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A-side



あんな風に飛び出して行って、こんなにもすぐに帰ってくるなんてかなり間抜け。お土産に買った定番のもみじ饅頭は箱がでかいせいでバックの容量の大半をしめて、行きよりも大きなバックに持ちかえた。それもなんか間抜け。二人に会うのなんか恥ずかしいな。
それはそうと、久しぶりに家族と再会してたくさん話をした。大学でのこと、東京のこと、二人のこと。お母さんは最近また韓国ドラマにハマったらしく、実家にはたくさんの関連本やらDVDなんかもあった。お父さんは特に何もないけど、煙草が変わってたくらい。たかしげは彼女が出来たらしい。ちゃあぽんは相変わらず可愛かったし。そしてお母さんのお腹には四人目となる赤ちゃんが……というのはもちろん嘘だけど。


そんな家族を見てふと幼い頃を思い出した。昔から兄弟の一番上だったあ〜ちゃんは、自分がいつもどんな時もしっかりしなきゃって思って常に弟達の近くにいた。見ていて危なっかしいなと思ったらなんでも代わりにやってあげたし、それで「お姉ちゃんありがとう」と言ってくれる弟達や「お姉ちゃん偉いね」と褒めてくれる両親が大好きだった。
だから世話好きなのはそんな小さな頃からで、一番上の姉として義務だと思ってて。そんな義務をまっとうする自分が好きで、密かに自信にも繋がってた。その甲斐あってか、末っ子体質のゆかちゃんはもちろん、正真正銘一人っ子お嬢様なのっちもあ〜ちゃんを慕ってはくれているし。
でも最近、たかしげもちゃあぽんもしっかりしてきたと思う様になった。あ〜ちゃんがいなくても何だってやれる、そりゃあもうちゃあぽんも高校生だから当たり前なんだけど、寂しく思う。もっと頼って欲しいのに、あの頃みたいに世話を焼きたいのに。あ〜ちゃんが必要なくなったみたいで、辛い。
それはゆかちゃんもそうだ。友達も増えて活発で、人気者で。昔は何をするにも「あ〜ちゃんと一緒が良い」って駄々をこねてたのに。服にしてもアクセサリーにしても、似たようなのばっかで。そんなゆかちゃんも今じゃ自分に一番似合うファッションとやらを自覚して雑誌のモデルさんみたいにおしゃれさんだし。内気で大人しかった彼女は消えてなくなった。もちろん今のゆかちゃんも大好きな事にはかわりないんだけどね。
人って成長すると変わるんだな、ってつくづく思ったよ。小学生の時はちっちゃくて泣き虫だった男の子も高校行ったら長身のサッカー部のエースになってモテモテだったみたいだし。色んな女の子に告白されて自信を付けたであろうその子には高2の時に告白されたけど、小学生の時の体育のドッジボールで顔に当てちゃって大泣きされた思い出くらいしかなかったから丁重にお断りしたっけ。


それに比べて、のっちは昔のまんまだ。そっか、だからだ。だからあ〜ちゃんは手放せないのかも。



N-side



ゆかちゃんとやった次の日、あ〜ちゃんは帰ってきた。嵐のあの夜の出来事なんて忘れたみたいにご機嫌だった。お母さんはなんとも無かったみたいでほっとしたけれど、のっちもなぜかお母さんに会いたくなってしまった。お母さんもお父さんも元気かな、彩乃は元気だよ。後で電話でもしてみようかな。


「はいお土産」


それは定番のもみじ饅頭。びっくりするくらい定番すぎて、というかあ〜ちゃんにしては簡単というか単純すぎる。大好きな地元の雑貨屋さんのストラップとかかなと予想していたけど予想を大きく外れて場外ホームランだ。
のっちもゆかちゃんもしばらく唖然としていたけど、あ〜ちゃんが美味しい紅茶を淹れてくれたからそれと良く合って、「やっぱりもみじ饅頭が一番じゃ〜」とまったり和んでいた所に、突然鳴り響いたのっちの携帯。普段鳴らないから、びっくりしちゃうんだっつーの。


「ちょっとごめんね」


二人にそう言って、のっちは携帯を開いた。画面に映る名前は、先日一緒にライブに行ったあの子。別にやましい電話じゃないし、のっちはその場で電話に出た。


「もしもし、」
『あ、大本さ〜ん!ねぇねぇ、今ひま?』
「え、まぁ暇だけど…」
『これから妹とお姉ちゃんと朝まで今日フラゲしてきた林〇さんのDVDでお祭りしようと思うんだけど、もし良かったら、っていうか妹とお姉ちゃんが会ってみたいって言うから、あ、私ももちろん会いたいんだけど!って普通に迷惑だよねごめんね』


