サイドN
『のっち!』
大声で呼ばれて振り返ると、あ〜ちゃん達が遠くから手を振っていた。
“先行ってるよー”と、オーナーは気をつかってくれた。
『のっちいよいよじゃーん!!』
友達が笑いながら肩をバシバシ叩いてきた。
みんな無理したハイテンションで、別れが辛くないようにしてくれてるんだろうな。
『のっち、、』
『ん?』
あ〜ちゃんがおずおずと呼ぶ。
『ゆかちゃんね、今日は、これないって、、辛いからって、、』
『・・・うん。わかってる。大丈夫だよ、ありがとね。』
『・・・うん。』
『あ〜ちゃんとこ、いたの?』
『うん、そう。』
『そっか、なら安心だ!ありがとね。』
あ〜ちゃんは優しく笑った。
それからしばらく話をした後アナウンスが流れた。
『んじゃ、行くわ。』
ちょっと情けない声を出したら、
『もう!しゃきっとしんさい!!』
あ〜ちゃんに怒られ、みんなに笑われた。
『ははwうん!じゃ、いってきます!』
今度はしっかり言えたかな?
あ〜ちゃんは優しく笑ってくれた。
サイドA
『あっ!あ〜ちゃん!』
数歩進んだのっちが慌てて戻ってきた。
『なんよ?』
カバンからガサゴソ何かを取り出してる。
『お願いがあるんだけど、、』
『なん?』
『ん。これ。』
目の前に出されたのは、
『なん、これ?手紙?』
てゆうか、紙きれ?
『いいから、持ってて。』
持っててって、、、
『ゆかちゃんに?』
『違う違う!あ〜ちゃんに!』
は?意味わからん。
『なんよ?見ていん?』
『だ、だめだめ!!とりあえず、持っててくれればいいから!』
『なんなんよ、それwまぁいいわ、大事に持っとく。』
よくわからないけど、持ってればいいのね?
『うん。ありがと。ピンチになったら読んで?』
は?
『あんたのピンチなんかわからんわ!w』
私がつっこむと、のっちは困ったような顔で笑った。
それでも細めた目だけはすっごい優しかった。
のっちの言ってることも、意味してることも、ちっともわかんないけど
この紙きれをなくさないようにしようって思った。
『じゃ、いってきます!』
ねぇゆかちゃん?
のっちは元気に手をふったよ。
すっごい笑顔で“いってきます”って。
のっち格好よかったよ。
ゆかちゃんに見せたかったなぁ、、。
だって多分、
のっちがその姿見せたかった相手は、
ゆかちゃんだよ?
サイドN
あ〜ちゃん達と別れて、少し離れた搭乗口までをゆっくり歩いた。
入り口付近にオーナーを発見。
駆け寄ろうとしたけど、、、足が止まった。
その手前の四人がけの小さなベンチに見覚えのある後ろ姿。
見間違えるはずない。
何度も見たことのある後ろ姿。
オーナーを見ると、目線だけで合図をくれた。
近づいて、そっと隣に腰をおろす。
何も言葉は出てこない。
彼女も同じだ。
時計は残り五分を示していて、時間がないのに
なぜだか一分一秒が長く感じた。
残り五分、私たちは一言も言葉を交わさなかった。
最終のアナウンスが流れる。
人の群れがめまぐるしく景色を変える。
だけどやたらと静かだった。
席を立つ。
カバンを持つ。
動きだした自分の両足が止まるまで、時間はかからなかった。
数歩進んで振り返る。
『あ、れ、、なんでだろ?・・・あはっ、、ゆか、おかしい、や、、、』
立ち上がった彼女は小さな声で呟いて、
左手の甲をまぶたにおさえつけていた。
サイドK
やっぱり来ちゃった、、。
間に合わなければよかったのかも。
でも間に合っちゃった。
出発ぎりぎりのっちと会った。
言葉を交わすこともなく、時間は虚しくも否応なしに別れを知らせてくる。
あぁ、来なきゃよかった、、。
泣きたくないのに、、。
泣いちゃだめなのに。
なんで止まってくれないんだろ、、。
そっとあたたかい温度を感じた。
左手の甲をまぶたにおさえつけたまま、
声を殺して泣いた私をのっちは優しく抱き締めた。
—ごめん。泣いてばっかで、ごめんね—
心の中で何度も言った。
伝わってくれたかな?
腕の中の温度も感触も忘れないでおこう。
『ゆか、、、』
優しい声が耳の奥の鼓膜まで浸透する。忘れないでおこう。
『淋しくないよ。』
私を励ますその声を、忘れないでおこう。
『ゆか』
私を呼ぶその声を、忘れないでおこう。
『帰ってきたら、家族になろう。』
最後にそう言って、
腕の力を一瞬強めて、すぐに離したのっちは、
搭乗口の中に消えていった。
そのあまりにも愛しい後ろ姿も、忘れないでおこう。
最終更新:2009年07月17日 23:28