季節は夏。
今年も暑くなるって天気予報のお姉さんが言っていたのを思い出した。
蝉の声を聞きながら、街を歩く私の額から一つ汗が流れた。
「あづいぃぃ」
「夏だからね」
「あ〜ちゃんはなんでそんな涼しい顔しよるんよー。暑くないの?」
「暑いにきまっとるじゃろ」
「ですよねー」
「暑い暑い言いよるけ暑いんじゃ」
「だって暑いんだもん」
怒ったように言うわりに、なんでそんな優しい顔するんだろう。
最近になってそんな事が気になる。
そっと隣を歩くあ〜ちゃんを見つめていると、その視線に気がついたのか不思議そうに首を傾げて見つめ返してきた。
「なに?」
「えっ?別に…」
「別にじゃないじゃろ。人の顔じろじろ見てたじゃろ」
「いやいや、かわいいな〜って思って」
「なっ!!なん言いよるんよ!!!」
「うわっ、叩かんで!うぉ…そこ、鳩尾…」
暑いって言ってるのに…更に暑くなったじゃん。
「自業自得じゃ…」
そう言って少し歩調を速めたあ〜ちゃんに慌てて追いかける私。
つれないなぁ。
「あ〜ちゃん、怒らんでよ」
「怒ってない」
「じゃぁなんでそんな眉間にしわ寄せてるの?」
そう言ったら慌てたようにおでこに手を当てて隠す。
「あの…意味なくね?」
「うるさい!」
耳が赤くなってるのを見て照れてるのが分かる。
「ちょっと、そんなスピード上げるとさらに暑くなるって」
「のっちがいけんのよ。いきなりなん言いよるんよ」
「あ〜ちゃんが聞いてきたから答えただけですけど」
「迷惑じゃ」
「なっ…褒めてるんだからいいじゃん」
「のっちに言われると褒められた気がせん」
「うっわぁ、それ酷くね?」
そんなやり取りをしてても私の心が満たされていくのが分かる。
これが幸せってやつか。
そう思ったら自然と頬が緩んでくる。
「何にやけとるんよ」
「にやけてませんけろ?」
「いんや、にやけよる」
「えー、だって楽しいんだもん」
「どこがよ。あ〜ちゃんは全然楽しくない」
「のっちはあ〜ちゃんと一緒におれたらそれだけで楽しいんですよー」
「…!!もう知らん」
あ〜ちゃんはそう呟いたと同時に走り出した。
「うぇ!?あ…あ〜ちゃん?ちょっと、待ってよぉ」
情けない声を出しながら追いかける。
「あ〜ちゃん!のっち倒れちゃう、暑さと疲労で倒れちゃうー」
「あ〜ちゃんは倒れん」
「いや、あの、のっちが倒れますから」
「のっちが倒れても知らん」
「えぇぇぇーーー…」
あ〜ちゃんの一言で走る気が失せた。
「のっちももう知らん」
なんだよー。
楽しかった気分が台無しじゃ。
さっきより暑くてかなわん。
数メートル先を走ってるあ〜ちゃんを見つめながらゆっくりと歩く。
しばらくするとあ〜ちゃんの足が止まって動かなくなった。
あ〜ちゃんも疲れたんじゃね。
ゆっくりと距離が近づいていく。
「のっち」
もう少しで隣に並ぶってくらい近づいた時にあ〜ちゃんが私を呼んだ。
「なに?」
「なんで追いかけてこんの」
俯いている所為でゆるやかなパーマの髪が表情を隠してしまっている。
「なんでって…」
「のっちは追いかけてこんといけんのよ!」
そう言って振り向いたあ〜ちゃんの目には薄っすらと涙が溜まっていた。
「ちょ、え、あ、その、あの…」
「分かった!?」
「はひ!」
睨みつけるように見つめられて嫌だとは言えません。
これは条件反射。
「よろしい。今回だけは許してあげる」
許してあげるって…。
「なんでのっちが悪い感じになってるん?」
「のっちが悪いからじゃ」
「…ようわからん」
「次追いかけてこんかったらゆかちゃんに報告するからね」
「なんでゆかちゃんが出てくるんよー。それこそ分からんわ」
困惑してる私をよそに、さっきとは違い楽しそうに笑ってるあ〜ちゃんを見てどうでもいいって感じてくる。
「まっ、いっか」
そう言ってまた2人で歩き出す。
今度はちゃんと隣に並んでゆっくりと。
「それにしても暑い…」
「夏だからね」
「あ〜ちゃんはあれだけ走ったのになんでそんな涼しい顔しよるんよー。暑くないの?」
「暑いにきまっとるじゃろ」
「ですよねー」
「暑い厚い言いよるけ暑いんじゃ」
「だって暑いんだもん!!」
『そしてまたはじめに戻る』
〜end〜
最終更新:2009年07月22日 21:45