「あ~ちゃん、俺と付き合ってくんない?」
はー。もう少しでツアーもファイナルだ。
かしおゆたかって。もっといい名前ないんかいね。
しかも日に日にチャラくなっとるし。
…それにしても最近、うちの王子様とお姫様は二人とも浮かない顔をしてる。
見てみい、のっちなんかさっきからテーブルの上に突っ伏したまま動かん。
そう思って見ていたら、
のっちが突然がばっと起き上がった。
「…ゆかちゃんにこんなこと言うのもなんなんだけど」
「ど、どうしたん?」
「はああ。なんか、すごいせつないんよねえ」
「あ~ちゃんのこと?」
「うん、まあ…」
また顔をテーブルの上に乗っけはじめた。
「あ~ちゃんはのっちのことどう思っとるんじゃろ」
のっちがあ~ちゃんを好きなことなんて、もう何年も前から知ってるけど。
今さらすぎてちょっとおかしい。さりげなくかまをかけてみる。
「どうって…もう、ちゅーしちゃったんじゃろ」
「なんでわかるん!」
「二人を見てればわかるけぇ。で、あ~ちゃんも拒みはせんかったじゃろ」
「すげー。やっぱゆかちゃんはすごいねえ」
目をキラキラさせてのっちが感心してる。でもすぐに表情を曇らせる。
「のっちのこと、すきって言ってくれんのよ」
「のっちは、ちゃんと言ったの?」
「そりゃ、まあ」
そうか。そりゃ王子も姫もご機嫌ななめ上なわけだ。
せつなそうに背中を丸めるのっちを見ると、なんだか急にかわいそうに思えてきた。
「あのときと同じ顔してから」
「あのとき…?」
「そんな顔見よると、こっちまでせつなくなってくるわ」
「ごめん。。じゃから、ゆかちゃんに言うのはなんかほんと、どうかと思うんじゃけど」
「別に謝らんでええけぇ。」
そう言って、私はつい後ろから抱きしめる。
「せつないねえ。つらいじゃろ。」
「…」
一年前。やっぱり今日と似たやりとりがあった。
「あ~ちゃんは好きな人いるのかなあ」
「さあ。あ~ちゃんは気まぐれじゃけね」
「うん…」
私はのっちの小さな背中を見て、つい気持ちが昂ぶってしまった。
「のっち。こっち、おいで?」
「えっ…」
やさしくしてあげたい気持ちと、ちょっとからかう気持ちで。
「ゆかがやさしくしてあげるけぇ。甘えてええよ」
「…」
「今日だけだから。ほら。」
私の膝の上に頬をすりよせて、のっちは簡単にお言葉に甘えてくる。
単純な子だなあ。でもかわいい。
「ゆかちゃんは細いねぇ」
「あ~ちゃんだったら、どんなかんじがすると思う?」
のっちは目をつぶってしかめっ面をした。
「それは今考えたくないけぇ…」
私はのっちのおでこに手を置いて、あやすように言った。
「いーい?のっち。」
「ゆかは、のっちのことすきよ」
「ゆかちゃん…!」
のっちが突然起き上がって私の手をつかむ。力が入ってる。
いやいや、のっち。相手が違うでしょ。
でものっちは真剣な顔をしてる。
あまりにかわいくて、私はつい、いじわるを言った。
「ねぇのっち。…キスしよっか」
「そ、そんなこと、許されんよ。だってのっちは…」
のっちの顔が赤くなってる。
「そんな顔せんで。ドキドキしてるくせに…」
耳元で囁いて、私はのっちにとって生まれて初めての、大人のキスをあげた。
後ろから抱きしめながら、私はのっちの耳に唇をつけて言う。
「・・・一年前の続き、する?」
「ゆかちゃん」
のっちの体が固くなった。
その気になりやすい子じゃねえ。笑えてくる。
「冗談じゃよ。だって、今ののっちなら」
「??」
「…たぶん我慢できなくなるじゃろ?」
大事なことを教えてあげよう。
抱きしめた頭をぐじゃぐじゃに遊びながら、ぽーっとしてる王子様に言ってあげる。
「なんであ~ちゃんが、あんなに明るくて、
いつもみんなを色んなとこに連れてってくれるかわかる?」
「…わからんよ、太陽みたいじゃけ。」
「あんたほんとにわかっとらんねぇ」
私の腕の中でのっちが振り向く。きょとんとした目。
