N-side
クリスマスが終わり元旦が過ぎ、冬休みが明けてまた今日から学校が始まる。あ〜ちゃんともゆかちゃんとも最後に会ったのはクリスマスだった。ツリーの飾り付け楽しかったな、あ〜ちゃんと二人で作ったケーキも大成功してゆかちゃんも大喜びしてくれたし。
二人とも年越しはおばあちゃんの家に行ったみたいで、元旦に少しだけ積もった雪で小さな雪だるまを作ってはみたものの、やっぱり二人と一緒に雪合戦でもしたいなと寂しい気分で。だけどその夜にあ〜ちゃんから届いたメールには「昼間に作った雪だるまさん」というタイトルで、可愛い可愛い手のひらサイズの雪だるまの写メが添付されていた。一緒な時間に一緒な事をしてたのかと思うと、ちょっとだけ運命なんて感じたりなんかして。
早く二人に会いたい一心で、今日はやけに早起きで目覚めも爽やか。寝癖を直すのに苦労したけど、それでも口からは自然といつもあ〜ちゃんが歌ってるai〇oのメロディが零れた。
「おっはよー」
「おはよ!」
あ〜ちゃんは年が明けても可愛かった。クリスマスに一緒にケーキを作った時の髪を上げたエプロン姿を思い出して、ついついにやけてしまう。変態か、のっちは。一緒にいるゆかちゃんも可愛いや。本当に段々と綺麗になってくし。
けど気のせいだろうか、さっきからずっとのっちの知らない間に二人だけで見に行った映画の話をしているのは。その日、のっち確か暇でずっと家にいたんだけどな〜あれれ。おっかしいな。
「な、なんの映画見てきたの?」
恐る恐る尋ねる。普通に今人気の誰もが知ってる映画のタイトルが返ってきた。それは前から見たいと言っていた物で、もちろんのっちも誘ってくれるもんだと思っていたのに。なんかへこむ。
「なんで誘ってくれなかったのー」と冗談ぽく、あくまで平然として笑いながら言うと「だってメール返してくんなかったじゃん」と、あ〜ちゃんの言葉はこの冬の冷たい風より冷えきっていた。のっちを見る目は睨み付けているようにも見えた。
「メール…?」
「雪だるまのメール」
「あぁ、ちゃんと見たよ!可愛かったね、」
「だったらそう返事してよ」
なんで、久しぶりに会えたと思ったらこんななの。ずっと楽しみにしてたのに、ずっと会いたいと思ってたのに、まぁのっちが悪いんだけどさ、そんなのってないよ。ゆかちゃんも隣で困った顔して笑ってた。のっちのプレゼントした耳あては良く似合っている。
「……ごめんね」
冬休み明け登校初日から最悪だ。見える世界が白すぎる。なんでこんなに白いんだよ、絵の具を混ぜたらどんな色にだってなるくせに。黒くしてよ、それかあ〜ちゃんの好きなピンクにして。そうすれば少しは温まるだろうから。
「災難だったね」
始業式の最中、ゆかちゃんから届いたメールがこれだ。なんだかんだであぁなったあ〜ちゃんはゆかちゃんですら手が出せない。なんであんなに怒ってたんだろ、のっちがメールを返さない事なんて良くあるのに。写メは可愛すぎて待ち受けにしたのに。
寒い体育館では校長先生の長い話が続く。立ってんの疲れてきちゃったな、と思ったら前の子が首を回してコキコキと良い音を出した。周りもみんな退屈そうに欠伸したり携帯を弄っている。そんな中ちゃんと返事を打った。「ゆかちゃんが行こうって誘ってくれれば良かったのに」って、こんな時のっちって自己中で嫌なヤツだよなって自分でも思うよ。
それには「あ〜ちゃんも意地っ張りなんよ、大目に見てあげて」ってお姉さんみたいなしっかりとした返事が返ってきてしまった。分かってるよ、分かってるけど、メールを返さなかったくらいであんなに怒るあ〜ちゃんも変だよ。
