みんなにのっちとの関係がバレて、あたしはのっちを飲み会に誘わなくてはならなくなった。
しかも幹事という、非常にめんどくさい役割も押し付けられた。
あたしはのっちの携帯に電話する。
3コールで出た。
「あっ、もしもし?あ〜ちゃんだけど・・・」
「んー、なになに?あ〜ちゃんから電話してくれるのって、初めてじゃない?」
のっちの声は明るく弾んでいて、とっても嬉しそうだ。
「あー、明後日って夜ひま?みんなで飲みに行こうって言っとるんじゃけぇ、よかったらのっちも来ない?」
「・・・それって、あ〜ちゃんも、もちろん参加なんだよね?」
本当は参加したくないんだけどね。
「うん・・・。あ〜ちゃんが幹事じゃけぇ」
「そんなら、行く!!必ず行く!絶対行く!!何があっても行く!!チョー、楽しみ♪」
のっちの声は一段と明るく弾んだ。
飲み会当日。
のっちは予定の時刻に現れなかった。
あたしはみんなからクレームを受けた。
のっちのせいであたしがみんなに非難されるって、割に合わない。
みんなにブーブー言われて、予定の時刻から10分くらい経った頃のっちが来た。
のっちは遅刻してるのに、急ぐ素振りを一切見せなかった。
それがすごくムカついた。
あんたのせいで、あたしが怒られたんだから!!
「あは、ごめんね。前の用事が長引いちゃって、遅れちゃった」
笑いながら謝られてもムカつくだけですけど。
みんなはのっちには一切怒らなかった。
それもムカついた。
あたしはのっちと一番遠い席に座った。
てか、そうなるしかなかった。
みんなのっちの隣に座りたがったから。
会話はのっちを中心に回ってる。
女の子に囲まれてるのっちは上機嫌でベラベラ喋り捲ってる。
「のっちって、今まで何人と付き合ったの?」
「んー、わからん。覚えとらん。てか、そんなん覚えとく必要なくね?」
「女の子が好きなの?」
「うん。特に、可愛い女の子が大好き。女の子の身体って柔らかいから、病み付きになるんだよねww」
「男とは付き合った事ないの?」
「あるよ。あたし、両方OKな人なんだよね。そうすると、2倍楽しめるでしょ?w」
「今、付き合ってる人いるの?」
「いない。だって束縛とかめんどいでしょ?楽な関係が一番だよww」
この前、人見知りだから友達が出来ないって言ってたけぇ。
これのどこが人見知りなん?
めっちゃ、社交的じゃけぇ。
しかもニヤニヤしてて顔の締りが緩みまくってるし。
そもそも、あたしだけ会話に入れてない状態だし。
ふん、のっちが中心の会話なんて入らなくてもいいけど!
「のっちって、酔うとキス魔になるって聞いた事あるんだけど、本当?」
「なにそれw誰から聞いたん?あはは、らしいよ?」
「じゃあ、さ・・・あたしにしてみてよ」
「・・・まだ酔ってないけど、していいの?」
「うんw」
「積極的だねw」
のっちはあたしの友達の一人ににキスをした。
それは、あの時のっちと初めて会った時に他の女の子にしてたキスと同じだった。
他の子は、キャーキャー楽しそうにそれを見てる。
あたしはその光景を見て、気分が悪くなった。
お酒のせいで気分が悪くなった方が良かった。
だってのっちのキスを見て、気分が悪くなったって認めたくなかった。
それを認めると、のっちを意識してるって事になるから。
あたしはどっちに酔ったの?
あたしは何もする事がなく甘いカクテルをガンガン飲んだ。
自分が幹事だって事を忘れるくらい飲んだ。
案の定、飲みすぎてさらに気持ち悪くなった。
うぇぇ・・・吐きそう・・・。
あたしは急ぎ足でトイレに向かった。
トイレの戸を閉めた瞬間に、吐いた。
さっきまで食べてた物が出た。
さっきまでモヤモヤしてた気分も一緒に出したかったけど、それは無理だった。
「・・・あ〜ちゃん?大丈夫?」
トイレの洗面室で口をゆすいでると、後ろから声が聞こえた。
鏡越しでのっちと目が合った。
のっちはあたしの背中を優しく擦ってくれてる。
のっちの手は洋服越しでも温かかった。
「平気?吐いた?」
あたしは首を縦に振るだけ。
「まだ気持ち悪い?」
のっちは優しく訊いてくる。
眉毛がハノ字になってる。
あたしはまた首を縦に振るだけ。
「みんなの所、戻れる?」
のっちは優しくあたしの肩を抱いて支えてくれた。
あたしはその手を振り払った。
のっちは少し驚いた顔をした。
「ひとりで、戻れるけぇ・・・」
あたしはそう言ってトイレから出た。
のっちの優しさがムカついた。
ムカついたから、手を振り払った。
ただそれだけ。
そんな気にするような事じゃない、よね。
そもそも、なんでそんな優しくするん?
