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帰ってきたのは明くる日の昼だった。あれからあの子の家に行ってお姉さんと妹とDVD見てケーキ食べて…人見知りなのっちだけど、かなり仲良くなれたような気がする。

「ただいまぁ」
「おかえりー」

そこにいたのは、ゆかちゃん一人だった。訳の分からない学ランの少年がいる。この子は確かゆかちゃんの受け持つ家庭教師の生徒さんで、名前は忘れたけどのっちと同じ様な髪型の子だ。
前にふざけた事を言ってたからあ〜ちゃんがお説教したんだっけ。あの時のあ〜ちゃん格好良かったなぁ。のっちガン見しちゃったもん。

「じゃあ、今日はこの辺で」
「あ、ありがとうございました」

頭を下げてそそくさ去っていく少年を、ゆかちゃんは手を振って見送った。その一連の様をぼーっと見ていたのっちは、ようやく口を開く。

「あ〜ちゃんは?」
「デートだってさ」
「デート!?」
「女友達と二人でショッピング」
「なんだよ〜もう」

一瞬焦っちゃったじゃないか。のっちのリアクションが面白かったのか、ゆかちゃんはニヤニヤ笑ってる。悪趣味な小悪魔め。

「あ、そういえば昨日の夜さ、」
「ん?」
「ゆか、あ〜ちゃんとヤっちゃった」

何も悪くないみたいにゆかちゃんはずっと変わらず笑ってる。確かに悪くない。驚いた。驚いたなんて嘘、頭を割られたみたいな気分。

「あ〜ちゃん可愛かったよ」

気が付いたら、ゆかちゃんをソファーに押し倒してた。いや、これも嘘、気が付いたらなんてそんなのただの責任逃れ。気が付いたらゆかちゃんの細い首を両手で…って、これも嘘。

「はぁ、はぁ」
「ぅ……あ」

ゆかちゃんの顔が歪んでる。苦しそうに、のっちの手首を掴んで抵抗するけど、のっちはその手の力を緩めない。エロい眼鏡の奥の目からぽろりと一滴が零れた。
そして小さく唇が動く。

嘘、って。

まじかよ、この悪魔。



バタン、と背後で音がした。

「のっち!」

これはもちろんあ〜ちゃんの声。腰を掴まれ乱暴に引き剥がされる。のっちは床に横たわり、ただただ天井を見上げてた。ゆかちゃんの咳が止まない。頭打った。超痛い。痛くて涙が止まらない。ゆかちゃんの柔らかい首の感触が、忘れられそうにない。

「げほ、げほ」
「大丈夫?ゆかちゃん、」
「ぅん…大丈夫、」
「……」


のっちもう、ダメかもしんない。





その夜、部屋にやってきたのはゆかちゃんだった。絶対仕返しに来たんだ、のっちを殺しに来たんでしょ。
あれから大変だった。のっちは右の頬っぺたにあ〜ちゃんのビンタを食らって今も真っ赤だし。ゆかちゃんはなんとも無かったみたいだけど、首にはくっきりとのっちの指の跡が残ってた。

「…昼間はごめんね」
「ううん、良いよ」
「…本当にあ〜ちゃんとは…」
「しようとしたよ、しようとしたけど、あ〜ちゃんが途中で泣いちゃってさ」
「…しようとしたんだ」

ポタ、と開いた漫画に何かが零れた。あーダメだ、涙腺が弱ってるのかも。泣いてばっかだ。涙ってどれだけ流せばタンクがすっからかんになるんだろ。果てないのかなぁ。

「泣かんでよ」
「ゆかちゃん…」
「…ちょっと」
「エッチしよ」
「まじで言ってんの?」
「…まじだよ」

さっきからずっと想像しちゃうんだ。あ〜ちゃんが、ゆかちゃんに抱かれてるのを。凄くやらしい、あ〜ちゃんの姿。何がしたいんだろ、自分は何を考えてるんだろ、最低だ。自分エロすぎ。