「こっちを向かせる方法は簡単よ」
「…?」
「置いてかれたくないだけなんよ、あのお姫様は。」
「いーい?」
「うん」
打ち上げの店に移動。車を降りたらすぐ、私とのっちはあ~ちゃんより先を歩く。
「出来る限り、楽しそうに笑うんじゃ」
「でも、手までつないで…」
「そうしんと雰囲気出んじゃろ。絶対にあ~ちゃんの方振り返ったいけんよ」
あ~ちゃんの視線が自分の後頭部に刺さるのがわかる。
絶対に見とる。ニヤリと笑ってしまう。
「ゆかちゃーん。あ~ちゃんなんかかわいそうじゃ」
のっちが情けない声を出す。
「のっち。だからあんたはヘタレって言われんのよ」
「でもこれじゃあ。仲間はずれみたいでかわいそうじゃ」
王子様。もっとしっかりしてくれんかねぇ。
…打ち上げの間も私とのっちはしばらくぴったりとくっついていた。
あ~ちゃんは何でもないようなそぶりをしてるし、
のっちはのっちで効果ないわーと肩を落としてる。
不意に、のっちが誰かに呼ばれた。私は必然的に一人になる。
…来るぞ。
「かっしーはその、、好きな人とかおるん?」
あ~ちゃんが伏せ目がちで話かけてくる。きたきた。
「んー好きな人か。別におらんねえ。イケメン多すぎじゃろ」
「そっかあ」
このお姫も見かけによらず単純なところがある。
安心感いっぱいの笑みを浮かべる。
普通友達に好きな人おらんって答えられたら、つまんないって顔するとこじゃろ。。
さあ勝負はここから。私はにこにこして言ってみる。
「んーでも、近い人じゃったらうちの王子様とかいいよね」
「やさしーし、かわいいもん。」
「えっ…。そ、そうかなあ。ちょっと頼りなくない?アホだし眉毛ハの字だし」
「わかっとらんねぇ。そこがかわいいんよ」
「そーなん!?」
「昨日もなんかせつない顔してから、つい押し倒したくなってしまうんよね」
あ~ちゃんが完全に下を向く。意外と打たれ弱いんよね。
「あ~ちゃん。」
「…」
「あ~ちゃんてば。」
「じょーだんよ、じょーだん」
「そうなん?」
「今さら、さすがにあのヘタレはないじゃろ」
「そっかあ」
手を合わせて今度は笑う。甘い笑顔だなあ。
そりゃのっちもイチコロにもなるよ。
のっちもすきだけど、同じくらいあ~ちゃんのことだって大事だ。
私はいじわるな態度をやめた。
「今、昨日ののっちと同じ顔しとったよ」
「?」
「すきで仕方ないのに、どうしていいんかわからん顔」
黙りこくってしまったあ~ちゃんの頭をなでながら言う。
「すきって言えんのじゃろ」
「…」
「のっちは、すごくせつない顔しとったよ。あ~ちゃんがすきって言ってくれんて。」
あ~ちゃんが顔を上げた。目が潤んでる。
「…のっちがあたしを好きなのは気づいとった」
「ほうじゃろうねえ。わかりやすいもんね」
「でもすきって言えん」
「どうして?」
「…だって、うちらは三人でPerfumeじゃけぇ」
「ほじゃけえ、あたしとのっちが変なことになったら…」
あ~ちゃんは今にも泣き出しそうだ。
そんなことだろうと思った。あ~ちゃんはいつだって、三人のことを考えてる。
私はできるだけやさしい声で言う。いつもあ~ちゃんが言うセリフだ。
「だいじょーぶよ。8年もやってきたんじゃけぇ」
あ~ちゃんがびっくりした後、こっちを見て笑う。
「ゆかちゃん、それあたしのセリフ」
「たまにはゆかにも言わせてよ。ね。ゆかは全然だいじょーぶじゃけ。」
「でも、今さらタイミングがないよ。。」
「あ~ちゃん」
お姫様の肩に手をまわして、私は耳打ちした。
「ゆかに、いい考えがあるんよ」
「…ファイナルでね、のちおくんにちゃんと言ってあげんさい」
視線を先に向けると、数メートル先でのっちがこっちを見ているのがわかった。
愕然とした表情で口をぱくぱくしてる。
…のっち。
そんなわけないでしょう。あんたはどこまでアホなんよ。
(おわり)
最終更新:2008年10月10日 23:35