その子は一息でそれだけ話すと、急に静かになってのっちの返事を待った。どうしようかな、と二人にちらっと視線をやると「のっち友達おるんね」「前にライブ一緒に行った子じゃない?」「あーなるほど」などと完全にネタにされてて若干むっとした。だから「行く」って言っちゃったんだ。


「どっか行くの?」
「前にライブ行った子、一緒に〇檎さんのDVD見ようって言うから、ちょっと行ってくるね」
「何時に帰ってくるの?」
「分からんけど、多分泊まるかな」
「そう、」


あ〜ちゃんは微笑んで、玄関までお見送りしてくれた。その笑顔の奥の気持ちは、これだけ長い付き合いだけどやっぱり読めない。
聞きたい事はたくさんあるのにな。どうしてのっちがあ〜ちゃんを今も好きって言ったら泣いたの、とか、あ〜ちゃんは今はどう思ってるの、とか。あと勝手にベッド使ってごめんなさい…は、謝りたい事か。


「いってらっしゃい、気をつけるんよ?」
「うん、いってきます」


触れたいけど、触れたくない。あの頃は触れたくて触れたくて仕方のない時期だってあったのに。それが嘘みたいに今は、触れられない。あ〜ちゃんに彼氏が出来ない事をただただ祈るばかり。



K-side


のっちが行ってしばらくして、あ〜ちゃんはテレビを見ながらぽつりと呟いた。


「のっちの友達、どんな子なんじゃろ」
「気になるの?」
「のっちと友達になりたいって言うあ〜ちゃんの周りの子は、みんなのっちを狙っとるんじゃもん」
「あ、やきもち?」
「ちがいますー」
「それなら大丈夫だよ、超天然で彼氏もいるし、ただ本当に趣味の合う友達が欲しかっただけみたいだから」
「へー、可愛い子?」
「色白でちっちゃくて可愛いよ」
「可愛いんだ、あ〜ちゃんも会ってみたいな」


と言ってにこっとあ〜ちゃんは笑った。なんだか最近素直じゃないな、あ〜ちゃんは。あ、昔からか。悩んでても口にしない。口にしなくてもゆかなんかはすぐに気が付く訳だけど。


「あの嵐の夜さ、何があったの?」


唐突に、一番鋭い刃物であ〜ちゃんの胸をえぐってみた。出来るだけ優しくしたつもりだけど、やっぱり噴き出る血の量といったら大変なもの。そしてゆかも二番目の刃物を喉に突き付けられたみたいだ。喉の奥が震えた。


「のっちが、付き合うならゆかちゃんって」
「頭悪い発言だね」
「それでも好きなのは、あ〜ちゃんだって」


喉が裂けそうなくらい痛くて、簡単に柔らかい肌を刃が切り裂いたのだと確信した。血が出て目が回る。のっち、あんたもA型じゃろ、血分けてよ。
そう言ってあ〜ちゃんは泣くから、ゆかはその震える肩を抱き締める事しか出来なかった。触れるのが怖いのっちと、触れたいあ〜ちゃん、手に入れたいのっちと、それを嫌がるあ〜ちゃん。こんなにも人を好きになるってえげつない。刃物は鋭さを増すばかりだ。




「あ〜ちゃんも…、のっちが好きじゃ…」



あ〜ちゃんの努力は計り知れない。そんなのゆかが一番知っている。彼氏作ろうとした事もあった、もういっそ本気でゆかと付き合おうなんて考えた事もあったし、違う大学に行こうとも考えたよね、全部お見通しなんよ。いつでも君ら二人は自分の首を絞めたがる。それで理性が働くものだから、つくづく二人は性格が良いのだろうとゆかは感心するんだ。ゆかだったら絶対無理、すぐに逃げ出しちゃうもん。


「のっちを好きなの、やめれば良い」
「どうやったらやめられるん…」
「嫌いになれば良い」
「…なれんよ…」


のっちと同じ様に、あ〜ちゃんは言う。泣かないで欲しいのに。世界が暗くなるから、涙は流さないで欲しいのに。そんなに苦しいなら、やめれば良いんよ。これ以上鋭くなるなら、刃物なんて捨ててしまえば良い。
いらないんだよ、そんなの。ゆかはただ幸せになりたいだけなのに。幸せな二人の姿を、ずっと、ずっと見ていたいのに。血ばかり流して、眩暈がする。平気なふりしてるけど、全然平気じゃない。
恋ってなんなの、太陽から輝きを奪うな。



◇17:終◇






最終更新:2009年07月17日 23:47