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《現在》


サイドN


結局あの時抱き締めたとしても、何も変わらなかったんだろうな。それはあ〜ちゃんだけじゃなくて、のっちもさ。
じゃあさ?今、あ〜ちゃんを抱き締めて、『ごめんね』って言えたら何かが変わる?
違う。それもだめだよ。変わんない。
あの時とか、今とか、時空は関係なく、起こってしまった出来事を無かったことにできない限りは、あの頃の二人には戻れないよ。そうでしょ?
そう、だから、お互い無かったことに出来る程大人じゃないから、答えは一個しかないよ。
もう無理なんだ。今更どうあがいて必死になったところでさ。
最後に二人で『さよなら』を言い合ったのに、のっちちっとも終わりになんかできてないよ。
ねぇあ〜ちゃん、あんなただの一つの言葉で、いったい二人の何が終わったの?
のっちはさ、本当に伝えたいこととか、言いたいことが、他にいっぱいあったはずだったのに、
もう進むこともできずに行き場をなくしたのっちの言葉たちは、空に消えてったよ。ほらね。やっぱり空っぽなの。

あ〜ちゃんが悲しむから、せめて泣かないように。って、そう思って我慢してたけど、やっぱり泣いとけばよかったかな。
無理して『幸せになってね』なんて、かっこつけなきゃよかった。
だって、本当に伝えたかったのは『幸せにするよ』だったんだもん。まったく無責任だよね。
だけど、そう言ってたら何か変わった?いや、それでも変わらなかったかな。
あ〜ちゃん優しいから、多分『してあげて?』なんて、はぐらかすんだろうな。あの顔でそう言うんだろうな。


ねぇあ〜ちゃん、全部無駄じゃなかったよね?全部偶然でもなかったよね?
間違いなく、のっちとあ〜ちゃんは運命だったでしょ?あの頃二人で言ってたもんね。
あ〜ちゃんに出会えたことも、恋をしたことも、そして愛し合えたことも、全部無駄じゃなかったし、全部偶然じゃなくて、運命だったでしょ?
だけどさ、あ〜ちゃん。
残念なのは“別れ”までもが運命だったことだよね。




《過去》


サイドN


引き合わせた体は、いとも簡単に体温までもがマッチした。それはそれは二人の熱で、このベッドシーツが燃えるんじゃないか?って程に。
何度も見てきたこの体。本当はもう見るべきじゃない。そんなことわかってるのに。
最低だ、自分は。最低なんだな、自分は。
何度も何度も頭の中で思うのに、それは頭の中だけでとどまって、心までは入ってこなかった。
だって、かしゆかが笑うから。
だめだ、だめだ、のっち。だめだぞ、のっち!
何度も何度も頭の中で思うけど、やっぱり心の中までは入ってこなくて。
のっちの口から『やめよう』なんて、とてもじゃないけど出てこないよ。
だって、かしゆかが笑うから。

かしゆかだって、本当はまだまだ子供なくせに、そんなかしゆかより、さらに子供なのっちの前では急に大人になったみたいに笑うんだもん。ずるいよ、ゆかちゃん。
だけどさ、いつものっちの“半歩前”を歩いてるのに、その距離は決して“一歩”にはならないんだ。
どんなに先を急いでいても、どんな未来を描いていても、必ず二人の手の繋がる“半歩前”で待っててくれるんだ。
のっちがはぐれないように。寂しい時、寂しいって言えるように。本当、ずるいよ、ゆかちゃん。

のっちが抱き締める相手は、もうかしゆかじゃないこともわかってる。かしゆかだってわかってる。
本当に抱き締めるべき相手が誰なのかもわかってる。かしゆかだってわかってる。
なのに、なんで、これ程までに求め合ってしまうんだろう?
それでも心の中までは入ってこなかった。
だって、かしゆかが笑うから。





最終更新:2009年07月22日 22:43