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岩のようにずっしり重い身体を引き摺って、電車に乗り込む。
昼下がりの快速電車はガラガラで、サラリーマン風の人や主婦や学生がポツリポツリと座っているだけだ。


一番端の席を陣取って、沈むようにシートに身を預けた。
それと同時に洩れる深いため息。


まったく、、どうして数少ない授業がこんな日に限って重なってるんだろう。。



昨夜は、なんだかいい気分でのっちの作るお酒を飲んでいた。
だけど覚えているのは、珍しくスローなミディアムナンバーが流れていたクラブ内でのことだけ。
それからどうやって家まで帰ったのかは、まったく覚えてない。


起きた時には髪の毛はボサボサだし、頭はガンガン痛むし、胃はムカムカするし。。
完全な二日酔いだ。


だけど、目覚めたのは一人きりのベッドの上で。
ちゃんと部屋着にも着替えて、しっかりメイクも落としてあった。


テーブルの上には、頭痛薬とキャベジンが並べて置かれていて。
ゴミ箱には、真っ黒に汚れたメイク落としシートが2枚分。
ソファーの上には、あたしが昨日着ていた服が畳まれていた。


どれだけ面倒見のいい子をお持ち帰りしてしまったのかと、血の気が引いていくのを感じたけれど、
ベッドサイドに置きっぱなしにされた見覚えのあるピアスにほっと胸を撫で下ろした。

それは、のっちのお気に入りの星のピアスだった。


月明かりの下でのっちの背中に揺られていたことを思い出した。
どんな会話をしたかなんて、まったく記憶にないけれど。

きっと、あのまま寝てしまったあたしを送り届けて、世話をしてくれたんだ。

そして、珍しくあたしよりも先に起きて帰っちゃったんだろう。
起こしてくれればいいのに。


彼女らしくない行動にいくつか疑問を感じながらも、
シャワーを浴びて、髪の毛を乾かして、メイクをして、、

なんて慌ただしく支度をしているうちに、そんなことは頭の隅に追いやられてしまった。




少しは身体のダルさや重みが取れてきたところで、電車はいつもの駅へ着く。
改札をくぐって、ふといつもの癖で耳を触るとピアスをし忘れて来たことに気づいた。


あーぁ、お気に入りのハートのピアスだったのに。
どうして、こうモヤモヤすることって重なるんだろう。




ああ、そうだ。あとでのっちにお礼のメールをしておかなきゃ。
どうせ、返事は帰って来ないんだろうけど。
それから、、、今日はあ〜ちゃんと一緒に帰れる日だから、図書館で時間でも潰してー・・・・


そんなことを思いながら、いつもの様にバス停へ向かう。


途中、突然誰かに腕をひっぱられ、支柱の影に引き込まれた。
突然の出来事に抵抗する暇もない。


「ちょ、なっ・・・」


あたしの腕を掴んで、笑みを浮かべる人。
それは確かに見覚えのある人だった。


「ひさしぶり」


そう。
何度か身体を重ねたこともある。

理由なんて、ただひとつ。


「あ、やか・・・」


名前が同じだったから。
ただそれだけ。


いつもみたいに一夜限りの関係で終わるはずだった。
朝になれば、さようなら。

そんな関係のひとつに過ぎないはずだった。


だけど、あたしの失敗は、この子が同じ大学の子だと気づかなかったこと。


「あはwそんなビックリしなくても」


女の未練は、時に憎悪へ変わる。


そんなドロドロした世界、何度だって見てきたつもり。
だから、それをうまく交わす術も自然と身に付いていた。

そうやって、うまく交わしてきたつもりだった。


「またさぁ、あたしとも遊んでよ?」
「・・・付き合ってる人いるから」
「西脇、さん?」
「・・・カンケーない」


あ〜ちゃんだけは、そんな世界に巻き込みたくなかったから。


「と、、彩乃?」
「え・・・」
「のっち、って言った方が分かるよね?」


警告受けたの。


彼女の口から出た、その名前に。
嘲笑うような、その笑顔に。



なんで?
なんで、、この子がのっちのことを知ってるの??



「びっくりしたよ。まさかねえ」
「・・・てよ・・」
「あの、のっちとゆかが」
「やめてっ!」


聞きたくない。
他の人の口から、あたしの知らないのっちのことなんて。
聞きたくないよ。


「今すぐ、あたしの前から消えて」


早くここから逃げなくちゃ。
関わっちゃいけない、と心が急かす。


「あたしね、さっき、西脇さんに会ってきたよ」


ドクンッ。


「・・・何したん?」


あ、ダメだ。

そう思った時にはすでに、あたしは彼女の胸元に掴みかかっていた。


「あ〜ちゃんに何したん!?」
「こっわwアンタも取り乱すことあるんだね」
「あ〜ちゃんに何したんだって聞いてんだよっ!!」


怒鳴り声をあげて、女に掴みかかる女。
周りの人たちは見てはいけないものを見てしまったような顔をして足早に通り過ぎていく。


「何もしてないよ」


腕を振り払われると、足が少しだけよろけた。
身体に力が入らない。

だけど、厭らしい笑みを浮かべたままの彼女を睨みつけることだけは忘れなかった。


「ただ、本当のことを教えてあげただけよ」



——ほら、よく撮れてるでしょ?


そう言って、彼女が付きつけたケータイ画面。


そこに写っているのは、重なり合うふたつの人影。
暗闇ながらも、街灯にわずかに照らされた横顔はその二人が誰なのか、はっきり判別することができる。


「身から出た錆、でしょ?」


それは、
いつものクラブの裏口でキスをしている、あたしとのっちだった。




ドクッ、
ドクッ、


うるさい。
うるさい。

動悸が激しくなっていく。


「な、んで、、今更、こんなこと・・・・」
「別に未練があるわけじゃないけど、、」


ひゅう、
ひゅう、


苦しい。
苦しい。

喉の奥を冷たい空気が通っていく。


「ただ、ちょっと悔しいから仕返しに来たの」


誰かにつけた傷は、いつか自分へ返ってくる。
それは苦しいほど残酷な現実と一緒に。



分かってたはずでしょ?


時計の針を止めるなんて、
醒めない夢なんて、


虚構に過ぎないって。



「ねぇ、知りたい?」



やめて。
これ以上、


揺らさないで。
掻き乱さないで。


あたしの世界を。


奪わないで。
崩さないで。


あたしの今を。



「西脇さんがどんな反応したか」



やめて・・・


壊さないで!




to be continued...





最終更新:2009年07月22日 22:54