Side K
家に着いたけど、まずはびしょ濡れのあ〜ちゃんをなんとかしなきゃ。
外で絞ってきたといっても、乾いてるわけじゃないし。
「今バスタオル持ってくるから、ちょっと待っててね?」
「ぅん。」
体冷えてるだろうから、お風呂も沸かしておこっと。
バスタオルを持ってあ〜ちゃんが待つ玄関まで戻る。
「…ごめんね?ゆかちゃんの服まで濡らしちゃって…。」
「ん?あぁ、こんくらい平気だよ?それよりあ〜ちゃんの方がびしょびしょなんだから、ちゃんと拭かないと〜、風邪引くよ?」
「…ぅん。」
一枚は足元に置いて。
もう一枚をあ〜ちゃんに被せて拭いていく。
わしゃわしゃと、あ〜ちゃんの髪の毛を拭いていると。
「ねぇ、ゆかちゃん…。」
「ん?」
一旦手を止めて、あ〜ちゃんの言葉を聞く。
「何で、あんなに似てるのかなぁ…。」
さっきからずっと弱々しいあ〜ちゃんの声。
…。
似てるって…あの人とのっちのことだよね?
「なんかあの二人、従兄弟なんだって。のっちが言ってた。」
なんだか言い難くて、またあ〜ちゃんの髪を拭きながらそう答えた。
「そう、なんだ…そっかそっか。」
納得したように、微かに笑うあ〜ちゃんの顔がタオルの隙間から見えた。
そこから、しばらくの沈黙。
今、何を思ってるの?
私はあ〜ちゃんの手や服を軽く拭き終わると
「はい、タオルの上に上がって良いよ?」
私のその声に、ずっと玄関に立ちっぱなしだったあ〜ちゃんは、靴を脱いで中へ入る。
あ〜ちゃんの足元も拭いてあげると、ちょうどお風呂のお湯が溜まった合図。
「あ〜ちゃん、お風呂で温まると良いよ。」
「ぅん。」
私は家に帰って来た時みたいに、あ〜ちゃんの手を引いてお風呂場に向かう。
ドアを開けてはいると
「じゃあ、ゆっくり温まってね?」
そう言って、出て行こうとしたけど、繋いでいた手は離されなくて振り返ると。
「ゆかちゃんも、一緒が良ぃ…。」
これは、だいぶ弱ってるね。
だからそのお願いに迷うことなく、分かったって答えた。
濡れた服を脱いでいくあ〜ちゃんの胸元には、一組のリングが仲良く揺れていた。
あの人が、付き合えたのが嬉しくてあ〜ちゃんに贈った唯一のプレゼント…。
きっと、手放すなんて出来ないよね。
Side A
ちゃぽん…。
膝を抱えてお湯に浸かるあたしの後ろから、ゆかちゃんがあたしを抱えるようにして入ってる。
二人で入ると、ゆかちゃんはいつもこうしてくれる。
あたしが退院して、ゆかちゃんと暮らすようになった頃は、良く一緒に入ってくれたよね。
新学期が始まって、彼とのことを知っている友達と話す時、嫌でも話題にのぼってくるから心が砕けそうになってた。
でも、やっぱり心配させちゃいけないと必死に笑顔をつくって。
それから、失う事への恐れで、あたしは自然と友達との距離をつくり始めた。
そんな自分が嫌だなと思ったり、情けないなって、気持ちが沈んでる時は決まってゆかちゃんがお風呂一緒に入ろう?って言ってくれた。
『言いたいことがあったら何でも聞くよ?』
『一人で悩まないで。』
『二人の時は無理しないで。』
ゆかちゃんの言葉は、他の誰よりあたしを支えてくれてた。
あたしが弱くなっても良い場所。それは今も変らない。
「二人で入るの久しぶりだね?」
耳元でゆかちゃんの声が響く。それがなんだか落ち着く。
「そうだね。」
「…今日のアレはキツかったね。」
「…ん。」
「…やっぱり、のっちが側に居るの嫌?」
「嫌じゃない…と思う。ただ、知るのが恐いの。」
知れば、きっと彼女との距離は近づくから。そしたら、失うものが増える。
だから恐い。
「そっかぁ。」
なぜか少し嬉しそうなゆかちゃんの声。
「あのね?」
「ん?」
「あたし、ゆかちゃんが来る前に、彼女に『ごめんなさい』って断ったの。でも『知ってるよ。』って言われて…。」
図書館でバイトしていて、彼と従兄弟なら。
「どこまで、知ってたの、かな…?」
いくら従兄弟で似てるっていっても…。
あたしに本を取ってくれたのは?
あたしに名前を聞いたとき、『あやちゃん』て言ったのは?
あたしの頭を撫でたのは?
あたしに告白したあの言葉は?
次から次へと浮かんでくる疑問。
…彼から聞いていたの?
違う。そんなはずない。
彼はそういうことをベラベラ話すような人じゃない。
分かってる…分かってるけど。
一人深みに嵌りそうになると。
「あ〜ちゃん。」
膝を抱えるあたしの腕に重ねられていたゆかちゃんの腕が、あたしの首へ回される。
それで、思考が元に戻る。
「あたしもそこまでは分からないけど。多分…」
少しだけ間があいて。
「のっちはのっちだよ?」
ふふwて笑いながら続けるゆかちゃん。
「のっちって人間関係とかで計算できない子だからw」
その言葉に、少し気持ちが軽くなったような気がした。
でも、計算できないのも一緒なんだw少し笑いがでた。
「あ、あ〜ちゃん笑ったw」
「ぇへwだって一緒なんだもん。」
それでも、彼女は彼女なんだって。
—つづく—
最終更新:2009年07月22日 21:39