「まーた彼氏とメールしとるん?」
「ん?…うん」
彼女が彼氏と呼ぶ人は、本当は彼氏じゃない。
彼氏ということにしておけば、彼女は少し寂しそうな顔をするから。
私はそんなことで些細な優越感を得る。
「ちょっと、のっちも?」
「うへへー」
「二人してなんなんよ、もー…
あ〜ちゃん話相手おらんけぇ、もっさんとこ行く。」
少し不機嫌になった彼女は、のっちと私を置いて楽屋を出た。
静かな部屋に響く携帯のボタンを押すカタカタという音。
そしていきなり携帯を閉じる音。
「ゆかちゃん」
「何?」
「彼氏なんて居ないでしょ」
前とは違って締まりのある顔つきののっちは、その大きな目を私に向ける。
「何言ってんの…?」
「違うの?のっちは居ないよ、ホントは。」
「…」
「恋人ごっこしてるだけ。いや、してもらってるのかな。」
変な所が鋭いのっちは一度気付かれるとごまかせない。
私も携帯を閉じて、のっちと向き合う。
「…何でわかったん?」
「あ、当たってた?いやぁー…やっぱりうちら、似てるわ」
「どういうこと?」
「ゆかちゃんとさ、結構趣味とか感性とか似てるじゃん。
自分がそうだから、ゆかちゃんもそうなのかなって思って。」
「ふふっ、凄いね。でも、のっちはなんでそんなことしてんの?」
流石に私と同じ理由な訳がないと、のっちの理由を聞いてみる。
「きっとゆかちゃんと同じだよ」
「え…」
「あ〜ちゃんに振り向いて欲しいから。…違う?」
私の気持ちの本質を突かれたような気がして、はっとする。
そうだったんだ。
私がくだらないことで得ていた優越感は、彼女が振り向いてくれるから得られるもの。
私の持っていないものを全て持つ彼女が振り向いてくれたら、少しは劣等感を拭えると思っていた。
でも結局は、そうじゃない。
余計に劣等感を増長させている。
私が黙っているのを見て、のっちは何か理解したのか、フッと優しい目になる。
「あのさ…この前のっちが聞いたのにごまかしたこと、話してくれる?」
やっぱり気づいてたんだ。
強がってみせても、全部ばれてるみたいだね。のっちには。
「いいよ。でも、仕事終わってからね。」
つづく
最終更新:2009年07月22日 22:10