長い話が終わって教室に戻る途中、あ〜ちゃんと階段の上と下で目が合って、手を振ったんだけど無視された。ホント、これキツいわ。泣きたくなっちゃう。あ〜ちゃんにとっちゃただの気まぐれかもしんないけど、のっちは凄く悲しいんだよ。弄ばないでよ、のっちの純情を。
教室で先生の話を聞いていると、またメールが届いた。ゆかちゃん…ではない、あ〜ちゃんだ。そこには一言「頭痛い気持ち悪い」って。体調が悪いのだろうか、すぐに「大丈夫?」と返事をした。「全然大丈夫じゃない死にそう」とすぐに返ってきたメールに胸騒ぎがした。あ〜ちゃんがこんなこと吐くなんて珍しい。
その時、廊下を通りすぎる一つの影が目に入った。あ〜ちゃんだ。良く見えなかったけど、隣を歩く子が心配そうにあ〜ちゃんの腰に手を当てている。保健室にでも行くのかな、一瞬で全身が緊張した。
◇
ホームルームが終わって、皆帰り支度をする中、のっちはあ〜ちゃんの教室にあ〜ちゃんの荷物を取りに行って、自分のバッグとそれを抱えて校舎裏に走った。除雪が疎かなそこは、足を踏み入れるのが困難だったけどスカートの下にジャージを装着したのっちに恐れなど無かった。ずぼずぼと深い雪に深い足跡を残しながら、一歩ずつ確かに進んでく。
そうこうしてると、また雪が降り出した。大きな大きな雪の粉、これはまた積もるに違いない。辿り着いたのは大きな桜の木の下、今は雪が乗って真っ白だけど、春には綺麗なピンク色の花を咲かす。
ちょうどそこから見える校舎の窓の向こうは保健室。閉じたカーテンの隙間から、ベッドに横たわるあ〜ちゃんの姿があった。別に覗きとかそんなんじゃないからね、少し様子を見に来ただけだから。堂々と正面きって様子を見に行くのが、今は少し怖いから。
のっちは辺りを見回し、ふとあの昔の光景を思い出す。小学生の時は三人で大きい雪だるま作って遊んだよね、でも次の日には誰かに壊されて下半分しか残ってなくて、ゆかちゃんとあ〜ちゃんは泣きべそかいたんだ。何も思い出せない事なんてないよ、のっちにとって二人が全てなんだから、今も昔も。
のっちは小さな雪だるまを作って、保健室の窓の縁に二個並べた。あ〜ちゃん、のっちはあの写メが凄く嬉しかったんだよ。だって昼間に同じ様にのっちも雪だるま作ったもん。その写メでも残しておけば「のっちも昼に同じの作ったよ!」って誇らしげに返事も出来たのに。すげぇ悔しかったんだ。
「よし、」
そうまた小さく呟いて、今度はちゃんと携帯のカメラを構えた。画面に映る小さく並んだ2つの雪だるまを捕えたその時、その向こうの窓が突然開いた。驚いて顔を上げる。あ、あ〜ちゃんだ。
「何やっとるんよ、ばか」
「いや、えっと……体調大丈夫?」
「少し横になったら楽になったけん」
「そっか、良かった」
「で、何をしとんのあんたは、覗き?」
「ち、違うよ!様子見に来ただけじゃ」
「だったらなんで窓から覗いとんのよ」
「う、…な、なんとなく」
苦しい、苦しい言い訳だ。走って逃げても無駄だろうから、ここは大人しく白状するしか…。
「うわ何これ、めっちゃ可愛い!」
あ〜ちゃんが手を伸ばした方向には、さっきのっちが作った雪だるまが。それにそっと触れると「ちめたっ」と言いつつ笑ってくれた。嬉しかった。今日初めてのっちに向けて微笑んでくれた。
「のっちが作ったん?」
「うん」
「あ〜ちゃんの、為?」
「そんな感じ…かなぁ」
「気付かんと寝てたらスルーしとったかもしれんよ」
「あ、ほんまじゃ」
「あはは、のっち可愛いね」
か、可愛い?のっちが?