あたしなんてほっといて、他の子と楽しく過ごせばいいじゃない。
あたしの事なんてほっといてよ。
優しくしないでよ。
あたしはみんなの所に戻って、なんとか会計を済ませた。
どうやら二次会に行くことになったみたいだけど、さすがに気持ち悪いから断った。
「そっか、ひとりで帰れる?」
「うん。大丈夫じゃけぇ。まだ電車もあるし。気にしないで、二次会楽しんで!」
「わかった。気をつけてね。じゃ、のっち次のお店行こう!!」
みんなはあたしの心配よりも、のっちと一緒にいる方が大事みたい。
もう別にどうでもいいけど、それがちょっと寂しかった。
あたしはヨロヨロしながら駅に向かう。
足がふら付いて、コケた。
酔ってる時にピンヒールは危ない・・・。
小学生みたいに膝を擦りむいてしまった。
血が出てきた。痛い。
コケたせいで、足首も捻ったっぽい。
あー、もう・・・踏んだり蹴ったりの飲み会だ。
泣きそう。
なんかすごい自分が惨めに感じた。
ヤバイ、マジで泣きそう。
「・・・あ〜ちゃん?大丈夫?」
そのセリフ、さっきも聞いたような・・・。
うずくまってて地面を見てた目線を上げる。
そこにはハノ字眉の顔したのっちがいた。
のっちもしゃがんで、あたしと同じ位置の目線になった。
「どしたん?気持ち悪くなったん?」
「・・・コケた」
「コケた!?マジで!?大丈夫?」
「膝、擦りむいた。足首も捻った」
「マジで!?あ、ほんとだ。血出とる・・・」
のっちはすごく心配している顔。
のっちが来てくれてホッした自分がいる。
のっちに助けてもらおうと思ってる自分がいる。
でもそれを全力で拒否したい自分もいる。
素直に助けてって言えたらどんなに楽だろう。
あたしは言えない。
のっちにだけは何故か言えない。
「家まで送ってくよ」
「いい。大丈夫、あ〜ちゃんひとりで帰れるけぇ」
「大丈夫じゃないじゃん。酔ってて、膝擦りむいて、足捻ってんだよ?」
「大丈夫なんよ!てか、なんでのっちここにおるん?はよ、二次会行きんさいよ」
「・・・こんなあ〜ちゃん見て、二次会なんか行けないよ」
「みんながガッカリするじゃろ」
「あの子たちなんでどうでもいい!!あたしは、あ〜ちゃんの方が100倍大事なんだよ!!」
「・・・・」
「あ〜ちゃんが何言っても、無理にでも家まで送るから!!」
「・・・」
強気なのっちを初めて見た。
あたしはビックリして何も言い返せなかった。
のっちは電車の中でも、駅からあたしのアパートまでの道のりも無言だった。
ちょっと怖かった。
「あっ・・・ここがうちだから・・・もう平気じゃけ」
「・・・うん」
やっと口を開いた。
「あ、ありがと」
「ううん」
やっと笑ってくれた。
のっちの笑顔を見てホッした。
それを見てあたしも気持ちと口元が緩んだ。
「あっ、やっと笑ったww」
ケロケロしたのっちの声。
「え?」
「だって、今日ずっと、あ〜ちゃん仏頂面だったんだよ?気付いてなかった?」
「うそ・・・」
「ほんとだよ。よかったー、あ〜ちゃんの笑顔が見れて。これで安心して帰れるよ。じゃあね」
のっちはニュって八重歯を見せて笑って、手を振って去った。
あれ、痛い。
膝が痛い理由はコケて擦りむいたから。
足首が痛い理由はコケて捻ったから。
じゃあ、胸が痛い理由は、なんだろ・・・?
実は痛みの理由はわりとすぐ後でわかった。
わかったけど、わかりたくなかった。
認めたくなかった。
その胸の痛みは3年経っても、未だ消えない後遺症になって残ってる。
最終更新:2009年07月22日 22:28