「あ〜ちゃん部屋にいるんだよ?」
「知ってる」
「……」

漫画を置いて灯りを消してベッドの端に転がると、ゆかちゃんもベッドに入ってきた。無抵抗なのっちの服の中に何のためらいもなく手が入ってきたし。

「…なんでこんなに濡れてんの?」

それは、ずっと想像してたから。ゆかちゃんに抱かれてるあ〜ちゃんが、凄くやらしい顔してたから。

「ゆかちゃんとあ〜ちゃんがエッチしてるの想像してた」
「…変態」
「どうせのっちは変態ですよ」

ゆかちゃんの指がゆっくりと入ってきた。のっちはゆかちゃんの唇を強く吸う。そしてゆかちゃんのもう一方の手が、のっちの首を掴む。ゆかちゃんの大きな手が、首を絞める。

「あ、ゆかちゃ…、」
「変態」

下半身が熱い。ゆかちゃんの動きは乱暴で、優しさの欠片もない。元から愛し合う為の行為でないんだ、のっち達の場合。慰め合ってるだけ、傷を舐め合ってるだけ。
ぐちゃぐちゃって気持ち悪い音が聞こえる。のっちのあそこから出てる音だと思うと、気分が悪くなる。息は出来ないし意識は遠退く。ダメだ酸素が足りない。けど気持ち良い。

「あっ……」

最後まで見えていたのは、あ〜ちゃんのやらしい所だった。あ〜ちゃんが足を開く姿なんて見たくない。誰かの前で裸になるなんて絶対に嫌だ。だけど想像したら興奮する、のっちはどこまで変態なんだろ。

「イっちゃったね」
「はぁ、はぁ、げほっ」
「変態すぎー」

乾いた声でゆかちゃんは笑った。絞められた首が痛い。本気で首絞めよったし。しかも笑ってた、凄い悦が入ってた。ゆかちゃんもかなりの変態としか思えないよ。










「ねぇ、」

ゆかちゃんが急に話しだすから驚いて心臓が一瞬強く高鳴った。もう寝たと思ってたのに起きてたんかい。

「前にのっちさ、あ〜ちゃんがゆかになら抱かれても良いみたいなこと言わなかったっけ?」
「あー…言ったかも」
「あれ嘘だったの?」
「そうなるね…もうよく分からん」

低く唸って、のっちは枕に深く顔を埋めた。ゆかちゃんの指がのっちの髪を弄っているのが分かる。くすぐったい。
もう訳分かんない、訳分かんないんだよ。のっちはどうしたいの。あ〜ちゃんをどうしたいの、あ〜ちゃんとどうなりたいの。ゆかちゃんの首にこんな跡まで付けて、どうなりたいんだよ。

「苦しいね」
「…うん……」
「あ〜ちゃんも苦しいんだよ」
「うん…」
「苦しんでる二人の姿を見るの、ゆかも苦しいんだよ」

ふわりと柔らかい腕の中に包み込まれた。あ、前と同じだ。この前あったよね、これと同じ感じ。デジャブってやつ?
繰り返してんだ、のっち達。何回繰り返せば気が済むんだろ。もう嫌なんだって、早く抜け出したいんだって、なのにそう出来ないのは自分に勇気が無いからで。苦しんで、苦しんで、苦しんだらいつかは報われると心のどこかで思ってる甘ったれた自分がいて。神様が「そろそろ楽にしてやるよ」って情けでもかけてくれるような気がして。

こんなんじゃあ〜ちゃんもそろそろのっちを見離すだろうな。いっそ見捨ててくれた方が楽かもしんない、そうしたら諦められるってもんだ。もう二度と手に入れようだなんて思わないから。
宙ぶらりんのまま、こんな曖昧な関係のままだから、こんなにも悩むしこんなにも辛いんだよ。安心だけど不安で、近いけど遠くて。だから離れてしまおうか。あ〜ちゃんのいない世界で生きて、死んで天国で再会しよう。その頃にはきっと全部伝えられる。現世であ〜ちゃんがどんな男の人と結婚して何人子供を産もうが構わないから、あの世でその体を一度ぎゅっと強く抱き締めさせてくれればそれでのっちは最高に幸せだから。
人生は一度きりだから後悔しないようにだなんて、のっちには何の激励にもなんないんだよ。西脇綾香っていう女の子と出会ってしまった時点でのっちの人生は終わってしまったんだ。このままダラダラ年だけ喰って死んでくのと明日事故で逝っちゃうのとどっちも変わんないよ。あ〜ちゃんの存在はのっちの生きる意味なのに絶望だ。希望と絶望って紙一重なのかも。


って、どんだけ。


◇18:終◇





最終更新:2009年07月22日 22:15