可愛いなんて言われた事、ほとんど無いんだけどな。格好良いなら言われ慣れてるけど、なんか凄い、嬉しい様な恥ずかしい様な。
「のっち顔真っ赤じゃ」
「さ、寒いけん、」
「可愛いのぅ」
「さ、寒いけん言うとるじゃろ!のっち帰る!」
「ちょっと待ってよ、それあ〜ちゃんの荷物じゃろ!」
「あ、そうだった」
「もう、」
するとビックリ、よいしょ、と呟いたかと思うと、あ〜ちゃんは窓をよじ登っていた。のっちは困惑する。見上げるのっちに、見下ろすあ〜ちゃん。パンツ見えちゃうよ…って、よく見たらあ〜ちゃんもスカートの下にジャージ履いとるし。
「あ〜ちゃん、ヤバイって、」
「大丈夫よ、保健の先生おらんもん」
「だけど、」
「受けとめてよ?」
「な、」
受けとめてよ、なんてそんな殺し文句ずるすぎる。のっちはバッグを適当に横に放り投げ、大きく手を広げて身構えた。よし来い、のっちが受けとめてやる。
「おいで、あ〜ちゃん」
「行くよ」
高い声を上げて、あ〜ちゃんは飛んだ。
髪が舞い上がって、くしゃくしゃな笑顔が雪の反射する光で輝いて見えた。てかもう、全部光ってる。雪がまるで天使の羽根みたいだ。天使だ、天使がいる。のっちにはあ〜ちゃんの背中に羽根が見える。
「きゃーっ」
「うぐっ」
天使が胸に飛び込んで来た衝撃で、のっちはその柔らかい体を腕に収めたまま後ろに倒れてしまった。それでも柔らかい雪がクッションとなって痛くもかゆくもない。柔らかくてあったかい、なんて気持ち良いんだろ。無意識の内に強く抱き締めていた。
「あははは」
「ふふ、あはは」
あ〜ちゃんが大声で笑う。のっちも大声で笑った。視界の隅には並んだ2つの雪だるまが見える。
どうしよう、さっきまであんなに凹んでたのに、やっぱりつくづくのっちはあ〜ちゃん次第で気分がどうとでもなるんだな。なんて幸せなんだろ。
「のっちぃ、シカトしてごめんね」
「なん、良いよ別に」
「映画も誘わなくてごめんね」
「うん…もう良いよ」
「あ〜ちゃん、のっちに嫌われたくない」
「のっちはあ〜ちゃん大好きじゃけん、嫌わん」
「あ〜ちゃんも、大好きじゃ」
ぎゅっと強く抱き締める。
好き、大好き、あ〜ちゃん、のっちの気持ち、こんなにも強いよ。のっちはあ〜ちゃんを受けとめたから、今度はあ〜ちゃんがのっちを受けとめてよ。
「のっち最近…あ〜ちゃんが好き過ぎて辛いんよ」
「…え、」
「この好きって気持ちって、なんなのかな、友達としてじゃなくて、本当に好きってことなのかな」
「きっとそうじゃろ」
「ゆかちゃんも大好きだけど、あ〜ちゃんはなんか違うんだよ、ゆかちゃんに対する好きと違くて…なんて言えば良いんだろ、」
声が震えた。
このままじゃのっち達に雪が積もって生き埋めになっちゃうよ。真っ白な世界で、二人きりになっちゃうよ。
「のっち、」
「ごめん……離したくない」
「…うん」
「あ〜ちゃんを…のっちだけの物にしたいよ」
「うん…」
「女の子同士なのに、変だよね…」
「ううん、変じゃないよ」
あ〜ちゃんも、
そう呟いた声は、のっちみたいに震えていた。白く白く、溶けていく。
震える唇にそっと、冷たく冷えきった天使の口づけ。なんでこんなにも愛しい。白の世界は何色にでも染まる。簡単に色づいて、のっち達を包み込む。もっと染まってしまえば良い、二人の色でもっと染まれ、この世界。
あ〜ちゃんのペンキで、のっちの絵の具で、時にはゆかちゃんのスプレーを借りて。ずっと大切にするから、約束するから。この世界だけは、お願いだから奪わないで。
◇*:終◇
最終更新:2009年07月22日 21:48