「へー、あ〜ちゃん一人暮らしなんだ」
「・・・うん」
「大学から近いの?どこら辺?」
「・・・大学の、駅から・・・えっと、3駅先のトコ、かな」
「ねぇ、ねぇ、今度行っていい?」
「・・・えぇ・・・ヤダ」
「なーんで!?いいじゃんwwうちら友達じゃろ?」
のっちに突然友達になってくれって言われて3日経つ。
今、あたしはバイトが終わりで疲れてて、早くお風呂に入って寝たい。
でものっちから携帯に電話が掛かってきた。
何か用事でもあるのかな?って、出たらただの世間話だった。
あたしは疲れ果てて不機嫌な態度丸出し。
それは、ただ疲れたから不機嫌な訳じゃない。
他にも不機嫌になる理由があった。
のっちの声の後ろから、知らない女の人の声が微かに聞こえるからだ。
「のっち、誰と電話してんの?」とか、「早く切ってよ。続きしてよ」とか、「あたし以外にも付き合ってるの?」
とか、その女の人もあたしと一緒で不機嫌な声。
のっちもたまにその人に「うるさいな、友達だよ」とか「ちょっと、黙ってて」とか「ちゃんと続きするから、待ってて」とか言ってる。
「・・・のっち、切るけぇ。別に今話す内容じゃないじゃろ・・・」
あたしは早く、携帯を切りたかった。
だって、のっちとその女の人がどんな格好で、どんな行為をしているのか想像したくなくても想像してしまうから。
「えぇー、ま、待ってよ。もうちょっといいじゃん」
「・・・てか、なに?なんで電話してきたん?」
「なんかね・・・急に、あ〜ちゃんの声が聞きたくなったから?w」
「そのセリフは友達に言うセリフじゃないけぇ」
そう言って、あたしは強制的に電話を切った。
そして、電源も切った。
携帯はテーブルに放って、お風呂に入ってベッドに潜って眠りについた。
眠りにつく瞬間、また想像したくないのに、のっちと知らない女の人がイヤラしい格好でイヤラしい行為をしているのを想像してしまった。
結局のっちのせいで、安眠出来なかった。
寝起きの顔を鏡で確認する。
あーあ、クマ出来ちゃってる・・・。
ファンデーションで隠れるかな・・・。
朝から最悪の気分。
これも全部のっちのせいだ。
なんであんな電話してきたんじゃろ。
あたしはとりあえずファンデーションを厚めに塗って、学校に行く準備をする。
そういえば、携帯の電源切ったままだった。
電源をONにして、メールを問い合わせてみる。
受信したメールは0件。
もしかしたらのっちからメールが入ってるかもって、少しでも期待した自分を殺したくなった。
「ふぁぁ・・・」
大きな欠伸をしながら駅に着いた。
あーあ、いつもより30分も早く着いちゃったよ。
「でけー、欠伸ww」
あたしの目の前になぜか、のっちがいる。
あたしはビックリして、欠伸した口を閉じられないでいた。
「あ〜ちゃんって、いっつもこんな朝早くに学校に行くん?」
のっちは眠たそうな目を擦りながら、あたしに近寄って来る。
よく見ると、のっちは昨日の服のまま。
あたしは昨日の電話の向こうのやり取りをまた思い出してしまった。
「な、なに?なんで、ここにいるんよ」
「だって、あ〜ちゃん昨日急に携帯切っちゃったでしょ?だからちょっと気になっちゃったんだよね〜」
のっちはすごいニコニコの笑顔。
朝っぱらからなにがそんなに楽しいんだろ。
のっちの眩しいくらいの表情に、無性にムカついた。
「ふーん。あ〜ちゃんこれから学校に行くから。じゃあね」
あたしは冷たくあしらう。
「えっ!?ちょっと待ってよ。まだ時間あるでしょ?一緒に朝ごはん食べない?」
のっちはあたしの腕を掴んで、駅前のコーヒーショップを指差した。
腕を掴まれた時、のっちから煙草と香水が混じった不快な香りがした。
あたしは強引にコーヒーショップに連れてかれて、一緒に朝ごはんを食べる羽目になってしまった。
のっちはベーグルを2個とブラックを注文。
あたしはおなかは空いてなかったから、アイスティーだけ。
のっちはあたしの分まで会計を出そうとしたけど、もう二度と借りは作りたくないからあたしは必死に断った。
のっちはおいしそうにムシャムシャとベーグルをおいしそうに頬張ってる。
前も思ったけど・・・のっちって食べてる時ってすごく可愛い、って思う自分をまた殺したくなった。
「寝不足?」
のっちは口にベーグルを入れながら訊いてきた。
「・・・別に」
図星だけど、当てられたのが無性にムカついて、こんな答え方になった。
「・・・のっちって、煙草吸うん?」
「ううん。吸わんよ?なんで?あっ・・・もしかして服に臭い付いちゃってた?」
のっちは犬みたいに自分の服の袖をクンクン嗅いでる。
じゃあ、煙草は昨日一緒にいた女の人が吸ってたんだ。
「てか、その格好・・・昨日と一緒じゃない?」
「うん。一度家に戻ろうと思ったけど、そんな時間なかったんだよねw」
「ここに寄らずに、まっすぐ自分んち帰ったら十分、学校に間に合うじゃろ?」
「んー、てか・・・早く、あ〜ちゃんに会いたかったんだよね。でへへ」
ケロケロした声で、とんでもない事を言う人だ。
でもね、のっち・・・昨日と一緒の服で、服に煙草と香水の臭いつけてそんな事言っても、全然説得力ないんだよ?
