葉を…もちだすの?

でも、湧いてくるのは怒りではなくて、ただ苦しい…。
思い出すのが、嫌なわけじゃないの。内容にもよるし…。
ただ、予想していなかった時に思い出させられるのは、痛い。

こういう時、彼なら追いかけてきてくれるんだろな…。
雨の中、人目も気にせずに抱きしめてくれるんだろうな…。

「…〜ちゃん!」
雨音にかき消されながら、微かに聞こえた自分の呼び名に立ち止まる。

「あ〜ちゃん!ごめん!」
息を切らせて、あたしの前に回りこんできたのは…のっちだった。

雨でびしょびしょになりながら、走ってきてくれたんだ。
「なんで、謝るの?」
「だって、泣いてるでしょ?」
「泣いてないよ。」
この雨の中、泣いてるなんて分かるはずない。
でも…。



「だって、雨はこんなに温かくないよ?」
俯くあたしの頬をそっと撫でてそう言う…のっち。
その指も、温かかったの…。

思い切り、泣きついてしまいそうになった。
でも、それはダメ。
のっちは彼じゃないから。

いくら似てるからって、代わりになんて出来ない。
彼女は何も知らないのに…。
「ごめん、なさぃ。あたし…まだ…。」
さっきの彼女からの告白への返事としてそう言うと。

「知ってるよ?そんなの覚悟のうえだから。」

知ってるって、何を?

あたしに伸びてきそうな腕に気付いて、後ずさり、首を横に振る。
ごめんなさい。嫌いじゃないの。でも…。
あなたとの距離が近くなるのが、恐いよ…。

Side N
あ〜ちゃんが、初めて苗字で呼んでくれたのがすっごく嬉しくて、質問された自分の答えを深く考えもせずに、そのまま答えてしまった。

あ〜ちゃんの表情が歪んで…。
しまったと思ったときにはもう遅かった。
まさか、ここで被るとは… きっと最悪だね。

でも、ここで落ち込んでる場合じゃない。
追いかけないといけない気がした…。あ〜ちゃんを。

雨の中、走って追いついたあ〜ちゃんは、やっぱり泣いていた。
触れた頬は温かかったから。



「ごめん、なさぃ。あたし…まだ…。」
俯いたままそう言いかけるあ〜ちゃんに
「知ってるよ?そんなの覚悟のうえだから。」

あの人が一年待ったのなら、それ以上なんて覚悟のうえだ…。

無意識にあたしの腕が少し動くと、あ〜ちゃんは後ずさり、首を横に振る。
それと同時に、あ〜ちゃんが後ろから呼ばれ、あたしの手も止まる。

振り向いたあ〜ちゃんの先にはゆかちゃん。
手に持っていた傘を開いて
「コレ、のっちの分。あんま、意味無いけど…。」
あ〜ちゃんの後ろから差し出される。
「…ありがとう。」
とりあえずあたしは、ゆかちゃんから傘を受け取った。

あ〜ちゃんは、ゆかちゃんがさす傘の下で立ち尽くしている。だけど、
「あ〜ちゃん、おいで?」
ゆかちゃんの一言で、コテッとゆかちゃんの肩に頭を預けた。

あ〜ちゃんの頭に手を置いたゆかちゃんがあたしを見て。
「ごめん。まだ、渡せないわw」
そう言った。


『まだ』って。いつまで?

…。
大丈夫、待つのは嫌いじゃない。



Side K
ようやく二人を見つけると、のっちから一歩引いてイヤイヤをしてるあ〜ちゃんが見えた。

あぁ…。
今はまだ、時じゃなかったかな。
早過ぎたね。ごめんね、あ〜ちゃん。

後ろからあ〜ちゃんを呼ぶと、ちゃんと私の方へ振り向いてくれた。

私はあ〜ちゃんを自分の傘に入れて、手に持っていたあ〜ちゃんの傘を開いてのっちに渡す。
そんなにずぶ濡れで、今さらだけど…。
これ以上雨に打たれないでしょ?

そして泣きたそうにしているあ〜ちゃんに、優しく「おいで?」って言うとぽんっと私の肩に頭を乗せてきた。
その頭を撫でるように手を置いて、今度はのっちを見る。

ごねんね、のっち。
あ〜ちゃんが拒むなら、私はそれを受け入れる。
あ〜ちゃんを守るって、約束したから。

「ごめん。まだ、渡せないわw」

だからさ。
もう少し待ってよ。
あ〜ちゃんの時が来るまで。

どうせ、あの人に似て嫌いじゃなんでしょ?
待つの。

「早く、バイト戻りなよ?」

「あ、うん。」

のっちの小さな返事を背に、私はあ〜ちゃんの手を引いて家へと歩き出した。


—つづく—





最終更新:2009年07月17日 23:25