「はぁ・・・もう、学校行くわ」
あたしは半分呆れながら呟いた。
「んじゃ、あたしも一緒に行くよ」
「いやぁ・・・着替えに一度、家に帰りなさいよ・・・」
「シャワーは浴びたから、二日くらい同じ服着ても大丈夫、大丈夫w」
なんとも楽天的な人だ。
仕方なくのっちと一緒に登校する事になった。
あたしが乗る電車は下り方面だから朝でも座れる。
毎朝いつもの場所にあたしは座る。
今日もそこに座った。
いつもと違うのは隣にのっちが座ってる事。
のっちは座るとすぐに寝息を立てた。
しかも頭をあたしの肩に乗せて。
あたしは身動きが取れなかった。
のっちの頭が乗ってる右肩から、のっちの体温を感じる。
あたしも寝ようと思ったけど、その体温と煙草の臭いが邪魔して寝れなかった。
大学の駅に着いた。
あたしはのっちを起して降りた。
駅から大学までは徒歩5分以内。
あたしは、ハッとした。
のっちと一緒に登校しちゃったら、ヤバイじゃん・・・。
のっちは昨日と同じ服=朝帰り。
そんなのっちと一緒にいたら、その相手があたしだって学校の皆に絶対に勘違いされちゃう・・・。
「あっ、のっち。先行ってて。あ〜ちゃん、コンビニ寄るから」
「えっ、そうなん?んじゃ、あたしも行く行く♪」
そんな語尾に音符なんて付けなくていいから・・・。
この人、あたしが焦ってるの全然気付いてないの?
「じゃ、のっちだけ行けばいいんよ。あ〜ちゃんはまっすぐ学校行くから」
「えぇ!?どういうこと?なになにwwあ〜ちゃん、どしたん?コンビニ行かんの?」
「行かん!!」
「じゃ、あたしも行かない♪」
「のっちが行かないなら、行く!!」
「えぇ!?だから、なんでそうなるの?ちょっと、ウケるんだけどww」
「バカ!!笑うな!!」
「イデ!!」
あたしは笑うのっちに肩パンチをして走った。
ふぅ・・・なんとかのっちから逃げられたわ。
よかったよかった。
これでみんなに誤解されずに済みそう。
これで安心して講義を受けれそう。
あたしはいつものように、教室に入る。
「あ〜ちゃん、おはよう」
あっ、みんな来た来た。
「おはよう!!」
あたしは元気に挨拶を返した。
「あ〜ちゃんさ・・・水臭くね?」
「えっ?なにが?」
ドキっとした。
あれ、あたし何かしちゃったっけ?
「だって、興味なさそうだったじゃん」
えっ?何が?
「そうそう。別にうちらに隠す事ないのに・・・」
えっ、何も隠してないよ?
「いや・・・あ〜ちゃんは、遊びでヤル子じゃないと思ってたけど・・・」
えっ、遊びって何?
「あっ!!もしかして、本気になっちゃった?」
えっ、本気?
「止めときな・・・。みんな泣かされてるの知ってるでしょ」
えっ、何を止めるの?
「な、なに?ごめん・・・さっきから、全然話が見えないんじゃけど?」
「のっちと、昨日・・・ヤったんでしょ?」
「はぁ!?なにそれ!?」
あたしは全力で全否定した。
「・・・いいよ。大丈夫、うちら友達じゃん。あ〜ちゃんが、のっちとヤっても受け入れるよww」
「だから!!ほんとに、ヤってないから!!」
「だって、今朝のっちと一緒に学校来たじゃん。のっち昨日と一緒の服だったし。あ〜ちゃんちに泊まったんでしょ?」
ギャッ!!
さっき一緒にいるところ見られちゃったの!?。
さっきやった事が水の泡じゃん。
はぁ、、、どうしよ・・・。
「ほんとにのっちとはそういう仲じゃないんよ・・・。信じて」
「じゃあ・・・なんで一緒にいたの?」
「いや・・実は、、、3日前・・・ひょんな事からのっちに友達になってくれって言われたんよ」
「普通、友達になってくれって言う?ww」
のっちは普通じゃないけぇ・・・。
「ふーん。じゃ、ヤってないのね?」
「だから、ヤってないよ・・・」
「じゃあ、あ〜ちゃん!!のっち誘って、みんなで飲みに行こうよ!!」
え〜・・・なんでそうなるの・・・。
なんて、口が裂けても言えなかった。
この3日後、あたしとその友達3人とのっちと合わせて5人で、居酒屋で飲みに行く事になる。
あたしは飲みに行った事を後悔するのを、この時はまだ知らなかった。
出来る事なら3年前に戻って、その時の自分に警告したい。
行っても惨めになるだけだよ。
行っても怪我するだけだよ。
行ってもこれから後悔ばっかりする事になるだけだよ。
ってね。
最終更新:2009年07月22日 22:06